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落ちこぼれ公爵の守り獣  作者: 秋月
番外編1

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過去話 第九師団師団長 その4

 ♢




 御前試合の日を迎えた。

 俺たち第九師団は揃って待機場所となっている天幕に集まっている。付近には他師団や近衛隊の天幕もあり、時折視線を感じる。


 御前試合は、武に覚えがあり、国に所属する騎士ならば一度は出てみたい晴れの舞台。勝ち進めば出世にも影響が出るし将来の安定もありえる。王家のお目に留まればこれ以上ない栄誉だ。

 故に、出場したいと思う騎士は多いだろう。とはいえ出場者は各師団長や隊長が選ぶので、自分にできることといえば日頃の鍛錬を怠らぬことだろう。


「今回の不戦勝はどこが相手するんだよ?」

「ああ。第四師団だろ? いいよなあ」

「余裕すぎってな」


 笑う声が聞こえる。それも第九師団の天幕の傍から。

 聞こえた瞬間、リグテールやエルヴィンから敵意が漏れるのを感じた。


「やめろ二人とも。口ではなく腕で示せばいい」

「はい」


 一歩天幕を出れば周囲からの視線を感じる。

 ……無理もないか。この御前試合は俺も出場することになっている。


 各師団から選抜した五名が戦い、勝利数の多いほうが勝利となり次戦に挑む権利を持つ。

 四人は師団の騎士が出るが、一人には師団や隊の長が出ることが多いのだという。最も実力を持っていると言っても過言ではないのでその選抜は無理もないが、長でなければならない決まりはない。


 俺にも、出ないという選択肢もあった。


『頑張るぞ! 俺らだって師団長の力になるんだ』

『そうだ! 俺らが勝てば師団長がどうだって言われなくて済む!』

『おおっ、それ確かに! うっしゃあ!』


 ――なんて、積極的でなかったのに、いつからか、頑張ろうと、鍛錬にも精を出していた部下たちを見ていれば、俺が出ないなんて言えるわけがない。


 会場後方からそっと会場のほうを覗く。王家の方々はすでに着席しており、舞台では試合前の余興として演舞や歌が披露されている。

 これが終わればいよいよ試合の始まりだ。


 舞台での余興が終わり出演者が離れる。そして、銅鑼が鳴り響いた。


「それではこれより、御前試合を開幕する!」


 大きく太い声が試合の開始を宣言した。

 進行役を務めるのは近衛隊の人物のようだ。その進行にそって第一試合の師団同士が前に出る。名を呼ばれて前に出て、紹介が終われば、第一試合第一戦の始まりだ。


 第一試合は、第二師団対第八師団。その試合が始まった。

 観客も、覗き見ている他師団の面々も、固唾を呑んで見守っている。勝利が決まれば歓声が上がり、敗北が決まれば所属師団からの励ましの声が聞こえる。

 いつの間にか俺の傍で第九師団の面々もじっと試合を見ている。


「しかと見て学べ。強くなるには、強者の試合から盗むか経験を積むしかない」

「「「はいっ」」」


 経験はなによりの糧になる。しかし、それはいつでもできることではない。

 第九師団はとくに、他師団との交流試合を求めても相手にされないことがほとんどだ。


 周囲では、必死に試合を見る第九師団の者を嗤う声も聞こえたが、誰もその声に振り返ることはなかった。


 試合は第五戦が行われることなく、一対三で第二師団が勝利した。勝利した第二師団の面々の表情は柔らかで、第八師団の面々は悔しそうだ。

 見ていれば声をかけられ俺はすぐに足を向ける。第二試合は第九師団の出番だ。


「第二試合、第四師団対第九師団の試合を開始する!」


 進行役の声に従って、出場する面々が舞台に上がる。瞬間、貴族席からざわめきが聞こえた気がした。

 しかし今、それは気にしない。出場するとなると言われる内容は分かっている。気にして試合に支障をきたすことはしたくない。


 登壇する第四師団の面々は非常に余裕気な表情だ。こちらを見下すような目でわざとらしく見てくる。今にも噛みつきそうなトニスを傍にいるガードナーがさりげなく抑えている。

 それぞれの騎士が紹介される。俺の名前が出たときにはわずかなざわめきが生じた気がしたが、大きな混乱はなく紹介を終えた。……陛下の視線を感じた気がしたが、俺はそちらに視線を向けないようにした。


「第一戦、第四師団ケルソ・ディバンエ、対、第九師団リグテール。開始!」


 この御前試合は守護獣の力を使ってよい決まりになっている。とはいえ、観客に危険があってはならないので、試合に参加しない騎士たちが観客の警護のため観覧席や会場の端に待機している。いざとなれば守護獣の力で相殺させる必要があるのだ。

 王家の方々の傍にも同様の警備態勢が敷かれている。


(とはいえ、第九師団の中にそこまで力の強い者はいないからな……)


 リグテールの守護獣もそうだ。肩にちょこんと止まれるくらいの大きさのキツツキが彼の守護獣。属性は風であり、キツツキ周囲にしか風を起こせず、相手に与えられる攻撃としては弱い。

