4.温泉付き
駅前で行平と再会した。
「いろいろわかりましたよ」
行平は興奮した面持ちでそう言った。
「そうか。こっちもちょっとだけ前進だ。というところで今夜の宿を手配しとこうか」
「あ、宿ならさっき予約しときましたよ。ネットで」
「早いな」
「ええ。仕事できる子なんで」
「もうチェックインできるならそこで続きを話すとしようか。編集長にも一報いれとかないといけないし」
「駅ちかですよ。さらに温泉付き。ネット割でお安く取れました」
「すごいな。じゃあさっそく行くか」
歩き出すと行平が腕を絡めてきた。
「なんだ、なんだ。どうしたんだ」
「腕を組んであげたのに、どうしたはないじゃないですか」
「いやいや、腕を組むのはおかしいだろ」
「おかしくないっすよ。だって夫婦ってことで予約入れてますから」
「なんで夫婦?」
「なんでって夫婦割が一番安かったからに決まってるじゃないですか。あたしは気にしないですよ。なんなら一緒に寝てもいいですよ」
「いやいや、それはまずいだろ。さすがにコンプラ違反だ。編集長にいいわけできない」
「適当言っとけばいいんですよ。間違えて予約しちゃった。てへぺろ、みたいに」
「てへぺろですむのか、それは」
「すみますよお。大丈夫ですって。心配性だなあ工藤さんは」
「そういう問題じゃないと思うんだけどな」
「まあいいじゃないですか。でっかい部屋で温泉付き。凄くないですか。普通泊まれませんて」
「ひとり身ではな」
「今は違うんですよお。あたしたちは工藤夫婦ってことになってますからね」
「倦怠期の夫婦なら離れてたっておかしくないだろ」
「倦怠期の夫婦が温泉付きの宿に泊まりますかねえ」
「うーん、頭痛くなってきた。ところで調査の方は本当に順調だったんだよな?」
「あ、今聞いちゃいます。凄いですよ。清水さん。本当は良家のお嬢様でした。なんと親戚の家に養子にでて清水さんになってたわけです」
「へえ」
「反応薄いですね」
「まあ良家だったっていってもなあ」
「その良家が没落してたらどうです?」
「どうとは?」
「よくある宗教がらみですよ。のめりこんじゃったんですね」
「そんな話誰から聞いたんだ?」
「清水さんの大学の同級生ですよお」
「え?じゃあ大学行ってたのか?」
「まさかまさか。事前にアポとっといたんですよ。あたしは市役所の職員てことにしときましたよ」
「よくばれなかったな」
「そこまで考えてる人いませんて。さらに変装もしてましたしね」
「変装・・」
「怪盗ルパンも舌をまく完璧な変装でしたよ」
「見てないからな・・」
「見せませんよ。まだ秘密です」