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落ちこぼれ公爵の守り獣  作者: 秋月


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40/66

40,どこまでやりましょう

 ~*~*~*~*~*~






 当然出現した火の鳥。自然なものではないし、あれほどのものはそうそうお目にかかれるものではない。


 第九師団にあれほどのことができる火属性の守護獣持ちはいない。国境兵にはいるかもしれないが見る限りそれらしい人物はおらず、誰もが慌てふためいてパニック状態だ。

 だから、少々違和感を覚えつつも、あれが彼女の手によるものであると察することができた。だからこそ味方への被害を心配する必要もなく、俺は指示を出すことができたのだ。

 ……だが、それはそれだ。


「……あれほど派手なことをするなら事前に言っておいてくれ」

「ん? 君ならなんとかするかなっと」

「焼けるところだったんだが!?」

「ははっ。それはないから大丈夫だ」

「かなり危なかったが!?」


 俺になにかあっては困る。幸せにする。そう言っていた相手が容赦なく火だるまにしようとしてくる。……どう信用しろと?


(やはり、遊ばれているのか……?)


 これまで薄々感じてはいたが今ここではっきりと分かった。分かってしまえばため息が出るものだ。

 かといって、怒っても仕方がない。人を弄ぶとしてもその理由におおよそ察しはついてしまう。……俺にはなにも言えないのだ。


 その思考を払い、部下たちに聞かれないよう小声で俺は違和感を彼女にぶつけた。


「それに、あなたの力は光属性かと思ったのだが、違ったのか?」

「合っている。火も使えるというだけさ」

「複数……? 守護獣は一属性で、獣人たちも一属性だとばかり」


 彼女はただ軽く笑った。


 守護獣は一人一体、一体に一属性。獣人騎士たちも使う力は一属性だと経験上知っている。それがまさか、彼女は光と火を使えるとは。

 俺の後ろでは部下たちが火の鳥の威力に驚きつつも称賛する言葉を交わしている。気にする様子もなく彼女は身を翻した。




 ♢




 一旦は帝国兵を退けることができ、俺たちは砦へ戻ることにした。

 砦は襲撃により緊迫した様相をみせている。砦の前では騎士が集められ、それを束ねる屈強な男性もいる。

 そんな一団は俺たちに気づき、男性がすぐさま駆け寄ってきた。前方で膝をつくその人を馬上から見下ろし、違和感を覚えた。


「……ディザルバ?」

「はい。ディザルバにございます。お久しいですなあ、坊ちゃん」


 そう言って、懐かしがるように笑うディザルバ。俺も思わず馬を下りて駆け寄り、軽く腕を叩いた。


「久しぶりだ。今もここを守ってくれていたんだな。ありがとう」

「とんでもない。当然のことですよ。……坊ちゃんこそ、大変でしょう」

「そんなことはない」


 会うのはかつての戦以来。この国境を守る警備隊の団長を務める実力者は、しかし、少し老けたように見える。

 無理もないだろう。常に心身ともに酷使する仕事だ。かつての戦以降は周りの目も厳しい。


 かつてはともに戦場を駆けた先輩であり戦友は、涙もろくなったのか僅かに瞳を揺らしていた。しかしさすがは団長だ。すぐにそんな表情を消して頭を下げる。


「通達はすでに受け取っております。今後は指揮権を第九師団団長に預けましょう」

「……では、一部隊の指揮官として、俺や第二、第三師団長と同程度の隊を担ってもらおう」

「! そりゃあ、老体にゃ堪える仕事ですなあ」

「ぬかせ。まだまだ現役だろう」


 軽く笑い合えば、後方の騎士たちの表情も和らぐ。緊張で張りつめる空気が適度に解けた。


 ディザルバの後方には砦に勤めて国境を守る騎士たちがいる。その中には見知った顔もある。

 目が合えば軽く頷き、頭を下げる。そんな面々に抱くのはどうしようもない懐かしさだ。


「数日のうちに第二師団、第三師団、残る第九師団が到着する。まずはそこまで持たせるぞ。そこから帝国軍を退ける!」

「「「おおっ!」」」


 一斉に上がる声を受け、俺は砦内へと足を踏み入れた。






 砦内会議室。テーブルには何十枚もの資料や戦闘記録、駒の載った周辺地図などが置かれ、俺たちはそれを囲んですぐに会議を始めた。

 集まっているのは俺とディザルバ、国境兵の中でも部隊長を担う者たちと、俺の副官であるガードナー。それから……、


「……あなたも参加するのか?」

「するよ?」


 当然のような顔で唯一の獣人が同席している。俺の隣に座り、すでに視線は机の資料に向いている。


 事前の通達で彼女が来ることは知らされていたディザルバたちだが、ここに同席することには少々驚きの表情をみせている。ディザルバが問うように俺を見るが、こうなっては動かないだろうと思うし、先程の戦闘から考えてずっと部屋で待機させることもないかもしれないと思うからこそ、俺は軽く頷いた。


