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落ちこぼれ公爵の守り獣  作者: 秋月


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37/64

37,こそこそからの堂々

 早々に同行を承諾したバートハート殿は腕を組んでボルダッツ殿を見る。


「どうする? 国境を守る大事な戦となりそうだが?」

「くっ……! 我が師団は物資繰りに回ってやるとする! 」

「重要部分ですのでくれぐれもお願いします」

「分かっとるわ!」


 バートハート殿は微笑むが、それを見たボルダッツ殿がぐわりと目を剥いた。さすがに陛下の手前それ以上はぷるぷると身を震わせるだけで留めているが、王太子殿下は柔らかな表情を困ったように変えている。

 これ以上はボルダッツ殿が暴れるかもしれない。そう思って俺は切り替えるように続ける。


「では、私はまず先鋒隊を選抜し明日には出立します。残る第九師団は第二師団に預け、第三師団と共に三日以内に出発を」

「ギルベール。私から一つ受けてほしい頼みがある」

「なんでしょう?」

「そなたの妻を同行させてくれ」

「「「………は?」」」


 ……俺は耳が悪くなったのだろうか? 戦場となるところへ騎士でもない女性を連れていけなど……。

 ああ、いや。うん。間違いだ。聞き間違いか幻聴だ。他の師団長たちも俺と同じように「聞き間違えたな」と確信を持った顔をしている。


「……申し訳ありません。陛下。どうにも聞き間違えたようで――」

「シルティ殿を同行させてくれ」

「「「………」」」


 聞き間違いではなかった。幻聴でもなかった。はっきりと個人名まで出された。


(………なぜ?)


 連れていく理由など一切ない。戦場においては誰にも死の危険がある。戦えない者を連れていくなど愚行だ。

 陛下とてそれは承知のはず。なぜそんなことをおっしゃるのか全く分からない。


 混乱と動揺にまみれる面々の中、俺は息を吐いて頭を冷静に、陛下に問う。


「理由をお聞かせ願えますか?」

「ファルダ国とは協力体制を敷かねばならない。彼女の力が必要だ」

「ですが……彼女に万が一があればファルダ国がなにを言うか分かりません」

「おまえが総指揮官として率いるからこそ行かせることができるのだろう?」

「それは……」


 ……そうかもしれない。

 だが、彼女という、ファルダ国にとって大きく強い光がある反面、俺という憎く恨めしい負もある。それがいいことになるなど、ありえない。相殺されればよいも悪いもないのだが……。


 だが、この頼みに俺は即答を返せない。

 戦場は危険だ。その場には個人の力も守護獣の力も溢れる。……俺には片方の力しかない分、守りきれると言えない。


「獣人は強い。我々が守護獣という存在を得ているように、彼らにも守護獣とは違う力がある。そうだろう?」

「はい……」


 獣人は戦闘力が高い。そして守護獣の力に対抗できる。

 人間は守護獣を持つが、獣人に守護獣はいない。しかし、守護獣と同じような力を彼ら自身が行使できる。だから守護獣持ちと獣人では力の優劣は付けられず、単純な身体能力に左右される。


(彼女も同じように力が使えるのだろうが、見たこともないな……)


