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落ちこぼれ公爵の守り獣  作者: 秋月


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16/59

16,馘首

 ~*~*~*~*~*~






『この件、いつから気づいていた?』


『あるドレスをまた着たいなと思ってメイドに伝えたときに言われたんだ。「同じドレスは二度着ない」と。もともとあまりいい情は向けられていなかったし、こっそり保管室へ見にいってね。そのときに』


 本来のシルティが気づいたきっかけは日記に記してあった。……それは一年前の記述であったけれど。

 年数だけは伝えずに言えることを言えば、ギルベールは使用人の態度に顔を歪めていた。


(いつから……。それを正確に言えばギルベールは胸を痛めるだろうな。……境遇のせいか、繊細なところがあるようだ)


 ぱらぱらと紙を数枚手にして目を動かす。次から次に目を通していく。


 この半月で調べた結果を記した書類。町に出て見つけた結果と、わたしの聴覚を利用して屋敷内のことを調べた結果。

 これらはどちらもギルベールに提出して判断の足しにしてもらうつもりだ。


(夜会まであと一月。執事君と従者君の調べはどれくらい進んでいるか……)


 ギルベールからの指示でもあるから急いではいるだろう。けれどこれは見つかってはいけないものだからこそ、二人も平静を装っているはず。

 この結果はすぐにギルベールに渡して、二人の仕事を楽にもできるはずだ。

 そう決めて書類を整えて机に置く。


(さて。これはこれとして。半月前に出した要望がそろそろ整うはずだから、追加の頼みを――)


 紙を一枚取り出してさらさらとペンで書き物をする。

 この書き物で重要なのは、これの書き主が『シルティ』であることを証明すること。とはいえ、受け取ることで証明されるようなものでもある。


 とりあえずは急ぎの内容を書き記す。ペンを置いてから、わたしは窓を開けた。

 風が心地よく吹き込んでくる。少しだけそれを感じていると、ぱたぱたと一羽の鳥がやってきた。窓枠に降り立ってわたしを見上げる。

 それを見て自然と微笑んだ。


 ここしばらくわたしも調査に勤しんでいたけれど、他にもやるべきことはある。

 とはいえ、やはり動き辛さはある。


(ふむ…。やっぱり自由に動きたい……とはいえ、この見目はそう隠せないからそれも難しいし、面倒な立場もある。……人がほしい)


 ない物ねだりだとは解っているけれど。

 さらに欲を言えば、夜会なんかの社交界に関しての情報もほしいものだ。


 シルティの日記二年分の中でとりあえず読めている内容から察するに、シルティもギルベールも非常に社交界では微妙な立場であるということだ。

 理由は簡単であり、そう易々と覆せない事実である。


 シルティはロドルス国へ来てからギルベールとは社交会に参加している。そして、あるときの夜会でギルベールとダンスを踊って失敗したらしい。

 それ以降二人はダンスを踊ることはなく、シルティは公爵夫人として茶会などの婦人の集まりにも参加していたようだけれど、招待された理由は想像に易い。

 考えてため息が出るのだからどうしようもない。それに、日記から察するにシルティもそれは理解していたようだ。



『覚悟してロドルス国へ来たのだから、これくらい、平気。わたしが閉じこもってしまってはギルベール様にご迷惑をかけてしまう。そんなこと、しないように頑張らないと』



 自身の決意だったのだろう。そんな言葉が日記に書かれていた。

 周りにどう見られても、なにを言われても、それを書いた上でそれでも…と彼女はいつも自分を顧みないことばかり書いている。読むたびに鈍く胸が痛むのは、『わたし』なのかそれとも――……。


 そんな社交界での立場だ。『わたし』はそこから始まることになる。


(シルティとギルベールのことで最も変えやすいのは――……)


 考えながらシルティの日記の内容を思い出す。そして「ふむ…」と息を吐いた。

 同時に、関連するように日記に書かれていたある内容を思い出した。


「――……そういうのも悪くないかな」




 ♢




 屋敷の使用人は、ギルベールの父であるジルベールが王籍を外れるとき、屋敷と一緒に用意された者たちだそうだ。さらに彼は辺境に領地を与えられ、そちらにも屋敷と使用人をもった。