「では、なにかあれば言ってくれ」

「じゃあ早速」

「早い」


 まだなにも始まっていない。俺は慣れてきた彼女の行動だが、周囲にとってはそうではないのでいちいち視線が俺に刺さる。……彼女に問うてくれていいんだが。


「戦闘自体はここ三年ほどで増えている。どれも小競り合いで収まり国境兵の力で退けられていたが、二月程前に帝国では名の知れた武人が出てきたことで緊張が高まり、頻繁な衝突が生じている。なのにそこにその武人がいない。こちらの国境戦力を測られているだろう」

「今後本格的に仕掛けてくると?」

「だろうな。相手の規模はおよそ三万。国を潰すというよりも辺境領(ここ)が狙いであるくらいか」


 帝国はロドルス国とルタンダル国に接しているが、ファルダ国には接していない。ファルダ国を攻めるためには帝国から海上戦を仕掛ける必要があるが、ファルダ国とてそう易々と侵攻させないだろう。

 そういったことで国境を接するここを狙うのも理由の一つかもしれない。


「現在この武人の動向は?」

「密偵からは本陣を動いていないという報告が入っています」

「ふむ。さっきの一撃で戦況を少し変えてしまったから、あちらも少し間を開けるかと思うが、どちらにせよ、整えば戦だな」


 ディザルバもその武人を警戒しているのだろう。あまりにもあっさりと彼女が今後を予見するので、部隊長たちの顔は非常に強張ってしまった。

 しかしそんなことには気づいていないのか。彼女はぺらぺらと資料を捲りつつ、声を放つ。


「ギルベール。確認したいんだが」

「なんだ?」

「防衛に徹する? それとも、巻き返してあちらの砦の一つ二つでも奪う?」

「「「!」」」


 こてんと首を傾げて問う平然とした声に、会議室に沈黙が落ちた。俺も目を瞠って隣を見る。

 そこにあるのはさして大したことは言っていないと言いたげな、業務上の確認でしかないような、そんな表情。


「わたしとしては、あちら側の領地の一つ二つ奪ってしまえば君の功績になりひいては君の幸せに近づき――」

「防衛だ。進軍はしない」

「おや」


 きょとんとした目をしないでほしい。そして功績を持たせるために簡単に軍を動かそうとしないでくれ。

 ……もう、これが俺を弄ぶだけのものならとんでもなく質が悪い。やはり連れてくるべきではなかった。


「陛下からも防衛以外の命は受けていないし、踏み込むとなれば国軍を動かすことになる。あちらも抵抗するだろう。長期戦にさせたくない」

「なるほど。それが君の意思ならそうしよう」


 ……存外、素直に言うことは聞くんだな。少し意外だ。


 自分の方針が決まったのか、彼女は軽く尻尾を揺らすと視線を資料に向けた。どうやら口を出すのはここまでらしい様子を見て、俺たちはさらに会議を重ねることにした。


「相手は三万。隊長格が四名、その中の一人が名の知れた武人であるドゥーラ。最大の壁であるこいつをどう倒すか、だな」

「はい。過去何度かの戦闘でもこちらの戦力を多く削ってきた猛者です」

「こちらは二万……。すでに負傷者もかなりの数です」

「ガードナー。敵の侵攻が想定より早くなる可能性もある。土属性の守護獣の力を集めて可能な限り壁を作ってくれ」

「了解しました」


 あちら側にも先程相当の被害が出た。数千の兵を失った今、すぐに動くとは考えづらい。

 しかし、こちらの援軍の情報を得ていれば、今のうちに潰しにくる可能性も高い。俺の先鋒隊は百程度。差を埋めるには圧倒的に足りない。


 相手の厄介な隊長格。俺、ディザルバは当然出るとして、ガードナーまで出すと国境兵と合わせて適時指示を出す者がいなくなる。国境兵にも優秀な者はいるから、ディザルバから人選してもらうべきだろう。残るは……。

 考えて、ちらりと隣を一瞥する。その目はぺらぺらと捲る資料に向いていて俺を見ない。


(陛下からは同行させろと言われたが、戦闘させろとは言われていない。俺の判断に任せるとのことだが、彼女にもしものことがあればファルダ国が……)


 ――そうだ。後方部隊はおそらく数日後に到着するだろう。仮にそれより先に戦闘となると、もう片方の援軍次第で変わる。


「ディザルバ。ファルダ国からなにか連絡は?」

「はい。五日前に出発したとの連絡が。あちらからこちらへの到着日数を考えると――……」

「――来たぞ」

「は……?」


 隣の彼女が頭を上げた。同時に、扉がノックされ騎士が姿を見せた。


「報告します! ファルダ国より五千の援軍が到着しました!」






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