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落ちこぼれ公爵の守り獣  作者: 秋月


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42/65

42,慕う中に視えるもの

 再び会議室。増えたのは、ファルダ国軍の統率者であるというオスカーと隊長格が数名。見れば隊長格の中にはまだかなり若い少年もいる。

 まずは互いに自己紹介をする。おかげでシルティの情報本の人名と一致する者についても分かった。その上で接していけば問題ない。


 すぐにロドルス国側から状況を説明。オスカーたちは地図を見て話を聞き「なるほど」と頷いた。


「さすが姫様。数千の敵を瞬時に殲滅するとは。恐れ入りました」

「わたしがやらなくても、ギルベールがいれば問題なかったよ。時間を短縮させたにすぎない」

「いやいや。俺らじゃそんな火力出せませんって。姫様も腕は鈍ってないんですね」


 ロドルス国側では驚愕の表情を浮かべる者ばかりだが、ファルダ国側の面々は当然のように受け入れ、なんなら笑っている。


 緊張の欠片もなく軽やかに笑うのは、集まる中では最年少だろう少年。

 歳はおそらく十代半ば。髪は金色で、丸みのある耳と細く長い尻尾の先端には房が付いている。おそらく獅子の獣人だろう。


 自己紹介で「レオンハルトです」と名乗った彼のことは、シルティの情報本にも少しだけ記されていた。

 最年少でファルダ国騎士団の隊長の一人の座に就いた者だと。なかなかの強者らしいが、シルティ自身がとても親しかったわけではないようだ。


 会議の場だけれどさして緊張していないレオンハルトは、頭の後ろで手を組んで鼻歌でも歌いそうな態度をみせている。それに対して隣の隊長が容赦なく頭を叩いた。


「どうだろうな。剣術のほうが鈍っているかもしれない」

「ありゃ。振ってないんですか?」

「ない。ファルダ国じゃないからな」

「もったいねー。姫様と手合わせしたいなって思ってたのに」

「レオンハルト。姫様に対して無礼だぞ」

「構わない。レオンハルト、またの機会に」


 軽いやりとりをしていると隣から視線を感じた。どうしたのかと見ると、少し驚いたような目がわたしを見ている。

 それに軽く首を傾げて返すと「いや…」と濁る言葉が返ってくるから、思わず小さく笑った。


「緊張感がなくて驚いた?」

「……まあ、それもそうだが」

「いいよ、言って。いちいち目くじらたてるほど狭量なつもりもないし、君に怒る理由が一切ない」


 少しだけ迷うように視線を泳がせ、その黒い瞳がわたしを見つめる。今だけは、オスカーたちもガードナーたちもなにも言わない。

 静かな会議室で、ギルベールの小さな声が落ちる。


「……剣を、するのだな…と」

「……言ってなかったか?」

「ない」

「ん? あれ? 知ってたからさっきも戦場に連れていってくれたんだと――」

「あれはあなたが勝手に走り出したんだろう!?」


 もごもごしていたのに今度は怒りだした。ギルベールは相変わらず忙しい。

 それを見て「ははっ。うん、できる」と言うとどうしてか脱力したように力を失くす。なにやら心労をかけてしまったようだ。


 わたしたちを見てなにやら察したのか、オスカーが苦笑した。


「ギルベール殿。姫様は国内でも指折りの強者だ。その力はもちろん、体術剣術を始めあらゆる術を先王陛下から仕込まれている。戦場経験もおありだから心配は無用だ」

「初耳です……」

「御夫君にお伝えしていなかったのですか?」

「うーん……。ロドルス国ではそれが求められたことがないからな。わたしがするべきは社交だったから、発揮することもないだろうし」

「うえぇ……姫様それつまんなくない?」


 首を傾げた隊長の一人に答えると、レオンハルトがげんなりとした態度をみせる。また隣の隊長に頭を叩かれた。

 隣の夫が僅か反応したのを視界の隅に収め、わたしは軽く笑う。


「そうでもない。わたしも社交には今力を入れているところだから」

「ふーん」


 レオンハルトの目はひどくつまらなさそうだ。

 ファルダ国に居た頃のシルティはどう過ごしていたのか、思い出として記されていた内容以外をわたしは知らない。あまりにも違ったのかもしれない。


 レオンハルトの様子を見ていたオスカーが「んじゃ…」と話を戻す。


「姫様がそこまでをしたとなると、本格的に事に備えている可能性が高いな。ドゥーラも出てくるやもしれん」

「ドゥーラ以外にも強力な隊長格は三名。どこから来ても対応できることと、砦の防衛を合わせ、こちらも各隊に精鋭を据えたいと思っております」

「了解だ。ファルダ国軍(おれたち)は最前線に置くつもりだろう?」

「……問題は?」

「いや。そちらがこちらを置く位置は決めるものだ。異論はない」


 その答えにギルベールは僅か視線を下げた。けれどそれを顔に出すことはなく「分かった」とだけ頷く。

 返事を受けたオスカーも次にはその視線をわたしに向ける。


「姫様は無論、お出になるのでしょう?」

「ああ。だけどわたしはギルベールの傍にいる。そういう約束だから」


 僅か息を詰めるような様子をみせた隣のギルベールが息を呑んだ。驚いたように向けられる一瞥に視線を返す。

 その目をじっと見つめたまま、口端を上げる。


「それに、やってもらいたいこともある」

「……」


 今度はその表情が歪んだ。非常に分かりやすい。思わず笑ってしまうと、これまたひどくなる。

 大きく息を吐いたギルベールは「とりあえず」と意識を変えるように目の前の資料に向き直った。


「こちら側の増援が来るまであと少し。それまでのことと、今後想定される敵の動き、こちらの対応について協議しよう」






 今後についての協議は無事に終わった。バートハート殿たちが到着するまでにもよるが、互いに準備を整えれば次で大きくぶつかることになるだろう。

 それまで、敵の動きはロドルス国とファルダ国の密偵が探るだろうし、わたしも独自で探ることにしている。


 その報告を待つまでの間、ギルベールに騎士たちのもとへ連れていってもらうことにした。

 砦にいる騎士たちの中には、ギルベールと顔見知りの者やかつての部下もいる。久方の再会になりそうなら邪魔はしないつもりだ。


 衝突が近づいている今、騎士たちの間には緊張が走っている。厳重な警戒と見張り、その上で自己鍛錬に勤しむ者もいる。

 落ち着かないんだろう。いざというときに疲れている身体ではよくないが、気持ちは解らなくはない。


 訓練場で鍛錬に励む騎士たちのもとへギルベールが現れると、一斉に視線が向けられた。


「なかなか注目の的だな」

「社交界のときのようにか?」

「あれは煩かったが、今は半分煩いくらいかな」


 隣でがくりと項垂れている気配がするが、それは気にしない。

 周りを一とおり見ていると、こちらへ駆けてくる騎士たちがいた。


「若! お久しぶりです!」

「お元気そうでよかった……。あれからどうしてるか気になって……」

「ああ。心配をかけてすまない。俺は変わらずやっている。おまえたちも元気そうでなによりだ」


 ギルベールのかつての知り合いらしい。表情も和らいでいるのは気心知れた仲だからだろう。

 いいことだ。辺境領でかつて働いていた屋敷の使用人たちもだが、ギルベールを慕う者はちゃんといるのだと目に見える。


(ギルベールの人柄なのか、それとも……)


 かつてこの地を治めていたという男の知らない背中が、脳裏に浮かんだ。






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