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落ちこぼれ公爵の守り獣  作者: 秋月


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48/64

48,彼女の戦い

 目の前の陣にいるのは、敵大将ドゥーラだ。

 ギルベールの視線が光り、殺気が漏れる。奴の相手はギルベールがするから、わたしはその露払いが役目だ。


 騎士たちも各々によい働きをしてくれている。

 ドゥーラの側にいる隊長の一人らしい男がこちらへ向かってくるのを見て、前へ出る。同時にその横っ腹に炎をぶつけ、馬から落としてギルベールの進路を開ける。


 目の前に開いた道。なにも言わずに駆けたギルベールとドゥーラの剣が音をたてて交わる。

 それを確認し、わたしも馬を下りて前を見た。


「さあ、こちらも始めよう」


 相手もまた殺気を剥き出しに、わたしを睨んでいる。


(魔法は多用しすぎると言い訳が面倒だ。守護獣と同じ、精霊側の力でのみ対処するとしよう)


 守護獣とは精霊だ。ファルダ国ではそう伝えられている。

 だからわたしは、守護獣の力や獣人が使える力を『精霊術』と呼ぶことにした。わたし個人としては、わたしが使う魔法と区別しておかなければ面倒なのだ。


 相手は剣のみを構えて守護獣を顕現させていない。最初から分かりやすくはしてくれないのは当然。


(だが、悪いな)


 ――わたしにとって、顕現は大した問題にはならない。


 男は視線をわたしに添えたまま地面を蹴った。動きは悪くない。この目にはよく見える。

 振るわれる剣を払い、流す。隙を与えぬように繰り出す連打をすべて払いながら軽く動く。横払いも突きも、すべて弾いて捌く。


 動きはいいし、攻撃の手も早い。

 今は獣人の感覚と優れた身体能力のおかげで難なく対処できているけれど、それがないと非常に集中力が必要で気力もいる。

 わたしはなにも、武術全般に優れているわけではない。不得手もある。


「チッ!」


 舌打ちとともに繰り出される剣戟。その合間に紛れ込ませる、鋭い一手に重ねた火。


 変哲ない剣戟に突然仕込む精霊術。非常に有効な使い方だ。

 相手の隙をつくよい一手だが、わたし相手では意味をなさない。


 その火が肌に触れる直前、男の口許が笑みを浮かべたとき――火は別の赤に呑み込まれ、消えた。


「なっ……!?」


 目を瞠る男に対し、今度はこちらから炎を放つ。守護獣が顕現し、その炎に己の火をぶつけた。

 炎が弾け、男と守護獣は衝撃で後退する。間を置かずの攻撃は危険と判断したのか、その眼光でこちらを睨む。


「……ロドルス国はファルダ国から姫を取ったと聞いたが。その特徴、まさかおまえが……」

「君は先王が戦場にいたときに会っているのかな。王家以外にない特徴だ。分かりやすいと思ったんだが」

「ククッ。そんな人物を戦場に送り込むとは……。ロドルスの王にとっておまえは随分と軽いらしい。――こちらへ来ないか? 姫君を丁重に扱うぞ」

「ははっ。冗談はよせ。軟禁人質暮らしは退屈だ。それに、わたしにはするべきことがある」


 男の守護獣は小型だが強力なラーテルだ。属性は火。それによって的確に手助けする。

 わたしを見て刹那身体を強張らせながらも、主のために威嚇してくる。いい度胸だ。


 守護獣と獣人、そしてファルダ国王家は、どうやら面白い関係性があるらしい。

 シルティの情報本からそれを読んだが、もっと詳しい情報がほしいと思っている。とはいえ、それを入手するにはそれこそファルダ国へでも行かなければいけないだろう。……難しい。嫁にいってしまったわたしに情報はくれないだろうし。


