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落ちこぼれ公爵の守り獣  作者: 秋月
番外編1

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過去話 第九師団師団長 その1

 俺、トニス・クミルトンは子爵家の三男に生まれた。

 母親はそれなりに大きな商家の娘で、父親はクミルトン子爵家の当主。周りからは「貧乏子爵が財を欲した」とか「商家が貴族位を欲した」とかいろいろ言われたこともあったらしいけど、母親が父親に一目惚れして父親が根負けしたっていうのが真実だってことは、知る人は知ってる話。


 俺はそんな両親の三番目の子ども。上には二人の兄がいる。昔から成績優秀な兄貴たちは城で文官として働いている。

 そんな兄貴たちに頭の出来を奪われて産まれた俺は、兄貴たちから奪った腕っぷしで騎士の道を進むことにした。


 ……っていっても、騎士になろうと思ったのは実は結構最近だ。

 きっかけは、ギルベール・ロザロス様が辺境領で父親とファルダ国国王を討った、あの戦を知ってから。


 城に勤める親父と兄貴から話はいろいろ聞いたし、街の情報紙にもいろいろ書いてあった。

 衝撃だった。守護獣がいないことも。そんな人がいることも。そんな人が――戦で先陣を切ってそれだけの戦功をあげたことも。


 俺の守護獣は風属性の小さなスズメだ。その力は強くない。

 でも、俺はこいつを嫌いじゃない。なにせ俺の守護獣は、俺んちの中で唯一の癒し要因だから。

 両親兄貴そろって可愛い系じゃない守護獣持ちだからか、仕事で疲れ果てて帰ってきた親父や兄貴は俺の守護獣を視て「おまえは可愛いな…」って撫でてる。俺の守護獣、家じゃかなり役立ってる。かなり誇らしい!


 そんな家族だから俺は守護獣の力がどうこうなんて、とくに気にしてこなかった。

 それを強烈に感じたのが、ギルベール様の活躍だった。


 ――守護獣がいなくても。力が弱くても。役に立てることがある。

 もともと将来のこととかあんまり考えてなかったし、おふくろの実家の商家の手伝いでもいいかなって思ってた俺は、これを知って神からお告げをもらったと痛感した。


「俺、騎士になる!」






 ロドルス国の騎士団は、別に養成学校とかに入ってなくても入団試験に突破すれば入団することができる。もちろんこれは厳しいし、試験の内容は時によって違うらしい。


 入団試験を受けるために必要なのは、身元を保証してくれる人と腕っぷし。

 国の騎士団だからある程度はやっぱり身元が分かる奴じゃなきゃだめだ。それに多少なりと腕っぷしもないと、いくら騎士団で鍛錬していくんだっていっても最初に潰れる。そういうことを両親とか兄貴に聞いた。


 騎士になることについては反対はされなかった。とくに将来とか決めてなかったから、むしろ頑張れって応援もらった。

 でも、「なんでいきなり?」って聞かれて理由を言うと、途端に家族全員にすげえ微妙な顔をされた。でもいいもん!


 親父の後ろ盾もあって俺は入団試験を受けて、見事に受かった。

 一月くらいは新団員たちで鍛錬して、それから個々が小隊へと配属される。その流れで俺も第九師団に配属された。


 毎日厳しい鍛錬して自分を鍛えて国のために剣を振るうんだよなあ……――なんて、現実は甘くなかった。




 ♢




「おまえ、新入りか?」

「はい。トニス・クミルトンです。よろしくお願いします!」

「元気だなあ。でもまあ……はずれ引いちまったな」

「はずれ?」


 って、なんだろう。分からなくてこてんと首を傾げると、第五十二小隊の先輩たちは憐れむような目を見せた。

 その意味を聞こうとしたときには先輩たちの目が前列に向いて、俺も慌ててそっちを見て背筋を伸ばす。


 第九師団全体の集まり。今日は俺たち新入りを含めて、全員に向けて師団長が挨拶をしてくれる。

 ここに集まっているのは、師団長の直属隊騎士、各部隊の騎士たち、各部隊の下に入っている小隊の面々。


(一つの師団ってこれくらいの人数なんだ……)


 俺がいる第五十二小隊は四十人もいない。思ったよりも人数が少なくて最初はちょっとびっくりした。


 ちょっとだけ周りを見てると、全体が見えるように台に乗った男の人が出てきた。

 四十歳くらいの男の人だ。騎士らしく鍛えた体は逞しいし雄々しい。だけどその表情は厳めしくないし、気さくにもみえるよさそうな感じだ。


 その人は堂々とした姿で前に立つと、俺たちに向けて挨拶を始めた。


「私は第九師団団長ガードナーだ。新入団諸君、第九師団へようこそ」


 あれが師団長か……。ってことはやっぱり師団の中で一番強いってことだよな。

 どんな人なんだろ。どんな戦い方をするんだろう。緊張と不安もあるけど、やっと騎士になれた興奮もある。落ち着け、俺。


「これからは厳しい日々になる。だが、くじけず、諦めないでほしい。自信をつけるには時間がかかると思う。だからこそ仲間で支え合い、乗り越えていきたい」


 先輩たちはなんで「はずれ」だなんて言ったんだろ。偉ぶってるでもないいい師団長じゃん。仕事じゃ兄貴たちも上司に苦労させられてるって風に言うこともあるけど、師団長はそんな人じゃなさそうだ。

 騎士になれて、しかもいい師団長がいる。これって結構幸先いいんじゃね?


