嘯くダークエルフ
ミノタウロスに人間の頭を移植する。
ハードな業務を遂行してもう頭がおかしくなりそう。
バーの扉は大きくて重い。
ギイと開けると珍しくカウンターに客がいた。
私を値踏みするように見てくる。
浅黒い肌が珍しい?
いつものようにカウンターの奥に座る。
マスターは何も言わずラキの水割りを二つ出してくれた。
今日のタスクにまず、乾杯。
アニスの甘い香りが、嫌なことと一緒に鼻を抜ける。
「……」
仕事自体にはやりがいを感じている。
手早く神経を繋ぎ、綺麗な縫合跡を見せてもクライアントは納得しない。
血まみれの手で顔を覆い、
指の隙間から狂気に満ちた瞳を覗かせながら
『……くく、あーっはっはっは! 見なさい、この禍々しくも美しい肢体を!
誇り高き人間の勇猛さと、家畜のごときミノタウロスの蛮力……。本来決して混じり合うはずのない劣等種同士が、私の『叡智』によって今、一つに溶け合ったのよ!
これまで私を見下してきた無能なエルフ共も、泥を這いずる人間共も、この『傑作』の足元で絶望に濡れるがいいわ。
さあ、目を覚ましなさい、私の可愛いお人形。貴方のその新しい腕で、この退屈な世界を完膚なきまでに叩き潰してあげるから!
――オーホッホッホッホ!!』
嗚呼、恥ずかしい。
耳が赤くなるのはアルコールのせいだけじゃない。
こんなの私のキャラクターじゃないのに。
クライアントが払った報酬は2割上乗せされていた。
「つらい」
鎧の擦れる音と、安物の香水の匂い。
さっきの客が私の横に座った。
私はただ、グラスをゆっくり回し、溶けてゆく氷の形を見つめている。
そいつが、何か言いかけて手を伸ばした。
私は目を合わさず、ぽつりぽつりと語る。
「……昨日、また一人、私の教え子が死んだの。
老衰だった。
彼が赤ん坊の時から知っていたの。
私にとっては、まばたきする間のような時間
みんないなくなってしまう」
テーブルに置いたグラスにカチンと乾杯する。
「……」
男の手がだらんと落ちた。
鼻を啜り上げる。
「すまなかった。彼によろしくいってくれ」
そう言って金貨を3枚置いて店を出て行った。
「……」
金貨を指で摘み上げて、くるくる回す。
「マスターワインちょうだい。今日はおつまみもつけちゃお」
ウッキウキな口調でそう言った。
マスターは肩をすくめて、フィタチーズを出してくれた。