「そうか。――では、参る」


 剣を払う。地を蹴る音は守護獣も同じ。

 男の剣が火をまとう。帯びた火は伸縮すら自在であるらしい。だけれど、当たる前に防げば問題ない。


 瞬時にわたしの後方をとった守護獣がその口から火を噴く。

 いい動きだ。主と長く戦場を駆けているんだろう。そうした守護獣は個々の力以上の動きで戦場を助ける。


 わたしを前後から挟む火が火柱を上げた。炎の向こうから「シルティ様!」と声が聞こえる。

 不要な心配で己の動きを妨げなければいいんだが……。獣人たちならば大丈夫だろうけれど、第九師団は少々心配だ。


 火の属性は、水で消火されやすい。

 同程度の実力ならば相殺されるが、実力差があると例え不利な側でも上回れることがある。


 ――そして、シルティの力を上回るとなると、ファルダ国でもまずできる者はいないと踏んでいる。


 とはいえ、初手で火を繰り出している身としては、火以外はあまり多用したくはない。

 ギルベールでさえわたしが複数属性を使えるとは知らなかった。使わない手はない。


 火柱はわたしを一切焼くことなく、むしろ、わたしが使う炎が火を呑み込み、弾けた。

 はらはらと舞い落ちる火の粉。尻尾を振ってそれを払い、男を見遣る。


「いい手だ。突破に力を使えば出てきてから叩きやすい」

「よ、余裕か……。あの先王の娘ってだけはある」

「次はわたしの番だ」


 視界の端にはドゥーラと剣を交えているギルベールがいる。こちらにのんびり時間をかけてやるつもりはない。


 傍で炎が唸る。丸い塊は大きくなり、暴れ、形を作る。

 それは二体の炎の虎となると、炎の弾ける咆哮を上げた。


 視界に赤色がよく映える。驚愕の視線が突き刺さる。

 この戦い方は魔法に似ている。少しだけ懐かしくて自然と口端が上がった。


「――すぐ、終わらせよう」


 虎が駆ける。男は火を剣にまとわせ応戦する。守護獣もまた火を噴き、小柄な体で虎を躱す。

 ギルベールのように個人だけの力では守護獣やその力には対抗できない。この虎もそうだ。

 しかし、守護獣の力に守護獣で対するように、この虎に守護獣の力をまとわせた武器で挑むなら、それは戦える武器となる。


 いい対処だ。――相手がわたしでなければ。


(シルティの力はどこまでできるか)


 少し試そう。

 そう思って、さらに炎を生み出す。


 足元から生まれた炎の蛇は首をもたげて周囲をうかがうと、近辺で戦闘中の仲間のもとへ襲撃に出た。

 突然の炎の乱入に相手が動揺し、蛇に呑まれる。焼け焦げる匂いが鼻につきながらも、蛇はさらに周辺へと向かう。


(ギルベールのところへはやめておこう。邪魔をしてしまう)


 ギルベールは守護獣の力を有しての戦いには不慣れだ。わたしが補佐をしても、力の動き方が分からずに動きが鈍る可能性もある。


 周辺の掃除をしている最中も炎虎は男を相手にしている。

 二頭の炎虎を相手にしながらも動きは鈍らない。なかなかにできる人物だ。守護獣の援護も的確だ。


(守護獣の厄介さはなにも単体の強さで決まるわけじゃない)


 ちらりと視線を向ければやはり、帝国兵の中に同属性守護獣を集める隊がある。

 そんな彼らが打ち出すのは、水の力だ。


 それが、暴れ回る炎の大蛇に打ち出されると、命中した蛇の一部が湯気と化して消えた。けれど、消えた部分を補うように炎が繋がっていく。


 同属性の力は結集させればその分強力なものとなる。結集術だ。強力な守護獣に対する、対守護獣戦法。

 そんな者たちの力が炎の蛇を消していくが、力を結集させるために少々の時間を有し連打はできないようだ。蛇が与えたダメージは大きく、相当数の帝国兵を削り取っている。


(ふむ……)


 こちらを脅威と判断したんだろう。炎に有効な水属性の力を持つ者たちが集まってくる。

 敵の戦術に対し即座に動く。柔軟な指揮だ。


「シルティ様!」

「我々が援護を!」


 駆けつけてくれたのは第九師団と国境兵たち。ファルダ国の騎士たちは周囲を張り切って蹴散らしている。

 来てくれた者たちに向けて制止の手を挙げた。


「問題ない」






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