時間戦士は永遠の夢を見るのか・番外編「あれは私?」
これは「時間戦士は永遠の夢を見るのか」本編が始まる以前、アミカナが起動した直後で、番外編「私と私」よりも前の出来事になります。
<遥か未来、アミカナが起動した直後>
ベッドの上に横たわった、銀色の華奢な肢体のアンドロイドには、顔の部分にのみ、ミカにそっくりの容貌を持つ人工皮膚が貼り付けられていた。その青色の瞳が、こちらに向けられている。
「さて、ミカ君。複製された君に、アイデンティティの問題が発生することは我々も理解している」
ガラスの向こうのミカの複製体に向かって、技官は言った。
「だから、このように考えて欲しい。君は今からアミカナだ。アミカナ=デフォルマ。君は今、夢の中にいる。ミカ君の夢の中で、アンドロイド戦士、アミカナを演じているんだ。アミカナは敵を抹殺し、任務を遂行する。任務が終われば、夢も終わりだ。君はミカ君となって再び目覚める。問題あるかね?」
アミカナと名付けられた複製体は、ぎこちなく頷いた。しかし、眉は僅かに顰められる。
ミカは驚きの表情で技官の背中を見つめていた。
……技官は一体、何を言っているの?……
「君はアミカナだ」
技官は繰り返した。
「夢の中だから何でもできる。強力な敵とも戦える。そうだろう?」
「はい」
暫くの沈黙の後、微かに苦笑したかのような表情で、4番目のアミカナは答えた。
* * *
「技官! あれはどういうことですか?!」
オペレーションルームを出てすぐに、ミカは技官へと詰め寄った。
「あれ、とは?」
「アミカナが、私の夢の中で戦士になる話です。そして、任務が終われば、また私に戻れると」
技官は深く息をついた。
「ミカ君、今回、君をアミカナの起動に特別に立ち会わせたのは、起動プロセスに関して一切質問しない、というのが条件だったはずだが……」
ミカは小さく唇を噛んで俯いたが、すぐに顔を上げた。瞳に浮かんだ抗議の色は、約束を破ったことを指摘されても消えることはなかった。
「……分かっています。これは質問ではありません。……独り言です!」
普段はあまり表情を崩すことのない技官だったが、これには思わず苦笑した。
「……実に君らしいな。……では、私も独り言を言おう」
彼は両手を後ろに組んだ。
「君は歴史改変阻止者になりたいという夢を持っていた。だから、アミカナは君の夢の存在で間違いない。そして、君には君の日常が続いていく。何も間違ってはいない」
ミカは目を見開いた。奥歯が噛み締められる。彼女は技官を睨み返した。
「……詭弁ですね……」
低く発せられた彼女の言葉に、技官は天井を仰いだ。
「いいや、独り言だ」
飄然とした彼の態度に、彼女は思わず一歩踏み出していた。
「時間転送されたアンドロイドの意識が、この世界に帰って来れるなどという話は聞いたことがありません!」
「そうかね?」
両手を握り締めると、ミカは目を伏せた。
「……私は、アミカナシリーズには、私の知識だけが移植されていると考えていました。でも、そんな詭弁で彼女を落ち着かせようとする、ということは……」
そこで、青い瞳を技官へと向ける。
「……彼女には、私の感情までもがコピーされているのですね?……」
技官は無表情のまま、灰色の目で彼女を見返した。
「……私の独り言は以上だ……」
そう言って立ち去ろうとする技官に、ミカは食い下がった。
「技官!」
振り返った彼は再び息をついた。頭を振る。
「ミカ君。我々は既に規律違反を犯している。本来、オリジナルはコピーとは接触してはいけないのだ」
「……アミカナが私と変わらない、という秘密がばれるからですか?……」
「いいや。純粋にアイデンティティの問題だ」
「そんなこと……!」
言いかけるミカを、技官は右手を上げて制した。
「君は何がしたい?」
「……え?」
「君の考えていることが仮に事実だとして、それで君は何をしたいのかね?」
「……それは……」
ミカは口ごもった。
「気になることがあるから確認したい、君にそう言われて、私はアミカナ起動への同席を許可した。それ以上のことは許されていない。君にも。私にもだ」
そう言うと、技官は踵を返した。思わずミカは息を飲んだが、言葉を発することはできなかった。立ち尽くしたまま、やがて俯くと唇を噛む。
ずっと気になっていたこと――いや、気になりつつも、目を逸らそうとしていたこと……それが、分かってしまった……
アミカナシリーズには、感情までもがコピーされていた。しかも、あの表情……技官の詭弁に対して、あんな表情ができるなんて……
ミカは鼻先を指で擦っていた。
……私ならどうする? 精神を機械に押し込められた上に、たった一人で過去に送られ、消滅する運命を知りながら、それでも任務を全うできるのか?……理屈ではない。感情としてだ。
……いや、違う!……
彼女は目を瞠った。動きを止めた指先が、微かに震え出すのが分かる。
……私なら、じゃない。あれは、私なのでは……
技官は不意に足を止めると、呆然とした様子のミカを振り返った。微かに眉根が寄せられる。小さく頭を振って、彼は再び歩き出した……