 そう思ってすごい満足な気持ちのまま挨拶が終わり、各隊は解散になった。






 師団長の挨拶が終わって、各部隊各小隊がそれぞれ分かれて鍛錬を始める。――けど。


「……なんか、思ってたのと違う」


 皆が並んで掛け声出して、厳しい上司の前で鍛錬。――なんてイメージしてた。


 今、目の前で鍛錬してる人は少ない。ほんの数人、それも俺と同じ新入りか入団年数の短そうな若い人ばかり。年長者たちは鍛錬することなく鍛錬場の端でおしゃべり。

 遠くを見れば他の小隊も似たようなものっぽくみえる。各部隊所属の騎士とか師団長直属隊は分かんないけど、小隊はこんな有様だ。


(ゆるい……っていうか、やる気なさそう)


 騎士団ってこんな感じなのかな……?

 見てるとこっちまで気力が削がれる。無意識にため息がこぼれたとき、声をかけられた。


「おまえ、新入りか?」

「あ、はい。第五十二小隊所属、トニス・クミルトンです。よろしくお願いします!」

「俺はエルヴィンだ。第五十小隊に所属している」


 真面目そうな男の人だ。俺よりもちょっとだけ年上かな。短い黒い髪と翠の目はなんか落ち着いてる人って感じがする。

 そんなエルヴィン先輩も周りを見て、ため息を吐いた。


「えっと……いつもこんな感じなんですか?」

「ああ。第九師団は『無能弱者の集まり』ってな。他の師団よりも圧倒的に力がない」

「……俺、先輩に『はずれ』って言われたんですけど、意味解ります?」

「出世の芽もなく、他師団に笑われる格下師団って意味だ」

「なるほど……。んー。でも鍛錬ちゃんと頑張ればいいんじゃないですか?」


 思ったことを言うとエルヴィン先輩は瞬いて、黙って俺を見る。……なんか変なこと言ったかな。


「……おまえ、単純だな」

「あざーっす!」

「褒めてない。……ま、そう受け取れるならそれがいいか」


 なんでか「ふっ」って笑われた。これもいいってことでいい?

 そう思うことにしようってして一人で頷いて、でも気になったことを聞いてみる。


「その『無能弱者の集まり』って、なんでなんですか?」

「おまえ、どういう守護獣持ちだ?」


 聞かれたから、俺は守護獣のスズメを顕現させた。それを視てからエルヴィン先輩も守護獣を顕現してくれた。

 エルヴィン先輩の守護獣は、肩のあたりでふよふよ浮いてる小さな金魚。宙に浮いてるのは不思議な感じだけど、泳ぎはのびのびのんびりって感じ。


「第九師団は守護獣の力が弱い集まりだ。そういう奴らが集められて、はみだし者にされてる」


 ……だから、先輩たちは「はずれ」って言ったんだ。


(兄貴が言ってた。騎士団は守護獣の力が重視されるって……。でもギルベール様みたいに、守護獣がいなくても強い人はいるんだ)


 なのに――……。


『守護獣がいない? ありえるのか、そんなこと』

『ファルダ国の王っていや、戦好きであちこちに喧嘩売るって乱暴で血を好む野蛮な奴って話だ。おんなじような中身してんじゃねえのか?』

『ハハハッ! ちげえねえや。百歩譲ってまぐれだな。まぐれ』

『噂じゃ、落ちこぼれっていうそうじゃねえか。父親と一緒にファルダと仲良ししてたんじゃねえか?』


 拳に力が入ってると、タタッと誰かが走ってくる足音が聞こえた。


「エルヴィン。……悪い。俺、行くわ」

「……そうか。元気でな」


 ちょっと元気失くしたような声でエルヴィン先輩がやってきた誰かを見送った。その人は眉を下げて申し訳なさそうに、でも、一言だけ言うと振り返ることなく去っていく。

 それを見送ったエルヴィン先輩はまたため息を吐いた。


「えっと、休憩に?」

「……いや。辞めたんだよ」

「えっ!? 辞めたって、騎士を?」

「ああ。言っただろ。第九師団は弱小師団だ。出世の可能性もなく、他者に笑われる。それが堪えるって奴が多くて、すぐに辞めていく奴だらけだ。だから常に人手不足なんだ」


 ……俺には、よく解らない。

 弱いなら鍛錬頑張って強くなればいい。出世したいとかも分からないし。人を笑う奴なんて気にしなきゃいい。そりゃ俺みたいに「いい加減将来決めなさい!」って母親に怒られることもあるだろうけどさ。


