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【第二十四頁】魅了されるという事

「な、何を……」

「むぅ、少し考えれば分かりそうなものだが」

「……?」


 それは思わぬ角度からの踏み込み。

 関係値の薄さから考えれば、有り得ない程に。


 だが彼の言葉は、そこで終わりでは無かった。


「お前の様な聡明で有能な冒険者が、こんな考え無しな身の振り方をするとは考え辛い。何かしら強制力のある理由があると仮定した方が余程合点がいく」

「!?」


 驚きから、声が出なかった。


「さっきの話し方も話せない奴のそれでは無かった。お前、技術的に話せないのでは無く、違う理由で話せないんだな?」

「!?」

「やはりか。だとすると、この淫気に原因が?」

「!?!!?」


 ズバズバと無神経に言葉を紡ぐディープス。だが、これは説明した所で理解を得辛い筈の、本来彼女の口から説明したとて分かって貰えない筈の、彼女の胸中の奥深くに秘めた内容であった。にも関わらず、語らずとも理解されてしまう。


 今まで望みに望み続け、遂ぞ得られ無かった【理解】である。親に、兄弟に、友人に、メンバーに、どれだけ言葉を尽くしても応えては貰えなかった。


 それは一つに魔力的な耐性の無さ故に、一つに彼女の美し過ぎる立ち姿故に、一つに抗いようの無い血の呪縛故に、彼女は【理解】を諦めてしまっていた。


 故に彼女はー


「どうして、信じてくれるの?」


 その美しい瞳に涙を浮かべながら、疑問を口にした。

 そしてディープスはその質問にこう答えたー


「どうして、か。答えるまでも無いと思うが」

「……」

「俺たちは同じパーティだろ?」

「!?」

「それに俺はその援護を担当する身。お前が向上する意志を持ち、背を任せて戦えるパートナーである以上、俺はお前を護る義務がある」

「!?」

「俺がお前を信じなくてどうする。そんな事は有り得ない」

「!?!!?」


 最早、ある意味で告白の様な内容であった。

 だが勿論ディープスにそんな思惑はなく、彼はただ純粋に【護る事】に強く執着する援護系魔法師であった。彼自身、もうこれ以上彼の所属するパーティを解散させる訳にはいかないのだ。


 だが、当然彼女はそうは受け取らない。


 この人になら、諦めかけた【理解】を求めても良いのかもしれない。まだ、まだ信じるには足りない。だが、この人になら少しくらいならば。


 彼女は一縷の望みを賭けー


「わ、私はその……」

「何でも言え。大丈夫だ」

「サキュバスの、隔世遺伝で……」

「何だと!?」


 決死の告白。

 ディープスが語った彼女へのリスペクト。それに応えるべく、彼女もまた意を決して己の秘密を打ち明けた。そんな彼女の告白に驚いた表情を見せるディープスであったが、それは彼女を拒絶する反応では無く、寧ろー


「それはどんな能力を伴った性質なんだ!! 何て才能だ、世界にはこんな奴が居るのか!! 素晴らしい個性だ!!」

「!?」


 それは純然たる【戦力】としての。

 惜しみ無い称賛であった。


(馬鹿な、サキュバスの特性を持ったレンジャーだと!? それにこいつは天地創造(フィールドライト)のエキスパート。罠の探知から索敵まで熟す、既に得難い程の逸材。その上に、まだ【魅力】を応用した魔力的な戦いまでもが可能だと!? こんな、こんな奴今迄一度も……。いや、話にすら聞いた事も、考えた事すら無かった程の鬼才。絶対に、絶対に手放さない!!!)


