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落ちこぼれ公爵の守り獣  作者: 秋月


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11,目指す形を模索中

 さてはギルベールはこの人物の護衛でもしていたんだろうと読み取っていると、その人物は口許に笑みを湛えながらやってきた。


「いやいや。なかなか凛然とした御方だ」

「わたしは別段に大したことは言ってない。ああいう連中は最初から被害者になりたがる。ファルダ国に入って自分が同じ目に遭って、戻ってきて今度は自分がする側になっても結局は、やられたという被害者意識だけが残ってる。そういうのは嫌いなんだ」

「おいっ――…」

「尤もだ」


 どこかの貴族らしい人物はわたしの言葉に頷く。


 その目をじっと見返した。微かな嘲りでも見えるかと思えば、そういうものは見えない。逆に探られているようであまり好ましいものでもない。けれど悪くない目だ。

 ギルベールもそれ以外の騎士たちも僅か眉を寄せているけれど、それは今は気にならない。


 僅かに見つめ合い、目の前のその男性は口許を緩める。


「あなたの目にこの町はどう映った?」

「町自体は整備もされているし賑わいもあっていいと思う。人に関しては言ったとおり。どんな場所でも、新しい風が吹いていないと停滞と狭さにしかならない」

「獣人は新しい風になりそうかな?」

「今吹かせたら暴風になるだろうな。来てくれても石を投げられちゃ二度と来たくないだろうし、悪化するだけだ。……それでいうなら国王の考えもよく分からないな」

「というと?」

「王都民や貴族に獣人差別意識があるとして、ファルダ国との接点の取り方が中途半端に感じたんだ。なにか考えがあってなのか、嫌いすぎていらないし徹底的に潰そうと思っているのか、とか。潰すならわざわざ姫をもらわなくてもいいだろうとも思うし」

「嫌いすぎて……。ハハッ。それは面白い!」


 貴族さんはとても気さくな人らしいし、どうやら獣人との会話も平然とするようだ。代わりにギルベールや騎士たちがひどく驚いた顔をしているけれど。

 周囲からはまだちらちらと視線を感じるけれど、どうやらこの人もそれはあまり気にしていない様子でその目をわたしに向けたまま。


「しかし、ギルベールの妻であるあなたなら貴族社会や国王陛下にも獣人との融和を訴えられるはずだ。そうしようとは思わないか?」

「話が通じるのはギルベールだけだろう? そしてギルベールは上に話を通せない」

「!」

「物事をなすには力が要る。生憎と、今のわたしにそれはない。やりたいことはいくつかあるけれど、それを勝手にしてもいいものか……」

「……」


 ちらりと視線を向けると、実に納得できないという表情が返ってきた。それを見て肩を竦める。


 実に不自由な立場だ。こんなものを無視して動いてしまいたい。

 けれど、それをすれば貴族社会では高位だが立場は弱いギルベールがきっと苦労するのだろう。そう想像するにはシルティの日記は詳細すぎた。


(なにも迷惑をかけたいわけじゃない)


 わたしの責任をギルベールに負わせるつもりはない。わたしが動き、わたしが対処する必要がある。

 けれどそれをするための立場がわたしにはない。シルティが城内でなにかしらの役職に就いているのならともかく、他国から来た身にそれはない。


「獣人への差別的言動に怒るのは分かる。それは俺も同じだ。だが、だからといってあなたがどうこうしようとしなくてもいい。可能な限り俺が――」

「わたしと君の婚姻は別に友好のためではないしね」

「……っ」


 きゅっと寄せた眉に力が入るのが見えた。


 わたしは所詮は人質同然の身だ。そういう扱いだ。何かをすることはさして求められていない。

 動けば周囲の目も動く。口が動く。不自由で動きづらい。



『わたしは平気。なにを言われたって、聞こえていないフリくらいできる。覚悟の上でこの国に来たのだから。……ただ、ギルベール様まで、わたしのせいで悪く言われてしまうことだけは心苦しい』



 日記の文字を思い出す。

 日記の中に、そういった類の言葉は多かった。当然の続きのようにその名前も記して。思いを配っていた。


 二人を結んだ出来事が二人を遠ざけ、その出来事があったからこそ相手に心は向けていたんだろう。


(シルティ。それでも君は、傷ついていたはずだ。――……ああ。全く。どこまでも似た者同士め)


