1 幼少期
1人の子供と、その子供を渦巻く大人達の物語
「昨日はあんなに土砂降りだったのに、今日は雲一つないや! 最高の景色」
窓を開けると、雲1つない空が広がっていた
今日は学舎の進級の日。10歳になった「リアン」にとって、新しい1年が始まる清々しい朝だ
使い古した部屋着を脱ぎ、学舎指定の少し硬い制服に袖を通す。家の扉を開けようとすると、背後から呼び止められた。
「リアン、お守り忘れてるわよ」
母さんが差し出したのは、ありふれた布切れで作られたらしいお守りだ
「これ、本当に効果あるのかな……」
不思議な顔はするものの、母さんの手作りである手前、リアンはそれを大事にポケットにしまい込んだ
そして家を出た。一歩外に出れば、そこにはかつて「小さな境界」と呼ばれていた古い石積みの防壁は、今や村の内側に飲み込まれていた。ピースヘブル帝国の『辺境振興策』が始まって5年。かつての泥道は真っ新な石畳に変わり、不釣り合いなほど立派な時計塔が、朝の鐘を鳴らしている。
新しい教室は、切り出したばかりの木材の香りがした
まずは全員の自己紹介から始まる
「俺はスバル、休み時間はみんな外で遊ぼうぜ〜」
「私はヒカリと言います。お願いしま〜す」
「僕はラミルです。分からない問題があったら僕に聞いて下さい」
………………
クラスメイト20人の自己紹介が終わり、リアンの番が来る
「これから1年間よろしくお願いします。名前は"リアン"といいます」
そして、リアンの挨拶に続き、教壇に立ったのは消え入りそうな声の男の子だった
「名前は……リンシルといいます。みんなと、友達になりたい……です……」
俯きがちなリンシルは、休み時間になっても一人、机に座っていた
それを気にかけたリアン。椅子をくるりと回し、後ろの席の彼に声をかける
「ねえリンシル。こっちのグループで一緒に遊ぼうよ!」
「えっ……。あ、でも…」
「大丈夫、お前は絶対面白いからさ。俺が保証するよ!」
強引に誘うと、リンシルは驚いたようで、でも少し安心したような顔で僕たちの輪に加わった
「改めてラミルと言います。うろ覚えだけど、君、前のクラスでテストの点数良かったよね」
「う、うん…90点だったんだ」
「僕には及ばないけど、一目置いてたんだよね」
「あっ、そうなんだ」
苦笑いしながらヒカリが近寄ってくる
「ごめんね〜ラミルは無意識に自慢したがる奴だから、無視でいいよ」
「無視は困りますけどね…」
ラミルは眼鏡をクイッと上げて言った
「そういえば今日、近くの公園でみんなと遊ぶんだけどリンシルは来る?」
スバルが意気揚々に声をかけた
「うん、行こうかな」
「じゃあ授業終わったら5人で向かおう」
いつもリンシルは学舎が終われば家に向かうだけだった
少し緊張しながらも、ワクワクした気持ちで新たな生活が始まった
放課後、近くの公園にはすでに9人ほどの子供達が集まっていた。他クラスの友達達だ
「リアン君!!」
走りながら女の子が走って来る
この子の名前は"ジュノ"
「同じ教室が良かったのに、なんか残念だね」
「そうだね、残念だけど仕方無いよ」
「授業が早く終わったからみんなと早く来ちゃったけど、隣の人は誰なの?」
「あ、リンシルって言います。リアン君と席が近くて、仲良くなりました」
「違う教室だけど仲良くしようね」
他クラスでは何をして遊ぶかで賑わっている
「みんな何したい?」
全く意見がまとまらない中、
「じゃあ、みんなでかくれんぼとかしませんか?」
リンシルの提案は、満場一致で採用された
鬼が一人決まり、30秒間で隠れる
「私の完璧な隠れ場所なら見つかることはないでしょう。リンシル行きましょう」
ラミルに連れられていくリンシル
一方でリアンは木の下に姿を隠す
そこへジュノが近づく
「リアン君、一緒に隠れよっ」
「いいけど、この木の上は俺じゃないと登れないからな。ジュノは他に隠れてた方がいいな」
「木の上登るの…?!う…ん……わかった」
少ししょんぼりしながら他の隠れ場所に走っていく
……数分後
「リアン見つけた!」
鬼がリアンを見つける
すぐに見つかってしまったリアン。彼のいた部分の枝だけ不自然な程に揺れていたらしい
「あんなにガチになって隠れてたのに、なんでジュノより先に見つかるの…」
鬼に見つかって悔しがるリアンを見て、ジュノがくすくすと笑った
その後、かくれんぼを飽きるまでやった後、ドッジボールで泥だらけになるまで遊んだ
ジュノはリアンと同じにチームになって喜び
リンシルは普段身体を動かさないことから身体が悲鳴をあげていた
夕日が空を照らしだし、時計台が夕方のチャイムを鳴らした
夕方のチャイムは帰る合図
それぞれ家路につく中、リアンとリンシルは偶然にも進行方向が同じだった
「同じ帰り道だなんて知らなかった」
「いつもあの公園で遊んでるから出会わないのかな?」
「そういえばかくれんぼのとき、ラミルに連れられてたけどどうだった」
「ラミル君、絶対見つからないって言ってたのにすぐバレちゃったよ」
「フフッ、俺もガチでやったのに一瞬で見つかったよ」
「でもあれはバレバレだったよ」
「え〜そんなに酷かったかな?でも、こんな日々がずっと続けばなぁ」
そんな事を呟きながら、夕日の照らす道を歩く
別れた後、リアンは家に帰り、嬉しそうに親に報告する
いつものことかと母親は笑って促した
翌朝。
昨日と同じように高い空が広がり、時計塔が朝の鐘を鳴らす
リアンは軽い足取りで学舎へ向かっていた
(今日も放課後、何して遊ぼうかな)
そんなことを考えていたとき、視線の先に違和感を覚えた
学舎の裏手。日の当たらないジメジメとした場所へ、数人の上級生が誰かを連れて行くのが見える
引きずられるようにして歩く、見覚えのある制服
「……リンシル?」
リアンの胸の奥で、嫌な予感が音を立てた
考えるよりも先に足が動き出す




