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第8話 辿り着いた場所

 地下深く、静寂と闇に包まれた巨大空間。

 リィナはひんやりとした空気を肌に感じながら、そこの床へと舞い降りた。

 瓦礫の山と崩れた柱が並ぶ区画──かつては綺麗だと思われた場所がまるで廃墟のようだ。

 そして、再び何かの崩れる音が響く。


「……ここに反応が……」


 リィナの感じる魔法の力がいよいよ強くなる。なぜこの科学の世界でそれを感じるのかは分からないが、それは確かにここにある。


「行ってやろうじゃない。イオリの来る前に守護者を倒して宝を手に入れてやるわ」


 リィナはいつでも魔法を放てるように身構えながら慎重に歩みを進める。

 そして、廃墟でありながら電灯に照らされたその中央に、異様な光を放ちながらうごめく“それ”がいた。


──ドラゴン型戦闘兵器《DF-00 ヴァル=ドラグ》


 全長20メートルを超える巨大兵器。

 すでに機能を封印され、展示されているだけのはずのプロトタイプ。

 それが魔法の力を得て現代に蘇って暴れていた。

 イオリがいれば正体が暴けただろうが、リィナにとってはただ倒す敵と認識できれば十分だ。

 その金属の鱗は赤く灼け、装甲の隙間から魔力のような蒼い光が漏れ出していた。

 そして、目が合った瞬間──


『■■■■アアアアアアアア!!!』


 耳をつんざく咆哮とともに、ドラゴン型ロボットが唸り声を上げて襲い掛かってきた。

 何を目標に? それはリィナの準備している魔法だ。魔力に向かって迫ってきたのだが、今のリィナにはそこまで理解が及ばない。

 ただ、目の前で起こっている事は理解できた。


「まさか……魔力に侵されて、暴走してる……!? でも、どうしてこの世界の兵器が……? ここに魔法が……?」


 リィナの胸に、ひとつの確信が芽生える。


 ──この場所の近くに、《鍵》がある。


 異世界の門を繋ぐ魔力の鍵。二つの世界のバランスに介入し、この世界に魔法の波を増やすことが出来る。

 彼女が探し続けてきた、世界を魔法の優位に操作できる鍵。


「やっぱり……来てよかった。ここに探していた物があるんだわ」


 魔法の衣装をはためかせ、リィナは一歩、前に踏み出す。

 手のひらに魔法陣が浮かび上がる。


「だからどきなさいよ! そこに立っていられると邪魔なのよ!」


 リィナの魔力の高まりを攻撃と感じ取ったか、ドラゴン型ロボの口が開き、魔力光線がチャージされる。


「私と魔法でやりあおうって言うの? 来なさいよ! 私はどこにも逃げたりしない!」


 ――次の瞬間、光と炎が地下を包み込んだ。

 機械と魔法の力が交差し、巨大な戦いが始まる。




 リィナは最初それを魔法と呼んだ。魔法の勝負なら知っているし戦えると。

 だが、眩い閃光が、地下の闇を切り裂いた。


「──っ……!」


 咄嗟に展開した防御魔法の結界が、光線に触れた瞬間、悲鳴のような音を立てて砕け散る。


「な……っ、これは……!?」


 それはただの魔法ではない。

 ただのエネルギー兵器でもない。

 魔法と科学が融合した、制御不能の異質な力。

 あらゆる法則を無視したかのような吠え猛り暴走する破壊の奔流が、リィナの体を容赦なく貫いた。


「きゃあああっ!!」


 魔法の装束が焼け、身体が宙に投げ出される。

 衝撃で意識が薄れ、全身がしびれて動かない。壁に叩きつけられる、そう思ったその瞬間──


「──はい、キャッチ」


 不意に感じたのは、冷たい壁でも、荒れた地面でもなく──細い肩と、抱き留めてくれた腕だった。


「……イオリ……?」


 かすれた声で、リィナが名を呼ぶ。

 視界の中に現れたのは、髪を揺らしながら、見慣れた無表情で見下ろしてくる少女の姿。

 その手には、幾何学模様の光が刻まれたタブレット端末。

 背後ではハッキングしてきた警備ロボが次々と展開し、戦闘態勢を整えていく。


「あれ何? いや、データが出てきた。ドラゴン型戦闘兵器《DF-00 ヴァル=ドラグ》。過去に造られた骨董品。装備は全て外されているはずだけど……」


 警備ロボに対抗するようにドラゴンが吠えるとその表面に魔力が流れていき、魔法の兵装が装着されていく。


「なるほど、自前で用意できるっと」


 イオリは素早く端末に指を走らせ、警備ロボに敵の攻撃を回避させる。薙ぎ払われる地面。後数秒遅れていたら床の染みになっていただろう。


「数に限りがあるからやられないように使わないと。もっと借りてくるべきだったかな」

「どうして、あなたが……」

「リィナの勇姿を見に来ただけのつもりだったんだけど、そうも言ってられないみたいだね。手伝うよ」


 そう言って、イオリはリィナをそっと地面に下ろし、代わりに前へと一歩進み出た。


「さーて、私でも出来るところを見せてやろうかな」


 その瞳は冷たく、だが芯の強さを宿していた。


 イオリは端末に指を走らせる。

 周囲で倒れて燻っていたセキュリティAIを次々と再起動し、ドローンと戦闘ロボがイオリの周囲に並ぶ。


「データ同期完了。制御ルート再確立。解析開始──ターゲット、“ヴァル=ドラグ”。さあ、こっちの暴れる番よ」


 ドラゴン型ロボが、咆哮とともに魔力光線をチャージする。

 それを睨み返すイオリ。


「リィナ、少しだけ待ってて。あいつどかすから」


 ──次なる激突は、魔法×科学の最前線。


 ひとりじゃ届かない場所も、ふたりなら──。


「いけ」


 イオリの命令とともにドラゴンが攻撃を放つ前にロボット達が一斉射撃を行った。

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