第1話 人造魔族、逃げる
──ここは、どこだ……?
深い眠りから覚醒する。
……生暖かい。なんだこれ。気持ち悪い液体に覆われてるぞ。
緑色で、気色悪い。臭いも鼻が曲がりそうだ。
おかしいな……確か俺、仕事に向かう途中だったはずだ。
いつもの満員電車を待っていたら……そこから記憶が無い。どうしたんだっけ。
「────」
「……! …………ッ!」
なんだ? 外から声が……。
「……ガッ……ぼっ……!?」
い、息ッ、できな……!
そうか、粘液に包まれてたら、息できないのは当たり前……!
つか苦ッ。これ、臭いじゃなくて味か……!
「──!?」
「…………!」
誰かいるのか……!? お願いだっ、助け……!
直後、液体を包んでいた袋が、何かによって切り裂かれた。
ドロっとした感触と一緒に、外へ流れ出る。
「ゲホッ、ゴホッ!」
く、空気がある。助かった。
「ば、馬鹿な! 魔王様ですら破壊できない、龍の子宮を使って作られた胎嚢を一撃で切り破いただと……!?」
「ククク。我が血肉に加えて、最強種の肉片を媒体に作ったのだ。そうでなくては困る」
は……? 魔王? 龍? 最強? 何を言ってるんだ?
霞む目を擦り、顔を上げる。
骸骨がいた。目は落窪んでいて、黄金の光がある。
その横には、触手の塊みたいな謎生物がいた。
……何これ。
「えっと……あ、ドッキリ? 素人相手にドッキリ企画か何かですか? うわ、その被り物リアルですね」
「ばっ、馬鹿者! 貴様、魔王様の御前であるぞ! 弁えよ……!」
触手生物がワチャワチャ騒ぎ出した。
この触手、どうなってんだろう。滑らかに動いてるけど、機械かな?
「良い、下がれ」
「ハッ、魔王様」
骸骨(魔王)が一歩前に出る。
あ、これ作り物じゃない。……本物だ。
理由や理屈じゃない。直感で理解した。
純白の骨の手を振るう。それだけで、俺の体についていた粘液は弾け飛び、黒い服が現れた。
「意識はしっかりしているようだな」
「……何者、ですか?」
「我が名はエルドール・ド・アルテリア・リーズベン・ホルタニア・ルオゥ。貴様を作り出した親であり、魔族を統べる王である」
……なんて? 全然覚えられなかった。
……いいや。暫定魔王ってことで。
この服といい、ガチ骸骨といい、触手生物といい……恐らく、異世界って所なんだろう、多分。
もしかして、異世界転生ってやつなのか?
てことは俺、地球で死んだの? 覚えてないんだけど。
まあ家族もいないし、死ぬほどブラックな職場だったからな。ガチで死んでもおかしくなかった。けどまさか、本当に死んでしまうとは。
……意外と冷静だな、俺。
一先ず自己紹介されたし、俺も名乗っておこう。
「初めまして。地獄谷商事営業係長、田中五郎と申します」
「じ、じご……かかりちょー……魔王様、こやつ何を言って……?」
触手生物がうねうね動く。
魔王も、自身の口元を手で覆い、何かを考えてるみたいだった。
「恐らくだが、先程行った魂召喚の儀で、人間の魂を定着させてしまったみたいだ」
「に、人間……!? それでは失敗では……!」
「案ずるな。今から我の知識を与え、魔族の本能を呼び覚ます。さすれば、我が軍最強の存在となるだろう」
魔王が手を俺の頭にかざす。
次の瞬間──脳内に、様々な記憶が流れ込んできた。
ちょ、多い、多い。頭が破裂する……!
「アッ、あっ……ああああああああああああああああああああああああああああッ!?」
「ッ!!」
「魔王様──!」
何かが、弾けた。
──ゴオッ!! ズゴシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!
「はっ……はっ……はっ……」
頬から冷や汗が流れ、床を濡らす。
砂埃の中を見渡すと、部屋が粉々に吹き飛んでいた。
これ、俺の力だよな。力が弾け出た感覚がある。
そうか……俺、人間を滅ぼすために作られた、人造魔族なのか。
自分の手を握り、情報を整理する。
…………。
「逃げよう」
幸い、今の爆発で魔王も触手生物も吹き飛んだ。
死んではないと思う。気配がするから。
けど、近くにいない今、逃げるしかない。
人を殺す? 無理無理ゴキブリすら殺せないんだぞ。
「えっと……こうっ」
与えられた知識と、潜在スキルを使って、背中から翼を生やす。
おぉ、できた。かっこいいぞ。
翼を大きく羽ばたかせ、夜空へ飛び立つ。
後ろを見ると、一部が欠けた巨大な城が、もう豆粒のように小さくなっていた。
すみませんね、魔王様。俺、中身は平和主義者のオッサンなんです。
なので、逃げさせてもらいます。アデュー。
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