 だからわたしは、わたしのままで在る。シルティと同じことはしない。

 それでいて、前世とは違う生き方をする。


「わたしはロドルス国にはなんの情もないし、情ならファルダ国へのほうが大きい」

「……」

「言っておくけど恨みつらみはない。情をもつほどになにもしていないというだけだ。――君だって、わたしに恨まれていると思っていただけで、情はないだろう?」

「……っ」


 なにかを言いたげに、けれどなにも言葉にせず、ギルベールは眉を寄せる。そんな様子を貴族さんが横目にちらりと見た。

 ギルベールは眉根を寄せても、それでもわたしを見ている。目を逸らそうとしない様はどこか好感が持てて、自然と口端が上がった。


「だから、わたしはわたしの好きにしようと思う」

「……どういうふうに?」

「今はその形を決めているところ」


 ふふっと笑って答えると、なにかを考えていた様子のギルベールが自分を落ち着かせようとするように大きく息を吐いた。そんな不服であると言いたげな様にまた笑う。

 ギルベールを見ていると、貴族さんが顎に手をあててわたしをじっと見つめた。


「好きにする、の中に、ロドルス国と敵対するような可能性はあるのかな?」

「わたしが潰そうと思わない限りはないだろう。戦は好きじゃない」

「そのとき、ギルベールは君の敵になるかもしれない」

「そのときは戦うことになるだろう」

「夫でも?」

「親兄弟でも」


 親子でも、兄弟でも。敵対することは珍しいことじゃない。

 そういうものだろうと思って言ったが、ギルベールや騎士が驚いた顔をして貴族さんがぱちりと瞬く。黙って見守るリアンがあんぐりと口を開けていて、それを見て小さく笑ってしまった。


「ほお……。まるで、やろうと思えばできる、と言うようだ」

「ははっ。そこまで自惚れてはいないし自信過剰でもないさ。いくらわたしでも単騎で国が盗れると思うほど馬鹿じゃない。国のために動こうというのは、それ相応の目的がなければできないだろう? 逆もまた然り」

「なるほど。――面白い女性だな」

「それはどうもありがとう」


 一歩間違えれば国王へ突き出されてもおかしくない言葉の羅列。だけど貴族さんは口角を上げただけ。

 後でこっそり…なんて可能性もあるだろうけれど、不敬と命の惜しさで口を噤むつもりはない。呼び出しでもくらえば言いたいことを言えるだろう。


「それに、基本的にわたしは国に興味はないし、そんなことに時間を費やすならば自分のことに費やすほうが有意義で好ましい」

「ははっ。それは同意する。ではそうだな……獣人との友好のために手を貸してくれと言われたらどうする?」

「その裏に王都民や貴族と同じ情が見えなければ」


 貴族さんを見遣るとその目は逸らさずわたしを見ていた。ふっと軽くどこか不敵な目をしているから、わたしも同じものを返す。

 互いに見つめ合っていると、傍から咳払いが聞こえた。


「ああ。すまないな、ギルベール」

「いえ……。今日はもう帰ったほうがいい」


 後半はわたしに向け、ギルベールはきゅっと眉を寄せる。

 これ以上ここにいると言っても納得しないだろう。帰れと言われるのが目に見えている。ふむ……。


 その目を見返して、わたしは肩を竦めた。


「分かった。またにしよう」

「……。また来る気か……!?」

「獣人を見慣れるにはそうするしかないだろう」

「……」

「ああ、それから、帰ってきたらちょっと付き合ってくれ。話がある」

「……分かった」


 外套のフードはもういらないだろう。リアンに「帰ろう」と声をかけてから、皆さんに軽く頭を下げて場を辞する。

 さて。次の散歩はいつにしようか。


「……買い物はできたのか?」

「いえっ。奥様はなにも買っておられません。今日は馬車も使わずに徒歩です!」

「は……?」


 悪いけれど耳は良い。だからギルベールとリアンの会話も丸聞こえ。

 理解が追いつかないというような抜けた声には笑ってしまった。






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