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【第九頁】クエストの受諾

「例のクエスト、誰かクリアしてくれたのかしら?」

「馬鹿言え。あんな非正規クエスト、この下町の戦力で誰が行けると言うんじゃ誰が。無駄骨にも程があるじゃろうに」

「そうよね」


 バストの酒場。

 常に初中級者で賑わうこの店内では、あちらでもこちらでも乾杯が散見しており、この地域に於いてここ以上に情報が集中している場所は他に存在していない。


 しかしてその大半が道半ばの冒険者故、高ランクのクエストや地方のクエスト、また割に合わないクエストなどは中々受注されず、そのまま放置される傾向にあった。


「私たちが行くわ」

「お主分かっとるのか? 非正規じゃぞ?」

「そうね」

「報酬は出んぞ?」

「何か素敵なドロップがあるかもしれないわね」

「本気で……双々刃のダンジョンを?」


 そんな、誰もが見て見ぬふりをしていたクエストを受注する者が現れる。酒場の店主が【双々刃】の名を口にした瞬間、あれ程賑やかだった筈の店内が静まり返ってしまう。何かしてしまったのかとキョロキョロするリックであったが、彼以外は落ち着いたもので。


「ふふ」


 そんな静寂に包まれた店内に、ラズリの不敵な笑みが皆の耳に届き、そして皆が状況を理解した時。


「私、軽薄な見た目をしているけれど、約束も破らなければ、案外と情が深いのよ?」

「……、よし。お主らの受注を認める。【B】ランクの任務じゃ、くれぐれも死ぬで無いぞ」


「「「うぉぉぉぉ!!!」」」


 一転。

 店内は大爆発とも表せる歓声に包まれる。


 非正規クエスト。

 それは誰かから依頼があり報酬の出るクエストではなく、クエストとなり得る問題は発生しているが、無報酬状態で放置されている物。


 作物を荒らされる前に農家が、臣民を守る為に近隣の都市が、誰かしらがお金を出す事で冒険者達がこぞってそのダンジョンや問題を解決してくれる様仕向けるのが一般的であり、発生者がいる状態のクエストが正規クエストとなる。


 本件は無報酬の非正規クエストの上、難関。

 酒場が沸き立つのも差も在りなんといった話。


「あんなチビが受けるのかよ! なら俺でもいけんじゃね?」

「は!? 今誰か俺の悪口言った!?」

「おぃラズリ、何にトチ狂ったらそんな事になるんだよ」

「ふふ、偶にはそんな事もあるわよ」

「パーティメンバーがおかしいんじゃねぇの?」

「あら、おかしいのがどっちかなんて、結果を聞けば分かるでしょ?」

「おい見ろよ、パーティブレイカーの【孤独な大盾】がいやがる。あのパーティ終わったな」

「あ?」


 とんでもない量のガヤが飛び交い、収集が着かなくなりそうな、そんな混沌と化した場を店主が声を張り上げる事で再びグリップする。


「それで、お主らパーティの【銘】はどうする?」

「【セクセルウィーバー】でお願い」

「えっ!?」


 間を置かず返答するラズリ。そしてそれに驚愕の意を示すリック。反応しないディープスとティティ。淡々と手続きを進める店主。慌ててラズリへと詰め寄ったリックはー


「パーティの銘って決まってたの!?」

「不服かしら?」

「そそそそそんな事ありましぇん!!」


 前屈みの姿勢で不敵な笑みを浮かべるラズリの挑発的な態度に、視界だけで返り討ちに遭い、ノックアウトされてしまう。一方でー


「貴方は?」

「銘など何でも構わない」

「ふふ、なら大丈夫ね」


 一切、意に介さない二人。

 念の為ディープスには同意を確認し、ティティに至ってはアイコンタクトのみを以ってこれを良しとした。だがしかし、撃沈したとはいえリックはまだ少し飲み込み切れておらず、ここでもう一踏ん張り何とか恐る恐るラズリへとその疑問を口にする。


「えっと……その、どういう意味かを……」

「坊やにはまだヒ・ミ・ツ♡」

「秘密フォォォォォォ!!!」

「黙れ」

「ぐぇっ!?」


 背景に『ちーん』とでも擬音が付きそうな絵に描いたような撃沈を見せるリックの瞳は♡化しており、我敗れて尚満足也とでも語っているかの様な面で地面へと沈んだ。


 そして周囲の者たちは口々にこのパーティ結成を祝福し、またこれの先行きをまるで娯楽に興じるかの様に酒の肴にして再び賑わった。


 そしてそんな空気の中、当事者である彼らはー


「早速対策会議を進めたいのだが」

「えっちね」

「……、事を急いて得をするのはお前だと思うのだが?」

「あら、パーティ結成の恩恵は全員の物よ?」

「……それはそうだが」

「それに会議をする必要も無いわ」

「何? どう言う事だ?」


 ここでラズリは不敵な笑みを浮かべると、酒場の地面に沈んだリックに視線を送りながら、返答を口にした。


「先の戦闘。アレを見るに、恐らくリックと相性の良い相手だと思うわ。物理系だもの」

「……成る程。あの要領で勝てる範囲か」

「そう言う事ね」


 ディープスとラズリ、そしてティティ。三者三様の雰囲気で納得を示す態度を見せる中、二人の会話が耳に入らない彼だけが。


 リック少年だけが、地面で未だ幸せそうに沈んだままであったが、今この瞬間に会議無しでこのまま即ダンジョン行きとなる事が決定してしまっていた。


「お前さん方」

「何かしら」


 地面に転がるリックをディープスが引き摺り、この場を去ろうというタイミングでバストの酒場の店主が声をかける。そして神妙な顔をしながらー


「最近、妙なタイミングでダンジョンやエリアボスが湧くと噂になっとる。それにあそこには封印石も多い。一応留意しておく様にな」

「忠言、確かに心に留めておくわ」


 不穏な言葉を受け取り、四人は酒場を後にした。

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