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【第二十五頁】色魔少女の純愛

「あ、あの……」

「何だ?」


 久しく覚えぬ感覚であった。

 或いはそれは初めてと表現しても差し支えが無い程に。ティティ少女は今、その心の内に小さな恋心の種を芽生えさせつつあった。未だ出逢って間もない関係。だがこれまでの半生を振り返ってどうだ、彼女の人生にこれほどまでに彼女を【個人】としてリスペクトしてくれた人物は居ただろうか。


 否。

 一人として存在していなかった。女として、それ以前にただの雌として消費される存在、雄として利用するだけの関係性。そんな軽薄な付き合いの中、彼女の淫魔の魅力に惹き込まれ彼女を慕った者は数知れず。だが、彼女自身では無く【淫魔】を欲する男たちをして、何処に魅力を感じろというのだろうか。ティティにとってそれは不可能と言い切って構わない程に有り得ない事であった。


 だがこの眼前の男はどうだ。


「私、は、その、精気を吸収しないと、理性が、その、どんどん希薄になって、最後には、その、無くなって、無理にでも吸収しようとしちゃうから……」

「む、それは(他のパーティに希少レンジャーを奪われる可能性があるので非常に)拙いな。具体的にはどうなる?」

「見境無く、男を誘っちゃう……」

「なんだと!? それでは(引き抜きの)危険が大き過ぎる!」

「!?」

「これからは俺が全て引き受けよう」

「!?」

「でなければ、(誰かにパーティメンバーとして引き抜かれてしまわないか)心配で落ち着かない」

「!?!!?」


 それは彼女の理想そのもの。

 しかして、叶わないと諦めていた存在。


「どうした?」

「だからその、でぃ、ディープス様さえ良ければ……」


 身体では無く、性の対象では無く、一人の【個】として真摯に向き合ってくれる奇跡的な存在。


「構わないさ、俺に出来る事なら何でも言ってくれ」

「!?」


 そんな彼のトドメとも言える一言を耳にしたティティ少女はー


「んむっ♡」

「……!!?!?」


 反射的に眼前の色男の唇へと貪り着いてしまっており、最早正気を保つ事は不可な状態に陥ってしまっていた。身長差を補うべく彼の首に両腕を回し体重をかけて顔を下げさせ、そこに貪り付いたのだ。対サキュバス戦に於いて、先に正気を失ったのはサキュバスの方だという限りなく珍しいパターン。


 当然、彼にその対応が出来る筈も無くー


「ちょ、え!?」

「ディープスしゃまぁ、ティティをお救いくだしゃい♡」

「いや、それは勿論そうするつもりなのだが……」


 信じられ無いほど距離が近かった。

 それはディープスが想定していたそれとは比較にならぬ程。仮にそれがどれくらい近いかと言えば、ゼロ距離と言う他無いだろう。


 確かに不意は突かれた。

 しかし何とか首に回された手を顔を上げる事で解かせたディープスだったが、依然としてティティ少女の両の手はどちらもディープスの胸元へそっと添えられており、その上で彼女は自身の軽い体重を彼に向かって寄りかけていた。そんな彼女を相手取り、何処に手をやるのが正解なのか分からず、またティティ少女に触れる訳にもいかず、参ったとでも言いたそうな顔で諸手を挙げて降参するディープス。


 だが、時既に遅しである。


「ちょ!? 危な……!?」


 ティティの勢いに押され、転倒。

 両手を挙げ、重心が後ろに傾いた一瞬の隙を突かれてしまった形。そのまま彼は地面へと押し倒され、そこに尻、背中の順で倒れ込み地面へと追い詰められてしまう。


 だが押し倒されたとは言え、そこは鍛えられたディープス。痛がる素振りなぞ欠片も見せず、ただ困惑の色を全面に押し出して狼狽えていた。何でもすると啖呵を切った彼は何処へやら状態である。


「て、ティティ? な、何を……」

「見て……」

「いやそれくらいいつでも見るが……」


 地面に仰向けに横たわるディープス。

 彼の股間辺りに跨る形で座り込むティティ。

 そんな彼女は今まで被っていたニットの帽子を脱ぎ捨てると、ファサッっと長い髪が振り乱れながら姿を現す。その髪の色は実に特徴的で、黒とピンクのツートンカラーとなっていた。そんなティティの、長く美しい髪が満を持して出現したのだ。


 彼が想像していたよりもずっと長くしなやかな艶髪で、その色はピンクが八割で黒が二割といった様相。


 そして、彼女が帽子を取った途端に、彼女の甘くとろけそうな程に濃い良い匂いが部屋中に埋め尽くされる。僅かに、たかが帽子を取っただけの事。それだけの行為で、部屋に充満しつつあった淫気は更に一段階、その色を濃くしていった。