「……俺も、考えねえとな」

「えっ。エルヴィン先輩も辞めるんですか!?」

「考えるってだけだよ。……親父にも、申し訳ないからな」

「で、でも……せっかく騎士になれたのに……あ! 他の師団に行くとか!」

「俺らみたいに守護獣の力も弱い奴を受け入れてもらえない。だから第九師団に放り込まれてんだ」


 うぅ……。

 たしかに守護獣っていざってときには頼りになるものだけど、それに頼っちゃ駄目だと思うんだよなあ。


 うんうん考える前でエルヴィン先輩は重い息を吐く。なんとなく、このまま辞めるんだろうなって、そう思った。


(でも……出世できないとか期待外れとか、そういうのってなんとかできることじゃないかな? 皆で頑張って、ちゃんとちょっとずつ仕事していけば、そうすれば……)


 駄目だって諦めたら、そこでもう誰も見てくれなくなる。

 兄貴たちは「あのクソ上司絶対下に落としてやるっ……!」「あいつに負けられるかぁ!」とか闘争心剥き出しなこともある。そういうのって大事だと思うんだよな。俺はいつもそんな兄貴たちすげえなって思って見てるけど、「やるには準備が要るんだよ」って冷静になって色々頑張ってるのも知ってる。


 そういうのって、大事なんじゃないかな?

 兄貴たちは俺が見ても一生理解できなさそうなことやってるし、それは俺には無理だけど俺には俺の頑張ることっていうのがある。


「エルヴィン先輩!」

「ん?」

「俺と試合してください!」

「……? まあ、いいけど」


 ――結果、惨敗。鍛えた年季が違った。

 エルヴィン先輩は俺より二年先輩だそうだ。二年の差は大きかった。


 ぜえぜえ息吐きながら鍛錬場に転がってると、そんな俺をエルヴィン先輩が覗き込む。


「おまえ、結構いい筋だと思う」

「あ、あざっす……ぜえ……エルヴィン先輩……つえぇ…」

「そんなことはない。俺より強い奴はごまんといる。それに――…」

「おーい! エルヴィン!」


 エルヴィン先輩がなにか言おうとしたとき、鍛錬場の端から誰かが走ってきた。その足音が近くにやってきたから体を起こす。

 先輩らしいその人は木剣持ってる俺たちを見てちょっときょとんとした顔をして、すぐにふっと優しそうな笑みを浮かべた。


「精が出るな。試合か?」

「はい。新入りのトニスというんですが、申し込まれまして」

「ト、トニス・クミルトンです……!」

「イーサンだ。よろしく。ははっ。そのまま休憩してていいぞ」

「あ、あざっす」


 立ち上がる気力もない俺は地面に座り込んだまま。それを見たイーサン先輩は微笑ましいものを見るような笑みを浮かべると、その視線をすぐにエルヴィン先輩へ向けた。

 エルヴィン先輩に用があるみたいだけど、連れて離れるでもなくイーサン先輩は会話を続ける。


「師団長が交代になるらしい」

「「!」」


 俺の頭に浮かぶのはついさっき挨拶をしてくれた師団長の姿。

 あ、あんないい上司が交代!? なんで!


 エルヴィン先輩も驚いた顔をしていたけど、すぐに表情が引き締まる。


「理由は?」

「陛下の決定だそうだ。で、驚くことに次の師団長――あの王弟殿下の息子でファルダ国国王を討った、ギルベール・ロザロス様だそうだ」

「「!」」


 また、俺とエルヴィン先輩は言葉を失った。


 王弟殿下の反逆。ほんの数か月前の出来事は誰の心にも深く刻まれている。辺境領を任され、国境を守っていた殿下の突如の行為に誰もが驚いた。


 だけど驚きはそれ以上になって国中に広がった。

 ファルダ国と通じていた殿下はファルダ国軍とともにロドルス国へ戦を仕掛け、しかしそれは、息子であるギルベール様に阻止される。殿下はギルベール様に討たれ、ギルベール様はそのままファルダ国軍と激突。敵将であった国王を討った。

 その活躍は、反逆者の息子ということで賞賛されることはなかった。


 さらにその名を広め、人々を驚かせた衝撃の事実。――ギルベール様には、守護獣がいない。

 情報紙が大々的にそれを民に報じたときは衝撃が走った。


「この話が出てきたおかげで今頃退団届け出す奴が殺到してるだろうな」

「え。なんで?」

「なんでって……そりゃ、そんな人が師団長になれば今以上に第九師団はお先真っ暗。反逆者の子ともなれば、もしってときには俺たちだって共犯と見られかねない」


 肩を竦めるイーサン先輩。


「いや、でも……」


 その言葉に、俺はなんだか納得できなかった。


 俺一人がもやもやしてる間に師団の中の人は動く。

 翌日には師団長が代わることが正式に通達され、それから数日後、俺が所属する第五十二小隊はその人数を半分に減らした。






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