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甘口

自分らしい武器

 とある交易都市の平民街に建つ酒場、《ヘファイストス》亭は、夕刻を迎え、仕事上がりの職人達で賑わっている。そのカウンター席にひとりの鍛冶職人が加わり、新顔の客について、居並ぶ同業者達の酒のツマミにでもなればと話し始めた。


 鍛冶職人オグの店に現れた若者は冒険者である。最近、難しい仕事をこなせる実力になり、自分の得物を選べる程度に懐の余裕が出てきたそうで、お手頃価格の初心者向け装備から解放された彼は、なんでもできる自由を手に入れて“自分らしい得物”を探していた。

「“自分らしい得物”だぁ~?」

 聞き手の職人は鋳物屋ウートだ。ウートの店では冒険者向けに使い捨て前提の投擲ナイフを取り扱っている。鋳型から抜いたナイフを薄く磨き、刃先に重心をずらしておくことで軽く飛びやすく仕上げるのだ。一度使ったら刃が折れるぐらい脆いが、そのおかげで投げそこなっても敵に奪われにくく、また鋳造ナイフは安いので、三枚、五枚と、まとめ買いができ、護身用に人気である。

「《槍使いのヴォルフ》って名前、聞いたことあンだろ」オグが話を続けた。「槍捌きの腕前にかけちゃあ右に出る冒険者が居ないとかいう。あれの影響でさ、新顔の若造も、《ナントカ使い》って呼ばれたくて、冒険者仲間に自慢できるような武器が欲しいんだと」

「ヴォルフはくたばったよな」

「こないだ死んだってな。……まあ、それはともかく、あんまり若造が“自分らしさ”にこだわるモンだから、俺もひよっ子の頃を思い出しちまって」


「工房に入門したての頃は、よその鍛冶屋には真似のできない売り物が欲しくて、変わった武器だの防具だの考えてた。でも、いざ炉に向き合ってみると、ふつうの剣を一本鍛えるのも大変で、汗だくになって仕上げたばかりの傑作を、何度、親方に叩き折られたか……」

「そんなもんさ、最初はな。小細工を付け加えてる余裕は無いよな」

 カウンター席の職人達がめいめい酒をあおった。

「それでようやく一人前になれたと思ったのが、俺の店に常連客ができて、『いつものやつ』って注文もらった時よ。俺としちゃあ親方に教わったとおりの仕事するのが精一杯のつもりだったから、古株のお客に『親方の猿真似でいいんですかい』と聞いてみたら、『あんたにはあんたの良さがある』って。嬉しかったねぇ。結局“自分らしさ”なんてのは……その……アレだよな。あー、つまり……」

「客に言われて初めて気づくもの?」

「……そう!!それ!!自力でひねり出そうったって駄目で、ひたむきに生きてりゃ我知らず滲み出てくるモンなんだよ!!」

「その言い方だと俺らの“自分らしさ”はワキガとかウンコみたいに臭そうで、どうもいけねぇな」

「うるせぇや」


「で、例の若造はどんな得物を買ったんだい?」

「もちろん商機だし、あれもこれも試してみるのが一番だとか吹き込んどいて、ここぞとばかり万年在庫になってたヘンテコ武器をいろいろ売りつけたさ」

「そのあとは?ヴォルフの二の舞か?」

「いや、しばらく経って店に来て、『クセつよ武器はむりやり振り回すと筋肉痛になりがちだから、やっぱ普通の剣がいい』って言ってた」

「若造に乾杯」

「「「「「乾杯」」」」」


 《ヘファイストス》亭の夜は更けてゆく……。

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