「……ッ!?」


 クラリと、頭が酩酊する。

 まるで酒でも飲まされたかの様に意識を汚染されるディープス。だが彼女はそれに留まらずー


「ディープスしゃま、卑しいティティめにお恵みくだしゃい……んっ」


 厚着していた上着を脱ぎ捨てたのだ。

 そこに現れたのはキャミソールに下着のみという、最早留まる事を知らない淫気が一気に解き放たれる。先程まで晒されていなかった肌が一気に露出した事に起因し、室内の彼女の匂いが更にもう一段階濃くなっていく。甘く甘く匂いだけで劣情を禁じ得ない、魔性の香りである。


 それはまるで今この瞬間に室内の空気をピンクにカラーリングされたのかと錯覚してしまう程異様な空気感。その余りの豊潤かつ濃厚な性の匂いに気を取られ過ぎたディープスは、自身の動悸が平生時よりも激しくなっている事にすら気付けていなかった。


「んんっ♡」

「んむぅ!?」


 そんな最中、再び唇が重ねられる。

 先の不意打ちと違い、明確にキスされると分かった上で、半ば無理矢理に唇を奪われるディープス。彼の足りない脳みそをフル回転させ、見誤っていた今の状況を改めて再認識し始める。これ以上呑まれては取り返しがつかない事になってしまいかねない。


(待て待て落ち着け、窮地に陥るなどいつもの事だ。まずは落ち着いて状況を整理するんだ。ティティは淫魔の血統である→その特性から魔法師の男を求めている→恐らく異性の魔力の補給→それに対して何でもすると公言した俺→接吻される、つまり……)


 そう、それはほんの僅かな認識のずれ。


(くっ、彼女がパーティメンバーとして余りにも有能で稀少だった事が災いして思考が前のめりになり過ぎていたか。この補給作業は淫魔よろしく性的な行為でのみ補完される訳か。……それにさっきから不思議と思考が纏まらない上に、妙に短絡的な気がしてならない。俺のこの変化が淫魔の特性に依る物だとしたら……流石に少し拙いか? だが彼女をメンバーとして維持する最適解を考えるに、今のこれは決して悪い状況では無い。むしろそれならいっそー)


 思考が纏まったディープスは口付けるティティの肩を掴んで引き剥がし、ほんの15センチ程の距離を作った。そしてー


「すまない、俺はティティの望みはなるべく叶えてやりたいと思ってはいるんだか……」

「なんでしゅかディープスしゃまぁ♡」


 二度に渡るティティ少女との接吻。そして密室内で彼女の淫気が部屋中に充満しており、彼女の唾液、吐き出す空気、滲んだ汗、彼の身体にまで垂れた長い髪、その全ての要因が彼を追い詰め、何をどうしてもその淫魔の力に当てられていくディープス。


(強過ぎる……これが淫魔の力……その、本領……)


「お、俺は、そ、その……初めてだから、その、何をしてやればティティの為になるのかイマイチー」


 自身がこう言った方面に弱い事を全面に押し出し、一先ずの勢いを無くそうと試みたディープス。この場面でこの発言。これには如何な乙女であろうと多少は幻滅する筈。少なからず過去の経験ではそうだった。今はその黒歴史をも利用し、ティティの精神的萎えから隙を作り、この話にどうにか落とし所を作ろうと試みたのだがー


「しょんなのかんたん♡」


 そこまで言うと、ティティ少女の顔はゆっくりとディープスの顔を横切り、彼の耳の真横へと移動する。


 その麗しい髪を彼の顔に被せ、鼻から息を吸えばティティの髪の甘い匂いしかしない、そんな桃色の世界にディープスを追い込み、その柔らかな唇から大量の淫気を放ちながら、彼女は小さくこう呟いたー


「ティティをむちゃくちゃにしてくれればいいのでしゅ♡」


 淫魔の血統が己が意思で淫気を纏った言葉を対象の脳へと直接に仕掛ける。これを拒むには魔導書を伴った魔法的な防壁と共に強い抗いの意志が必要なのだが、この場面、当然ディープスにはどちらの備えも持ち得なかった。


 故にそれをダイレクトに耳から受け取ったディープスの理性はそこで途切れてしまいー


「ティティ……」

「ディープスしゃまぁ♡」


 何故この状況と化したのか、何故眼前の女を愛おしく思うのか、全てが分からなくなってしまったディープスは、何も分からぬまま本能でティティ少女の身体へと向き合ってしまったのだった。

次の投稿は4/11です。

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