 両屋敷の違いは、王都の面々で構成されたか、辺境領の面々で構成されたかの違い。生まれ育ちが違えばやはり気風も違うのだろう、辺境の屋敷から移ってきたというセバスは「辺境領は軽さと親しさがありました」と教えてくれた。


 しかし、ジルベールが王家に反旗を翻した。領地は没収され使用人たちは解雇。セバスを筆頭に数名が王都の屋敷でもついていくとギルベールについて王都へ来たらしい。

 王都の屋敷でも人手は減った。世間からの風当たりは強く、その選択は当然の流れだった。


 しかしすぐ、シルティを娶る話が出る。

 他国の姫君が来るとなると当然世話をする者が必要になる。自分だけだしいいだろうという判断で使用人を最低限というわけにもいかない。ならばと辺境領で雇っていて泣いて別れた者たちを呼ぼうかとも考えても、辺境領で雇っていたのは平民や下位貴族の者たちであり他国の姫君を世話するには少々釣り合わないので、高位貴族に仕えた経験のある者や、一般市民でも商会の者でもいいから下働きができる者を募集した。

 決して多くが集まったわけではない。広大な屋敷をもつ公爵家が雇うには圧倒的に少ない人数だ。


 それでもとりあえず都合をつけ、シルティを迎えた。

 二年という時間の経過から少しずつ雇う使用人も増えた。まだまだ少ないと言われる人数だが、今までなんとかやってこられた。


 それが、ロザロス公爵家の現状だ。

 そして、その少ない使用人を減らすことになる。






 夜会を半月後に控えたある日。公爵邸の一室に使用人たちが集められた。

 使用人たちの前に立つのは主であるギルベール。セバスやハインも傍に控えているし、もちろんわたしも同席している。


 そして、ギルベールによる一斉馘首が始まった。


「……非常に残念だが、これまでご苦労だった。明日中にはこの屋敷を出ていくように」


 わたしの調査とセバスとハインによる人事考査と調査。それらにより馘首する者たちには各々がなした罪が明らかにされた。

 わたしの物を盗んでいたんだろうメイドたちからは突き刺さるような視線を感じる。けれど微笑みを返しておくことにする。


 わたしはシルティとは違う。黙って我慢するなんてことはしない。


 シルティはこの件に気づいていた。気づいていて、なにも言わなかった。

 ギルベールやセバス、ハインに能力不足を突き付けることも、メイドを責めることもしなかった。ドレスや装身具がなくなっても、ギルベールに注意されても、自分がそれを我慢して受ければいいだけだとしていた。


 シルティは身に沁みて理解していたんだろう。――自分が余所者であるということを。


 日記から察するに、シルティは諍いを好まない人物だったようだ。だからこその対応だったのだろうし、それについてどうと言うつもりはない。

 わたしはわたしであるからこう振る舞える。シルティにはシルティの考えとやり方がある。戦う相手でない今、このやり方について「そうしていた」ものとしておくだけだ。


 そもそもに、シルティもギルべールも相手が自分を憎んでいると思っていたから互いにそんなやり方接し方しか浮かばなかったんだろう。全くもって困った似た者同士だ。


「そんなっ…」

「これからはちゃんと――」

「あ、あのドレスはすべて奥様が私たちに下賜くださったもので……!」


 堂々と、そしてどこか怒りをにじませるように通告したギルベールに使用人たちは食い下がるが、それを見るギルベールの目が静かな怒りと冷たさを宿した。


「――…下賜した? 彼女が直接、おまえたちに下げ渡すと言ったのか?」

「そ、そうです! 奥様はそう私たちに――」

「保管してあるドレスの管理をしていたのはおまえたちだろう? あれほど数が減っていてなぜ止めなかった? そこまでしておいて、彼女が俺にドレスを求めるしかない状況を作って嗤っていたというわけか? 仕える相手を誰だと思っている」


 決して荒げることはない。けれど、ギルベール自身が持つ騎士としての堂々とした威嚇は使用人たちを怯ませるには充分だ。


 わたしに責任転嫁するなど、愚かなことをする。すでに調べた証拠はギルベールの手にあるのだから。

 なお言いつのろうとする者たちの言葉に耳を貸すことなく、わたしを一瞥してから部屋を出る。わたしもそれに続き、部屋を出た。

 わたしもギルベールも振り返ることはなかった。






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