 屋敷で過ごす彼女は一切それを使ったことがない。セバスやハインからもそれらしい報告は受けていない。


「なにも最前線へ出せとは言わん。そこはおまえの判断に任せる」


 机に肘をつき、合わせた両の手を口許に添えた陛下が俺をまっすぐ見る。


 ――……俺に、陛下の命を断る資格はない。


「……分かりました。同行させます」


 他師団長や騎士団長から面倒なことを起こさせるなとでもいうような視線を感じながら、会議は解散となった。

 解散の声を聞き、思わず息を吐く。窓の外でばさりと羽ばたく鳥の羽音がやけに大きく聞こえた気がした。






 鍛錬中の第九師団のもとへ急いで向かい、ガードナーと隊長たちにすぐに全員を集めるよう指示を出した。

 屋敷のほうには陛下から使いを出すと言っていただけたので任せることにし、集まった面々を前にすぐに事の次第を伝えた。


 表情を引き締める者もいれば、少し強張っている者もいる。不安や恐れは当然あるだろう、そういう表情も一人ずつ確認する。

 全員が集まるまでの間に頭の中で先鋒隊の選抜をある程度行っていたので、実際の表情と合わせて、行けそうな者の名を挙げる。先鋒隊としておよそ百名を選抜した。


「明日出立する。すぐさま準備を行い、明日に備えろ」

「「「はっ!」」」


 時刻はすでに夕方前。俺もこれから準備を行い、屋敷へも一度顔を出さねばならない。

 思わぬ同行者の移動手段はおそらく馬車になる。急ぎの旅路になるのでそのあたりのことは相談しなければいけない。場合によっては後から来てもらうことになるだろう。

 すでに胸中が重い。しかし、陛下はただの揶揄いでこんなことをなさるわけではないだろう。


 先鋒隊の面々と会議を行い、ガードナーとも話をし、空に暗さが訪れた時間になって俺は一度屋敷へ戻ることにした。




 ♢




 屋敷は少々慌ただしくなっていた。それも当然で、戻った俺に慌てたようにハインが駆け寄ってくる。


「おかえりなさいませ」

「ただいま。話は聞いているな?」

「はい……」


 きゅっと眉根を寄せ苦しそうな表情を見せるハインに、内心で困ってしまった。

 ハインの生まれは辺境領だ。下手をすれば戦場になるかもしれないそこへ俺が行くことになる、突然押し寄せたことに苦しさを感じるのは当然だ。


「彼女は、今どこに?」

「……お夕食を召し上がっておられます」

「い、いつもどおりだな……」


 ……視線を逸らして気まずそうに答える気持ちがよく分かった。そして脱力した。


 がくりと肩が落ちるが、話をしないわけにはいかないので俺も食堂へ向かう。

 食事をしていると聞くと、食堂にいると思う。そう自然に思うようになったのも最近からだ。


 俺の帰宅に気づいた使用人たちが慌てたように礼をし、あわあわと動きだす。気にするなと手を挙げて見送りながら歩くとすぐに食堂に着いた。

 ハインが扉を開けた先、いつもの席に彼女が座っている。視線は最初からこちらに向き、ナイフとフォークを動かす手も止まっていた。


「おかえり」

「ああ。……準備は?」

「終わってる。観光じゃないから持っていく物もないし、身一つで充分だろう」


 戦場に向かうのに観光に行くかのような準備をされてもそれはそれで困るが……。そういうところを彼女はよく理解しているのだろう。


(にしても、本当にいつもどおりだな。いきなり戦場に連れていかれるとなっても冷静だ)


 俺が忙しいのを察しているのだろう、料理長がすぐに胃に収められる軽食を出してくれる。それに礼を言ってから椅子に座り、食事をしながら彼女との会話を続ける。


「君の準備は?」

「師団での準備は副官に言ってある。これからまた戻るつもりだ」

「馬上で休息は取れないぞ」

「睡眠時間を削るつもりはないから問題ない。あなたの出立はどうする? 」

「君と一緒に行く。準備はできてるのに待っててもしょうがないし、わたしがいないときに君になにかあっても困る」

「……。馬で、休息は最低限で駆ける予定だが?」

「問題ない。馬に乗れる」


 ……そういう問題でもないと思うんだが。

 まあ、本人がそのつもりであるならそれでもいい。俺も後方隊に彼女を任せるのは少々不安が残る。バートハート殿や第九師団はともかく、他がどうか分からない。


「同行者はどうする? 身の回りのことは誰かいたほうがいいだろう?」

「いらない。自分でできるし、万が一に戦えない者を同行させるのは邪魔だ」

「……」


 いろいろと嵌らない人だが言っていることはそのとおり。まあ、今回はそれが助かるんだが。

 助かるような、困るような。しかしどうにも今はいつものような頭痛は感じない。


「あちらではファルダ国との仲介を頼むこともあると思うが、なるべく俺の傍を離れないでくれ」

「君こそわたしの傍を離れないように」


 互いを見て、思わずふっと笑みがこぼれた。

 少し、気が楽になった。そう思えて、不思議だった。


(まさか、こんなふうに想うときがくるとはな……)


 本当に不思議な人だと思う。

 だが同時に、こんな感情を持ってはいけないとも思ってしまう。


「……すまなかった。俺が断れずにこんなことになって」

「わたしは感謝している」


 平然と、けろっと、出てきた言葉は一瞬理解が追いつかない。ぱちりと瞬いてしまう。

 どうにも控える使用人たちも同じ様子であるように見受けられる。そんな中でも彼女はいつもどおりだ。


「……感謝?」

「こっそり君についていかなくちゃいけなかったところ、正式に堂々と同行できるようになったんだ。陛下には感謝しなければ」

「「「……」」」


 なにを言ってんだと言わんばかりに食堂に沈黙が落ちた。微笑んでいるのは彼女だけ。


(こっそりついて……正式に堂々と……)


「――なぜそうなる!?」

「? なるだろう? 君に何かあっちゃ困るんだから」

「行先を本当に解ってるか!?」

「戦場だろう? なにを言っている」

「その言葉そのまま返すぞ!」


 予想外にぶっ飛んだ彼女の行動力には今度こそ頭痛を覚え、頭を抱える俺を見て彼女は笑っていた。






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