第7話 人造魔族、吃驚(びっくり)する
祭りも佳境に差し掛かり、俺も自分の新居へと戻る。
シュウナさんのおかげで、幾分か心が軽くなった。
俺より年下とは思えない、自分の考えを持った、立派な人だ。尊敬する。
二階の寝室に入り、能力で出したベッドに飛び込んだ。
ふわふわのベッド……心地よすぎる。
(はぁ……ようやく休めた……)
こっちに来て、最初は心配だったけど……意外となんとかなりそうで、助かった。
……いや、心配事がなくなった訳じゃないか。
この体は、魔王が作った人造魔族。まだあいつらが、俺を探しているかもしれない。
もし捕まったら、記憶を消されたりするんだろうか。そうして、人間と戦う兵器として駆り出されて……。
身震いがした。恐ろしい。小心者の俺に、人間と戦うなんてできる訳がない。
もう考えるのはよそう。一先ず寝て、疲れを癒そう。風呂は明日の朝入ればいいか。
(おやすみ、異世界。また明日)
◆◆◆
祭りの片付けも終わり、村中も静かになった深夜。
誰も気付かず、誰も起きない中……村のある場所が、薄くぼんやりと光を放っている。
それは紛れもない、コジロウの住んでいる樹木家の二階……彼の寝室であった。
発光の元は、コジロウ自身。だが彼は、それに気付かず眠っている。
「すぅ……すぅ……」
寝息と共に、光が明滅する。
すると、次第に光が樹木を通り、地面へと流れ出る。
村中へと広がっていく光。それが各家の住人を包むと、溶け入るようにして消えていく。
だが誰も起きない。
みな、安らかな顔で眠っているだけだった。
◆◆◆
「……んっ……朝……?」
窓から日の光が差し込み、強制的に起こされた。
眠い。けど日の光で起きるなんて、なんて建設的な生活なんだろう。寝起きに陽光を浴びるのは健康にいいって、雑学動画でも見たことがある。
窓を開けると、夜明けの涼しい風が頬を撫でた。
「……気持ちいい……」
「おはようございます、コジロウさん」
風を全身で感じていると、下から聞き馴染みのある声が。
下には、もう畑仕事に向かうのか、シュウナさんとミーネちゃんがいた。
「おはよう、シュウナさん。ミーネちゃん。早いね」
「おはよー、こじろーおじさん!」
「私たちは農家ですから。早起きしてお仕事するんですよ」
あ、そうか。この村の働き口って、それくらいしかないのか。
他に物を売ってる店も見当たらなかったし……よし。
「俺も手伝うよ。準備するから、先に行ってて」
「わかりました。では、東の畑にいますね」
頭を下げるシュウナさんと、手を大きく振るミーネちゃんを見送る。
俺もさくっと身支度を整えるかな。
汲み上げた地下水を、温める魔法陣を通じてお湯にし、シャワーとして浴びる。
昨日の汚れをサッと落としてから、昨日余った肉串を胃に流し込み、家を出た。
こちとらブラック勤め十数年。朝の身支度なんてちょっぱやだ。
家を出て、東の畑地帯に向かう。
他の家々も起きているみたいで、あちこちから焚き火のいい匂いが漂っていた。
「えっと……あ、いた。おーい」
……なんか、呆然としてない? 大丈夫か、あの二人?
「シュウナさん、どうしたの?」
「あ、コジロウさん。それが……」
呆然と見つめる先を、俺も見る。そこには……。
「「「せいや! せいや!」」」
「「「そいや! そいや!」」」
「「「えいや! えいや!」」」
偉く張り切っている、マッチョたちがいた。
…………。
「この村のご老人たち、元気だね」
「いえ、昨日までは皆さん辛そうに仕事してました」
「みんなこしいたいって言ってたよ〜」
そんな馬鹿な。だってあんなに元気じゃないか。
三人並んで異様な光景を見ていると、一人の男性がこっちに気付いた。昨日、俺の家を訪ねてきた、ダネルさんだ。
「おー、コジロウさん、よく眠れましたか?」
「お陰様で。それより……なんだか皆さん、元気ですね」
「そうそう。なんか俺たち、朝起きたら体の節々から痛みが消えていたんですよ。しかも体まで、若い頃みたいに張りが戻っていてね。何が起こってるのかわかりませんが、今のうちにできることをやっておこうってね」
「そ、そうですか」
ムキッ、ムキッ。大胸筋を動かさないで。なんか嫌。
引き笑いを浮かべていると、収穫したばかりの芋が入った袋を、お婆さんが担ごうとしていた。
あれ、多分50キロ近くあるぞ。そんなの持ったら、腰をいわしちまう。
「あ、お婆さん。それ、俺が持──」
「はいヨイショオッ!」
ズンッ。……持ち上げやがった、軽々と。
「シュウナさん、あれは……」
「昨日まではできませんでした」
「おばーちゃん、ちからもっちもちだねぇ〜」
いやいやそんなレベルでは無い気が。
な……何が起こったんだ、いったい……?
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