 そんな守護獣は今、リグテールの頭上を飛んでいる。


 対する相手の守護獣はオランウータンだ。土属性の力を持ち、拳で地面を打てば地面を変形させられる。

 サルの守護獣よりも強いが、ゴリラの守護獣ほど強くはない。しかし確実な戦闘向きであり、しかと扱いきれていれば騎士団内では重宝されるだろうと思われる。


 守護獣の力は戦闘においても差になりやすい。

 しかしそれは、絶対にはならない。


 鍛錬の中、守護獣を持たない俺に、守護獣の力を使っていいというルールで戦闘訓練をしたことがあった。それでも俺は部下たちを倒した。

 これまでの俺の鍛錬において対人訓練のすべてが守護獣と人を相手にするものだった。どういうふうに守護獣と連携をとり、その力をどう使うか、見てきたからこそ分かることもある。

 俺はそれを第九師団の面々に教えた。守護獣の力が弱い彼らも俺と同じ視点を持てば、守護獣の力が弱くても充分に戦うことができる。


 守護獣を用いた戦闘など、俺には教えられない。

 だが、守護獣を相手にする指導ならできる。


 ケルソの守護獣であるオランウータンがリグテールの足場を崩しにかかる。しかし、リグテールは難なく足場を見つけて相手に迫る。


(あれなら鍛錬通りで問題ない)


 ガードナーの守護獣の力を借りて、対土属性守護獣との戦闘を訓練した。その成果だ。


 リグテールの迷いない軽快な動きに相手は驚きと焦りを覚えたのか、剣を構えて自身も踏み出す。

 その傍をオランウータンも続き、さらに追撃を加えようと――して、崩れた足場で体勢を崩した。


 さらにそれはケルソにまで及び、まるで足が地面に囚われたように体勢を崩し、その一瞬の隙をリグテールが衝いた。


「勝負あり!」


 ぱたぱたと翼を動かすキツツキが、地面すれすれからリグテールの肩へ戻る。


 呆気にとられる周囲の騎士たち、それに観客。

 それもそうだろう。こちらは無能弱者の第九師団であり、守護獣の力の差もある。


「よっしゃ! さすがリグテールさん!」

「危なげなく一勝だな」


 トニスもぐっと拳をつくる。その喜びを見て俺も自然と笑みが浮かんだ。


(小さくて弱い守護獣。だからといって見逃していては思わぬところから衝かれる)


 相手と守護獣は常に視界に入れておけ。俺が学んだことの一つだ。

 リグテールが戻ってきてガードナーたちと和気藹々としている中、ちらりと視線を第四師団へ向ければ、悔しさではなく怒りを宿した目でこちらを睨んでくる。


 第九師団は当然、過去にもこういう試合には参加している。

 しかしどれも初戦敗退。個人の実力も大したものではなく守護獣の力も弱い。戦っても楽勝だと思われている第九師団は、通称「不戦勝同然の相手」だそうだ。


 だが、それはこれまでの話であり、今は違う。


「よっしゃ! 次は俺ですね!」

「頑張れー、トニス」

「はい!」

「トニス。鍛錬通りに、慌てず冷静に」

「はいっ。絶対、師団長のために勝ってきます!」


 威勢よくトニスが舞台へ上がる。その意気込みは背中にまでにじみ出ており、エルヴィンは「大丈夫か?」と少々不安そうな声をもらした。


(俺のためではなく、師団のために頑張ってほしいんだが……)


 それは言わない。トニスの心は嬉しいものだ。

 少し困ったように笑みが浮かんでしまうが、ガードナーやリグテールはトニスらしい言葉にくつくつと喉を震わせている。


 試合は続き、決着は第四戦でついた。

 意気込んでいたトニスだったが惜しくも負けてしまい、第三戦のガードナーと第四戦のダルゾが勝利した。……トニスはひどく落ち込みつつも「次、次こそは……!」と火は失っていなかった。


 俺が師団長に就任後、自主的強制的に関わらず師団の人数が減ったのでそれぞれの隊も編成し直した。ダルゾはその中で部隊を任せた人物で、武の腕は悪くないことに加え、これまで一人でも寡黙に鍛錬に励んでいた努力家だ。


 第九師団は確かに守護獣の力が弱い。しかし、決して個人の力もそうであるわけではない。

 これまで勝つことがなかったのは誰もが諦めを抱いて鍛錬をサボっていたからだ。それを叩き直せば実力を持つことはできる。


 第四戦に勝利し第九師団の勝利が確定したとき、明らかに貴族席や騎士団がざわめいた。が、それを打ち消すほどに第九師団の全員が歓喜した。


「うおおぉおぉっ! 勝った! 勝ったよおぉ!」

「師団長が鍛錬つけてくれたおかげだあぁあ!」

「師団長が戦わなくても俺らだって勝てるんだ! 見たかこの野郎!」

「文句言えるなら言ってみやがれ!」


 ガードナーやリグテールを始め年長者たちが「騒ぐな」と宥めに入っている。それを見つめて、妙に、不思議な心地になった。


(嬉しい。嬉しいのに……)


 何かが胸の奥に溢れてくる。零れないように大事にしたいのに、堪えるのが難しい。

 しかし師団長としてぐっとそれを堪えて、すぐさま第九師団を鎮めに入った。






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