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落ちこぼれ公爵の守り獣  作者: 秋月


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39/65

39,二つの力

 それからも行軍は続いた。馬の調子を見るギルベールの目もどこか余裕が見て取れる。

 当初の想定よりも早く進み、無事に辺境領へと足を踏みいれることができた。


 目指すは国境。一直線にそこへ向かっていくと、どこか緊迫した空気が伝わってくるようになる。

 空を鳥が飛んでいる。まるで、これ以上は危険だとでもいうように。それを視界に入れつつ馬を走らせる。


 国境が近いとなると第九師団の騎士たちの表情にも緊張が見て取れるようになってくる。

 戦場が近い。誰もがそれを強烈に意識しているのだろう。


 そして、国境を守る砦が見えてきた。

 砦の前には複数の天幕が張られている。負傷者がいるんだろう、人も忙しなく動いている。一帯を守るように巡回や見張りらしい騎士が表情を硬くさせて歩いている。

 そんな彼らはやってくるわたしたちが掲げる王国旗と騎士団旗に気づき、慌てたように動き出した。


 砦の前ですぐにギルベールが馬を下りる。そんな彼に全員の視線が向いている。

 騎士団からの援軍に安堵する表情。ギルベールを見て驚いた顔をする者もいる。


 安堵と緊張が混じる中、砦から急いだ様子で一人の騎士がこちらへ向かってきた。

 そんな騎士と、動ける者たちがギルベールの前で膝をつく。


「陛下の命により馳せ参じた。騎士団第九師団団長ギルベールだ。団長はどこにいる?」

「ご助勢感謝いたします。現在、砦内にて隊長たちと会議を行っております。ご案内を――」

「で、伝令ー! 伝令ー!」


 耳が反応してすぐ、慌てふためいた声が聞こえた。すべての音を遮るようなその声音にこの場の全員の視線が向くと、走ってきた騎士が息を切らせながら報告を始めた。


「東のセルペ荒原にて衝突が起こりました! 現在応戦中ですが帝国側の数が多く……!」


 一帯に緊張が走る。同時に、後方で膝をついていた騎士が建物内へとすぐに走り出す。

 対し、ギルベールの判断は早かった。すぐさま騎乗し直すと手綱をとる。


「すぐに向かう。負傷者はここでそのまま治療を進めろ!」

「「「はっ!」」」

「あなたはここで待って――」

「状況が知りたい。急ぐぞ」

「なっ、おいっ……!」


 すぐさま馬で走りだす。この辺りの地理が頭に入っているギルベールが先頭を走る。隣を走っていれば視線を感じるが、今はそれを無視した。


 走りながら目に集中する。

 獣人は身体能力が優れている。人間の目よりも優れている獣人のそれに、さらに魔法を上乗せする。


 守護獣が用いる力。それは魔法とは言わない。守護獣が持つそれを人間は使えず、行使と方法の指示を出せるだけ。

 対して、わたしが前世で使い今世でも使えると知った魔法は、魔力を必要とし、詠唱もしくは魔法陣を通し、魔力を用いて出現させる力。守護獣が使う力とは異なる。


 獣人に守護獣はない。だけど、だからといって守護獣が使うような力を使えないわけじゃない。

 獣人にとってはあたりまえも、人間にとっては未知なのだ。


 遠くを見るために使う、遠視の魔法。獣人の目にそれを上乗せすればはるか先まではっきり見える。


(見えた――……)


