第二話 フィフスクラスの価値
教室。
ざわめきが止まらない。
「おい……マジで勝ったのか?」
「いや意味わかんねえだろ」
「バグじゃね?」
神谷が頭を抱える。
「いやいやいやいや……」
「俺、なんか変なことしたか?」
悠真は肩をすくめる。
「さあ」
「言われた通りやっただけだろ」
「それが怖えんだよ!」
神谷は声を潜める。
「お前さ……何やったんだ?」
悠真は答えない。
ただ。
クラスを見渡す。
(予想通りだ)
フィフスクラスの生徒は
勝った理由を理解していない。
理解できない勝利は
結束を生まない。
むしろ――
不信を生む。
「誰かズルしたんじゃね?」
「ログ見ろよ」
「いやマジで」
疑心暗鬼。
崩壊寸前。
(これがフィフスクラス)
だが。
それでいい。
「静かに」
担任の榊が口を開く。
教室が止まる。
「先ほどの試験の結果だが」
スクリーンに数字が表示される。
フィフスクラス
+1200pt
教室がどよめく。
「え?」
「こんなにもらえんの?」
榊は続けた。
「ファーストクラス」
表示が切り替わる。
ファーストクラス
−800pt
「は?」
「減ってる!?」
榊は淡々と言う。
「この学園では」
「敗北には罰則がある」
「格上が格下に負けた場合」
「ペナルティは大きい」
つまり。
今。
フィフスクラスは
全学年の話題になっている。
榊は黒板に書いた。
現在ランキング
1位 ファースト 5200pt
2位 セカンド 4800pt
3位 サード 4200pt
4位 フォース 3600pt
5位 フィフス 2200pt
しかし。
その差が
一気に縮まっていた。
「たった一度の勝利で」
「序列は揺らぐ」
榊は言う。
「それがこの学園だ」
沈黙。
その時。
一人の女子が立ち上がった。
「質問」
赤い髪の少女。
鋭い目。
「どうしてフィフスが勝ったんですか?」
榊は答えない。
「それは」
「君たちが考えることだ」
少女は舌打ちした。
「くだらない」
「偶然でしょ」
その言葉に
数人が頷く。
悠真は観察する。
(能力者)
おそらく戦闘型。
そして。
プライドが高い。
名前は――
机の名札。
「九条レナ」
(覚えておこう)
榊が手を叩く。
「では次の話だ」
スクリーンが変わる。
新しい文字。
クラス戦ランキング戦
「本日から」
「クラス同士の競争が始まる」
「ポイントが最も低いクラスは――」
全員が息を呑む。
「一ヶ月後」
「解体される」
教室が凍った。
「解体?」
神谷が呟く。
榊は平然と言う。
「つまり」
「そのクラスは消える」
「生徒は退学」
ざわめき。
怒号。
「ふざけんな!」
「入学初日だぞ!」
榊は動じない。
「ここは能力者の学園だ」
「価値のない能力者は」
「国家に必要ない」
沈黙。
悠真は思う。
(やはりか)
この学校は
教育機関ではない。
選別装置だ。
その時。
ドアが開いた。
全員が振り向く。
そこに立っていたのは――
黒い制服。
ファーストクラス。
そして
中央に立つ男。
銀髪。
整った顔。
冷たい目。
彼は言った。
「へえ」
教室を見回す。
「ここが」
「俺たちを負かしたクラス?」
誰も答えない。
男は笑った。
「自己紹介しよう」
「俺は」
「天城蓮」
神谷が小さく呟く。
「おい……」
「ファーストのリーダーだ」
天城は悠真を見た。
正確に。
迷いなく。
「お前だろ?」
教室がざわめく。
悠真は動かない。
天城は続ける。
「さっきの試験」
「全部お前がやった」
沈黙。
神谷が青ざめる。
悠真は答える。
「知らないな」
天城は笑う。
「まあいい」
彼は教室の中央まで歩いた。
「安心しろ」
「今日の負けは」
「事故だ」
その目が細くなる。
「次はない」
彼は振り返る。
「フィフスクラス」
「一週間後」
「正式なクラス戦をやろう」
教室が騒然とする。
「ルールはシンプル」
天城は言う。
「俺たちが勝ったら」
「フィフスクラスは解体」
神谷が叫ぶ。
「は!?」
「そんな権限あるのかよ!」
天城は肩をすくめる。
「あるよ」
担任の榊を見る。
榊は頷いた。
「クラス戦の提案権は」
「上位クラスにある」
つまり。
拒否できない。
天城は最後に言う。
「もし勝てたら」
「俺たちのポイント」
「半分やる」
教室がざわめく。
とんでもない額。
だが。
誰も喜ばない。
勝てるはずがない。
天城は出口で止まった。
そして振り向く。
視線は
まっすぐ
悠真へ。
「楽しみにしてる」
彼は笑う。
「観察者」
ドアが閉まった。
沈黙。
数秒後。
教室が爆発した。
「おいどうすんだよ!」
「終わった!」
「絶対負ける!」
神谷が悠真を見る。
「なあ」
声が震える。
「お前」
「なんとかなるよな?」
悠真は窓の外を見る。
校舎。
中庭。
歩く生徒。
全てが
盤面に見える。
(ファーストクラス)
(セカンドクラス)
(そして)
(フィフスクラス)
学園全体が
一つのゲーム。
悠真は静かに呟いた。
「問題ない」
神谷が目を見開く。
悠真は言う。
「むしろ」
少しだけ笑う。
「ちょうどいい」
彼の頭の中では
すでに
何百もの未来が
計算されていた。
勝率。
0%?
いや。
違う。
悠真は目を閉じる。
(勝率)
1つだけ。
存在する。
「ゲーム開始だ」




