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第6話 人造魔族、約束する

 それからはお祭り騒ぎだった。

 古い物を新品にする稀代の魔法使いやら、村を救った英雄やら、未知のものを作る神様やらと持ち上げられ、村を上げて俺に対する感謝で溢れていた。

 こんなに崇められて、悪い気はしない。

 けど……それ以上に、気が沈んでいた。



(はぁ……やっちまった……)



 広場で楽しんでいる村人たちを見ながら、葡萄酒の入ったカップを手に座り込む。

 化け物とは言え、生き物を殺した後なんだ……へこむよ、本当。



「コジロウさん、大丈夫ですか?」

「え……? あぁ、シュウナさん。大丈夫だよ」



 心配そうな顔をしている彼女に、笑顔を返す。

 うまく笑えているだろうか。わからない。

 と、ミーネちゃんが俺の前に、焼いた肉串を差し出した。



「こじろーおじさん、どーしたの?」

「な、なんでもないよ。ちょっと疲れちゃってね」

「つかれちゃったんだー」



 特に興味もないのか、気にしてもいないのか、俺の隣に座り込んだ。

 シュウナさんもミーネちゃんの隣に座り、水道から汲んだ水を飲んでいる。



「……シュウナさん、聞いてもいいか?」

「なんでしょう?」

「俺は……さっき初めて、生き物を殺した。でもあれは、ここじゃあ普通のことなのか?」



 祭囃子が遠くに聞こえる。

 村人たちの笑い声が喧しい。

 この精神状態、覚えがある。地獄谷商事で血反吐を吐くまで働かされてた、若い頃と同じだ。



「えっと……普通っていうのはわからないですけど、意外といますよ、そういう人」

「……え、そうなの?」



 まさかの解答に思わず顔を上げる。

 シュウナさんはきょとんとした顔から、一気に苦笑いになった。



「コジロウさんがどこで生活をしていたのかは、わかりません。でも大都市に住んでいる人は、一生魔物と出会わずに生涯を終える方も少なくないと聞きますから。当然、生物を殺したことがない人も多いです」

「そ……そう、だったのか」



 なんだかホッとした。

 こういった世界だから、魔物と戦わない男に価値はないとか、臆病者とか思われるのかと……。

 安堵のため息をつくと、シュウナさんは「でも」と続けた。



「私は、そういった方々の方が、好感が持てます」

「……どうして? この世界じゃ、強い男の方がいいんじゃないの?」

「確かに、そういう方にも魅力は感じます。でも……あまりに、死に慣れ過ぎているんです」



 え……?

 シュウナさんの言葉に、黙ってしまった。

 死に慣れ過ぎてる? それってどういう……?

 彼女は、お腹いっぱいで眠ってしまったミーネちゃんを膝枕して、淋しそうに遠くを見る。



「この村は大都市や王都みたいに、巨大な石壁で護られていません。寝ていても起きていても、常に魔物に襲われる恐怖があります。そして今日みたいに、戦うことも珍しくありません」

「……もしかして」



 シュウナさんの言いたい事が、なんとなくわかった。

 彼女が無言で頷くと、ミーネちゃんに目を落とす。



「戦いに慣れると、色んな死に慣れてしまうんです。相手の死にも、隣人の死にも……身内の死にも」

「…………」



 最後の言葉に、何も言えなかった。

 身内の死。つまり両親か。はたまたどちらかが……魔物との戦いで、命を落としたんだろう。

 そんなの……余りにも辛すぎる。



「私、この村の人たちが好きです。……でも、誰かを護るために、軽々しく自分の命を投げ出す人は……嫌いです」

「それは……」

「わかってます。……みんな、大切な誰かを護るために戦っているって。そういう人たちがいたから、私たちは今もこうして生きていられる。そして……それに、慣れ切っている私も、私が嫌いです」



 ……シュウナさんの気持ちは、なんとなく……わかる。

 日本に住んでいたら、平和な日々が当たり前。戦争が無いのが当たり前。銃や剣なんか見ないのが当たり前。……そういう日常に慣れ切っている。

 何に慣れてしまうかは、住んでいる環境が影響する。

 俺にとっての普通は俺の生きてきた環境で、彼女にとっての普通は彼女が生きてきた環境。

 だから……死に慣れてしまうのも、仕方のないことなのかもな。

 お互いに暫く黙っていると、シュウナさんはミーネちゃんを抱っこして立ち上がった。



「コジロウさん。どうか今の気持ち、忘れないでください」

「今の……気持ち……?」

「……殺すことに慣れないでください。死に慣れないでください。自分の命を大切にしてください。……約束、してください」



 …………。



「……守るよ、絶対に」

「ふふ。……おやすみなさい。また明日」

「おやすみ」



 去っていくシュウナさんを見送る。

 けど……なんとなく、疑問に思った。本当は聞いちゃいけないんだろうけど。



「シュウナさん」

「はい?」

「……君、歳いくつ?」



 余りにも大人な物言いに、思わず聞いてしまった。

 シュウナさんは少し振り返り、人差し指を立て……。



「な、い、しょ、です♪」



 大人っぽく、でもどこかイタズラっ子のような微笑みで、返してきた。

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