 だがこれもまた彼女には戦力としてでは無く【個】として受け入れられたと錯覚するには十分過ぎる言葉でありー


「詳しく聞かせろ!! そして俺が何をすべきなのか教えてくれ!! お前の全てが知りたい!! お前の、力にならせてくれ!! 俺の全てを賭けて、お前を護るとここに誓う!!」


 次の戦いに備えるべく、情報収集を試みたディープスのその言葉は、ティティにとって優しさに溢れており、真の意味で言い逃れの出来ない告白であった。


 だがその言葉に嘘も偽りも無く、それ故に届いてしまった。既に深く閉ざしたその弱い心を、彼女はー


「ふ、ふぇぇぇん……」

「お、おい……どど、どうして泣くんだ?」


 再び、開く時が来てしまったのだ。

 堪え切れず、涙腺が決壊してしまっていた。一方で、ここに来て訳が分からない展開が訪れたディープスは狼狽えていた。また何か言葉を間違えたのではと尋常ならざる焦燥を覚えていたのだ。


 ぐすぐすと泣きじゃくるティティに理解が追いつかず、頭上に『???』と浮かべながら彼はその場で右往左往していた。何か言葉を間違えたかと記憶を遡るが、粗相があった様には思えない。彼女の瞳から溢れるその涙が怒りや悲しみの様な負の感情を孕んでいない事から、致し方なく暫く様子を見るつもりで彼女を見守っていた。そして数分後、落ち着きを僅かに取り戻したティティは、その小さな口を再び開き始めた。


「聞いて、くれるの?」

「も、勿論だとも」


 当たり前の事を返しているだけの筈が、とても大きな物を少女に与えてしまうディープス。意味は分からないが、どうやら淫魔の特性は教えて貰えるらしい。少し動揺はしてしまったが、彼はそれをよりこの鬼才を上手く活用すべく、前のめりに彼女の語る内容を聞こうとしていた。


 そんなディープスの真摯な姿勢が、ティティはただ好ましかった。


「あの、ね。私の【淫魔】の能力は、私の存在全てから微量に漏れ出ていて、話すだけでも異性を引き寄せてしまうの」

「成る程、催淫の類いの能力か。確かに援護系の俺ですら淫気に当てられてしまっている。素晴らしい能力だ。成る程、だから普段から言葉を制限していたのか」

「!?」


 言わずとも、理解してくれる。


「ラズリが派手な格好をしているのも、視線を彼女に誘導する為か。だからティティは対照的な、それこそ極端に露出の少ない格好をして、ラズリの後ろに一歩退いた位置取りをしいた訳か。肌を見せる事すら武器になり得るとは、必殺の場面まで温存しているという訳か。全てが理に適った素晴らしい判断だ、漸く合点がいった」

「!?」


 語らずとも、伝わってしまう。


「馬車でも、俺たちを気遣ってくれていたのだな」

「!?」


 伝えずとも、言い当てられてしまう。


「肌も見せられない、視線も合わせられない、声も発っせられない、行動を全て制限され、その一方でそれらは場面によっては唯一無二の威力を発揮する。これはとんでもなく理想的な強個性だ。……逸材だな、ティティ」

「!?」


 劣等感しかなかった自身を、認めてくれるどころか称賛してくれる。この能力を、こんな自分を褒められた事なんて一度もなかった。それにディープスの語り口調には熱が篭っており、それは大会上位を狙える最強のレンジャーを得た興奮に他ならないが、彼女には真実味を帯びた本心として伝わっていた。


「助けて欲しいというのは、その【淫魔】の力の制御に関わる話なんだな?」

「!?」


 そして噛み砕けたのであれば話を過去に遡り、勝手に総合的に考えてくれる。


「自ら望んだ表現では無く【助けて】という言葉を選んだのは、それが己の意志とは反した行いであり、かつ自身で制御が出来ないと、そういう事か?」

「!?」


 そして、自然と答えに辿り着いてくれる。


「ならば仕方あるまい。他でも無い、大切な仲間の頼みだ」

「!?」


 この人になら、安心して全てを委ねられるのでは?

 寧ろ、知って貰いたい。

 この人に、ディープスに、もっと【理解】されたい。


 本来淫魔である筈の、彼女の方がー


「俺に全て任せろ」

「でぃ、ディープス様……」

「……様?」


 既に彼に【魅了】されてしまっていたのだ。

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