5.横やり
「編集長から連絡が入っているな」
スマホを操作している間に行平がチェックインを済ませてきた。
「どうしたんですか?緊張してもれそうですか?」
「意味の分からないことを言うな。編集長から連絡が入ってたんだ。途中報告がてら電話しとくか」
「電話してから浮かない顔ですね。温泉付きを怒られちゃったんですか?」
「うーん、というより取材は中止して戻ってこいってさ」
「は?なんすか、それ?ありえなくないですか?せっかく乗ってきたとこなのに」
「よくわからんがなんか政治家から圧力がかかったらしい」
「はあ?今回の事件のどこに政治家が・・」
行平の眉間にしわがよる。
「ああ、ありましたね。ありまくりました」
「なんだ、例の清水さんの実家がらみか」
「というか宗教絡みの方ですか」
「それにしても妙だよな。取材ったってまだ始めたばっかだぜ。記事も書いてないうちからなんで止められなきゃなんないんだ?」
「あ、もしかしたらあたしかもです。結構あちこちに連絡取りましたから。もしかするとどっかで尻尾を踏んだかも」
「行平もへまをすることがあるんだな」
「へまじゃないです。でも確かに早すぎですよ。あたしが連絡したのは昨日ですしね。昨日の今日・・。なくもないのか」
「なくなくないな」
「工藤さん、こうしちゃいらんないです。完全にシャットアウトされる前に行動しましょう」
「完全にってすでにアウトじゃないのか?」
「切り口を変えるんですよ。あたしたちは殺人事件の記事を書きに来ていた。今度は宗教関係の話に変えるんです」
「今更か。編集長がなんて言うかだな」
「編集長なんか関係ないですよ。記者魂が騒ぎませんか?こうぶわーっと」
「騒がないな。サラリーマンだからかな」
「うっわー。夢なさすぎですよ。あたしが調べてきた事を聞いてからもう一回考えてください」
行平は清水さんの両親の話を始めた。
本当の父親は中堅の製薬メーカーの社長だった。
妻が宗教にはまり、いつの間にかすべて奪われていた。
清水さんも信者らしく、大学時代の友人は清水さんからおかしな話を何度も聞いたそうだ。
曰く、自分は神の器であり、神の受肉を手伝う役を担っている。
いずれ性交渉なく子供を授かる予定だ。
それはおそらくもうすぐである。
そうした話をしていない時は普通におしゃれや好きな食べ物の話をしていたらしい。
「政治家なんてでてこないじゃないか」
「その宗教団体がある政治団体を支援しているんです。清水さんの家もその手伝いをしていたわけです。で、あたしはその時の関係者にもアポを取ってました。会うのは明日の予定です」
「おいおい、殺人事件を調べていたのにそんなとこまで手を出していたのか」
「どこにひっかかるかわかんないじゃないですか。今回はそれが裏目にでただけです」
「編集長の話だと今回の殺人事件自体うやむやにされるはずだそうだ」
「神隠しの失踪者は?小野田君はどうなっちゃうんですか?」
「容疑者失踪で終わりってとこかな」
「殺人だってやったかどうかはっきりしてないのに?ことによったら清水さんの事件と小野田君の事件はまったくの別物かもしれないのに?」
「そんな可能性もあるのか?」
「そもそも清水さんと小野田君は付き合っていなかった。小野田君はストーカーになるほどの執着があったようには思えません。まああくまで関係者の話からの推論でしかないですけどね。とはいえ、宗教がらみの話として考えると妙につじつまがあってくるような気がするんです」
「それって今思いついた取材の口実ってんじゃないよな?」
「え?いやあ、まさか。まさかまさかのまさかど公ですよ」
「しょうがないな。ならあとちょっとだけ付き合うよ。編集長には電話しとく」
「本当っすか?やった。んじゃひと風呂あびて前祝ですね」
「なんの前祝だよ」
「これから始まる冒険にですよ」