 衝突する二つの集団。

 砦で見た隊服を着ているのが国境の騎士たちだろう。そうではないのが帝国の兵。数は数千同士というところだろうがロドルス国のほうが士気が低いようだ。


 だんだんと近づく戦場。確認できる場所まで来て戦況を見たギルベールはすぐに判断を下す。


「敵陣を左右から討つ。右翼は俺が、左翼はガードナーに任せる」

「「「はっ!」」」

「あなたは砦に戻れ」

「君の隊は中遠距離攻撃が難しい。わたしはここからそれをする」

「だがっ……!」

「時間の無駄だ」


 ぐっと言葉に詰まるギルベールは状況を解っている。だがその表情はまだ納得できていないようだ。

 知らないから無理もない。だから安心させるようにギルベールの頭を小突いた。


「!」

「君の妻を甘く見るな」


 小さく息を呑む音が聞こえた。周囲の騎士たちは沈黙しているからか、その音はわたしの耳にはよく聞こえる。

 ギルベールはぐっと唇を噛むと、すぐに顔を上げた。


「無理はしなくていい。危ないと思ったらすぐに引け」

「分かった」

「行くぞ!」

「「「はっ!」」」


 ギルベールが、ガードナーが、それぞれにおよそ五十の騎士を率いて馬を走らせる。


 相手の人数から見て焼け石に水かもしれない。だが、わたしが、第九師団の助力をたかが百名にはしない。もっと倍に、さらに倍に、膨らませて帝国を退ける。


 そのために、馬を下りてから魔法を使い、浮遊した。

 空を飛ぶというのはできるが、あれは少々難しい魔法だ。そもそもに人体には重さがあり、重力がかかるから、それに常に抵抗していなければいけなくなる。その分、消費する魔力も多い。

 しかし、浮くだけならば動き回る飛翔とは違って消費魔力も少なくて済む。……飛び回れないけれど。


 さて。戦況を空から見てみよう。

 ギルベールとガードナーのそれぞれは上手く攻勢に出られたようだ。それを見て、第九師団と国境兵に向けて、身体強化魔法を授ける。これならば膂力や脚力を引き上げ、少々は押し返す力も出るだろう。


 さて。次は各所への適時援護だ。


(とはいえこの援護、ギルベール個人には()()だから、他の騎士にだな)


 この目で見ると確かに、ギルベールは強い。帝国兵や国境兵はそれぞれが守護獣を顕現させ、その力も駆使している。

 だけど、ギルベールにそれはない。


 ガードナーは攻撃と防御に上手く分かれている。その指示を出して両方をバランスよく担っているのはガードナー当人だ。


(馬の守護獣か……。土の属性は防御の壁も地面への作用も可能だそうだから。なるほど。上手いな)


 帝国兵は火や水、風の力を使う者が多いようだ。国境兵も負けじとそれに応戦している。

 ギルベールとガードナーの援助で左右を崩すことができた。突然のことに帝国陣形全体が乱れている。ならば……。


(魔法ではないほうを試させてもらおう)


 屋敷でもこっそり庭で何度か試してみた。魔力を用いるそれとは違い、初めて使うときには慣れずに苦労したけれど、こなしたおかげでコツは掴んだ。それに、身体がしかと覚えていてくれたおかげだ。

 身の内の魔力ではなく、これは、呼びかけ、外の力を借りるもの。


 ぶわりと熱気が肌を打つ。左右に並ぶ、火の鳥。


 なにも言わずともその鳥は飛び、敵陣へと向かう。

 空にある火の鳥に気づいた兵たちが慌てふためく。その行動は敵も味方も同じだけれど、狙うは帝国兵のみ。国境兵や第九師団は素通りし、火の鳥は帝国兵を追う。

 空を飛ぶ鳥に足で勝てるわけがない。火の鳥の羽が触れれば、火が移る。


「ぎゃあああっ!」

「にっ、逃げろ!」

「焼け焦げにされるっ……!」

「水だ! 水の力で消火しろ!」


 すぐに水属性の守護獣が前に出て、火の鳥と仲間を消火させようとする。

 鳥は柔軟な動きで水を避け、鳥に気をとられる兵士は第九師団の騎士たちに討ち取られていく。混乱を逃さない動きはギルベールの指示だろう。


(さて。少々の時間を稼ぐには――……ああほら。力を貸しなさい)


 火の鳥が高く飛ぶ。青い空を背景に飛んだ姿を見つめ、戦地を指し示す。わたしの指示に応じて火の鳥はすぐさま動く。

 未だに混乱の気配が残る敵陣に、火の鳥が炎を吹く。それは風に乗って大きくなると、敵陣へと一直線に向かい、染めた。


 視線を動かすと、国境兵と第九師団は上手く土の壁を築いて炎を避けている。おそらく咄嗟に指示を出したのはギルベールとガードナーだろう。


 地面は焼け焦げ、震える形も残っている。難を逃れた者は恐怖に駆られ背を向けて走り去っていく。

 それを見たギルベールは剣を収めると、すぐに周りへ指示を出し始めた。


 わたしも地上へ戻り、ギルベールたちが来るのを待つことにした。






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