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落ちこぼれ公爵の守り獣  作者: 秋月
番外編1

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後日談 とある暗部の話 その3

 リーダーは歩き続け、やがて、随分と静かな区画へとやってきた。

 門から見たときよりも王城の位置が近い。周囲には舗装された道と緑があり、時折立派な構えの門の前を通り過ぎる。活気あふれる街とは違う、人気もあまりなく馬車の通りが主であるような、街とは一線を画した場所。


(この辺り……貴族区画か……? なんだってこんな場所に……)


 下手をすれば元主の手の者に見つかる可能性もある。だがリーダーは進んでいく。


 どこかの貴族にあてがあるのか? リーダーはいつの間にそんな伝手を?

 ……とはいえ、相手が貴族ならやはりこれまでとさして変わらないものになる。ロイジーだけでもなんとかしてやりたい。

 見慣れない周囲の景色に、浮かれていたロイジーもどこか緊張した顔をしている。


 やがて、先導する鳥がある敷地内へ消えていった。

 その屋敷、敷地の入り口である門の傍にいるのは見張りの騎士。


「行くぞ」


 そう言って、リーダーはその騎士に近づく。俺はいつでもロイジーを守れるよう警戒しつつも後に続く。

 見張りの騎士は俺たちに気づくとすぐに警戒をみせた。


「何者だ」

「聞きたいんだが、ここはロザロス公爵邸で合ってるか?」

「!」

「如何にも。何用だ」


 待て。待てリーダー。どういうことだ。それは、俺たちが最後の仕事で殺り損ねた相手だぞ。

 俺の動揺など知らず、リーダーは続ける。


「公爵夫人に会いたい。取り次いでもらえねえか」

「奥様にだと?」

「貴様、奥様とどういう関係だ? 用件を言えぬなら取り次ぐわけにはいかん」

「取り次いでもらえば分かる。……まあ、しいて言うなら、以前世話になった礼を言いにきただけだ」


 リーダーはどうやら本気らしい。俺は困惑するばかりで、見張りの騎士も怪訝としつつ警戒は解かない。

 この空気にロイジーが身体を強張らせる。すぐに俺の後ろに避難させ、戸惑いながらリーダーを見る。


 リーダーの横顔は真剣だった。

 本気で、俺たちが殺そうとした相手に会うつもりだ。


(どういうことなんだ、リーダー)


 先日の件が知られればただではすまない。まさか首を差し出しにきたわけか?

 そんなことなら、俺は――……


「――見張り君」


 そのとき、緊迫に似合わない悠然とした声が聞こえた。

 ハッと視線を向ければ、門の向こうからやってくる姿がある。それを見てロイジーが息を呑む気配がした。


 太陽が照らす銀色の長い髪。その中にあるぴんと立つ大きな耳。腰から後ろにある柔らかで大きな尻尾。金色の瞳は不敵に輝き、微かに上がった口角からは絶対の自信が感じられる。


「奥様!」

「……」


 思考が、飛んだ。


(これが、貴族……?)


 俺が知る貴族とは、空気が違う。

 俺が知る貴族は金と権利と欲に溺れるどうしようもない奴ら。なのに目の前のその人からは、一切の濁ったものを感じない。


 そんな相手は悠々とやってくると、見張り騎士と俺たちを見て、そしてリーダーを見て微かに口端を上げた。


「見張り君。彼らはわたしの客だ。問題ない。通してくれ」

「はっ」

「奥様。僭越ながら、ギルベール様には……」

「帰ってきてから仔細報告する。ま、事後報告だな」

「「絶対にまた頭抱えますけど!?」」

「ははっ」


 驚愕している騎士たちに笑い、獣人の姫は俺たちを手招いた。見張りの騎士たちは今度は止めることなく俺たちを門の先へと通す。


 ロザロス公爵。反逆者の王弟を父に持つ、今の貴族社会では地位だけの男の屋敷。

 屋敷までの道、その傍の庭はそれなりに手入れがされているが、客人の目に入らない遠くはそうでもないように見える。


 ……落ちぶれの前兆か。それも当然だろう。

 冷静に周りを見る俺の傍でロイジーは非常に緊張しているように歩き、時折、前を歩く獣人の姫をちらちらと見ている。


「お、奥様!」

「あ、リアン」

「あ、じゃないですよ! あ、じゃ! お外に出るなら日傘をお持ちするのでお待ちくださいねって言ったじゃないですか!」

「敷地内だ。いらない」

「お肌が焼けちゃいます!」


 前方から駆けてきたメイドらしい、ロイジーと同じ年頃だろう少女が獣人の姫に向かって怒っている。


 屋敷のメイドだろうか? にしては、獣人の姫に随分と馴れなれしいな。ここはそれを許しているのか?

 獣人の姫もぎゃんぎゃんと騒いでいるメイドに怒るでもなく「ははっ。今日も元気だな」と軽く流している。


 ひとしきり怒ったメイドは俺たちに気づいた。


「奥様。こちらの方は?」

「わたしの客だ。リアン、執事君にすぐに医者の手配を頼んでくれ。それから茶と菓子の準備を頼む」

「承知いたしました」


 数秒前まで怒っていたのが嘘のようだ。どこか子どものような年相応に見えていた様子からは想像できない背筋を伸ばした姿で礼をし、動きだす。

 あまり自分と歳も変わらないだろう使用人の少女の姿に、ロイジーは驚いているような、引き寄せられるような、そんな目で離れていく後ろ姿を見つめていた。






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