表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

異世界転生、したら宇宙が低グラだった件

作者: なぞまる
掲載日:2026/01/14

「まただ……またこのデータだ」


俺、カイト・アオバは、今日も地球連邦宇宙局の片隅で頭を抱えていた。

目の前には、連邦の威信をかけた超高精度宇宙望遠鏡の最新データ。銀河系外縁部の星々は、どう考えてもおかしな速度で回転している。既存の重力理論なら、とっくに遠心力で四散しているはずだ。


「くそ……足りない質量はどこだ。ダークマターはどこにある?」


周囲のベテラン研究員たちも、今日も同じ言葉を吐き続けている。

目に見えない未知の物質、ダークマターが銀河を重力で束ねている。それが、この三百年で「常識」になった説明だ。予算は無限、人材は最高峰。それでも答えは出ない。


だが俺は、この常識を心底くだらないと思っていた。

だって、どう見ても――これ、ゲームのバグだろ。


(いやさ、世界ってオープンワールドRPGじゃん?)


俺は前世の記憶を持つ、いわゆる異世界転生者だ。

前世では引きこもりゲーマーとして、数え切れないほどのゲームを遊び尽くした。だから分かる。このダークマター問題の正体は、運営が効率を優先した結果の「低グラフィック処理」だ。


考えてみろ。

ゲームでも、遠景は適当なポリゴンで済ませるだろ。オクルージョンカリングだの、LODだの。近づくまで細かい計算はしない。負荷軽減の基本だ。


この宇宙も同じだ。

人類がまだ辿り着けない銀河の彼方なんて、運営から見れば「誰も行かない背景」。だから重力計算も概算で済ませている。その手抜きが、俺たちには「足りない質量」として見えているだけだ。


「……主任。この説、提唱したいんですが」


俺は意を決して、主任研究員に切り出した。

「ダークマターは、観測外領域の計算省略です。人類が接近すれば、正確な演算に切り替わり、法則が確定するはずです」


主任は苦笑した。

「発想は面白いが、非科学的すぎる。我々は宇宙の普遍法則を探している。ゲームじゃない」


(だから、ゲームなんだっての)


心の中で毒づく。

専門家ほど、過去の成功体験に縛られ、それを絶対の真理だと思い込む。量子論と相対論すら統合できていない時点で、スケールによって法則が変わる可能性を疑うのが普通だろ。


それでも俺は諦めなかった。

前世で培ったバグ探しと裏技発見の勘がある。狙うべきは「境界」だ。どこまでが手抜きエリアなのか。膨大なデータを洗い、重力定数が微妙に揺らぐ地点、宇宙線の軌道が乱れる箇所を絞り込んでいった。


数年後。

俺の予測地点は、ついに連邦に承認された。学会からはオカルト扱いされ、予算の無駄だと叩かれたが、確信は揺るがなかった。


「カイト主任、艦隊が目標地点に到達しました」


連邦最大級の超光速探査艦。そのCICめいた一室で、俺はモニターを凝視していた。

ここは、俺が予測した低グラエリアの最深部。見た目は何も変わらない。だが――。


「重力センサー異常。周囲の重力定数が、わずかに、しかし確実に上昇しています」


続いて、艦載の物理演算システムが、見慣れない数式を吐き出した。

従来の重力方程式に、観測者との距離と局所エネルギー密度が組み込まれている。


その数式を、俺は知っていた。

前世で遊んだ宇宙シミュレーションゲームの、デバッグモードに表示されていた隠し演算ルーチンと酷似していたのだ。


「……これだ」


新しい式で銀河の回転を再計算すると、ダークマターは一切不要だった。観測結果と完全に一致する。


「主任、謎の質量は検出されません。我々の理論が……不完全だっただけです」


世界は震撼した。

人類が何世紀も追い求めたダークマターの正体は、宇宙の神秘でも何でもなかった。ただの最適化処理の副作用だったのだ。


俺が暴いたのは真理ではない。

この世界の裏側、世界を動かす最適化アルゴリズムだった。


「さて、次はどこだ」


CICにあるモニタ越しに、まだ誰も見ていない宇宙を見上げる。

低グラエリアは、まだ無限に残っている。そのたびに法則は更新され、新しい数式が姿を現すだろう。


「このゲーム、最高に面白いじゃねえか」


俺は笑った。

人類はようやく、世界の本当のルールに触れるための最初のパスワードを手に入れたのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
現代科学が何世紀も解けなかったダークマターという巨大な謎をゲームのバグや最適化処理として切り捨てるカイトの視点が痛快でしたが、専門家が真面目に宇宙の法則を追い求める中で前世のゲーマーとしての知識を武器…
2026/01/15 02:19 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