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【第二十一頁】夜更けの冒険者たち

「わっ! 本当にダンジョンから出てきちゃった」

「帰りはいつも味気ないものだ」

「そうね」


 双々刃のダンジョン。

 その攻略を終えたSW(セクセルウィーバー)の面々は、その証としてボスドロップを獲得し、ダンジョンの入り口があった地点へと強制送還させられていた。


「でさ、そのドロップってどうなの?」

「魔石だな。売れば2Gといった所か」

「大金じゃん!?」

「そんな訳あるか馬鹿野郎」


 2Gの魔石。

 それは一晩盛大に酒を飲み散らかせばあっという間に消えてしまう程に頼りない成果。金にとんと縁の無かったリックからしてみれば、考えた事も無い大金に感じたのかもしれないが、ベテラン冒険者勢の感想は冷ややかなものであった。


「流石にこれっぽっちじゃ、割りに合わないわね」

「違いない、今日の宿代で半分消えるな」

「宿代?」


 日はすっかり落ちてしまっている。

 辺りの景色はがらりと様変わりしており、少し肌寒いヒンヤリとした空気が一同を襲っていた。


「今からで帰れる訳が無いだろ。近場で宿を取るぞ」

「寝るくらい何処でも出来るじゃん」

「お前と一緒にするな脳筋野生児が」

「なにぉぉぉ!!」

「ラズリとティティを、冷たい地面で寝かせるつもりか?」

「すいませんでした。全面的に俺が悪かったです」


 今から行けるとなると、小さい集落に身を寄せる形になるだろう。そういった場所には良く彼らの様な存在が仮宿を求めて来る為、大抵の場合は寝床が用意されているのだ。


 勿論有料ではあるが、飯が出る訳でもなければおもてなしが待っている訳でもない。ただ安全な寝床を提供してくれるのみの、紛う事無き仮宿だ。


「近くの集落で簡単に宿を取れる場所を知っているわ。そこに行きましょうか」

「俺は土地勘がないからな、お前に全て任せる」

「右におなーじ」

「なら決まりね」


 一同はラズリの案内で、一路集落を目指す事となった。



 ━



 何の変哲も無いただの集落。

 そこには生活に必要そうな建物が最低限と、民家のみが建ち並んだシンプルな街並みが存在していた。


「ここまで来ればもう大丈夫よね」

「ん?」


 そして、そこへ足を踏み入れた瞬間にそんな言葉を口にしたラズリは、スタスタと歩き始める。


 だが、ティティはそれに追従しなかった。


「え、これってどういう……?」

「成る程な」


 突如として別れてしまったラズリとティティ。

 このままではラズリを見失いかねないリックは焦りを覚えていた。だがしかし、ティティ少女はその場を動かない。その上で彼女ら自身その行動に何の戸惑いも無い様で、そんな一連の様子から考えるに、恐らくこれが彼女らのスタンダードという事なのだろう。


「ふん」


 察しが付いたディープスは逆に過干渉が無い事をこれ幸いと直ぐに状況を受け入れていた。なればこそ、自身もまた好きにするのみであった。故に彼は一人歩き始めたラズリを追わず、そこから逆方向へと進もうと歩みを進めようとしたのだがー


「……何だ?」

「……」

「……?」

「……」


 服の裾をティティに掴まれてしまい、訳も分からず戸惑いのまま動けなくなってしまうディープス。意味不明であった。ただでさえ意思疎通の難しいティティ。そんな彼女が、冒険者としての最低限以外でコミュニケーションらしい物を見せたのはこれが初めてである。


 いや、これは果たしてコミュニケーションと呼べるかどうかも怪しい行動ではあったが、自己表現を漸く見せたという事には間違いない。


 だが何故今、これなのだろうかと。

 ディープスは困惑の極みに追い込まれていた。


 そんな動けない二人とは対照的にスタスタと歩みを進めるラズリ。彼女は彼女でどこ吹く風、一人気儘に過ごしますと言わんばかりにその足を止める事はなかった。


「ちょ、ラズ姐待ってよ!」


 しかしながら一人状況を受け入れられないリックは、アタフタとしながらただラズリの後を追う他選択肢を持たなかった。このメンバーの中では最も幼い彼にとって、仲間がバラバラに過ごすなど受け入れられなかったのだ。


 少し呆気に取られた事もあり、ディープスとティティの姿が見えなくなる所で漸くラズリに追いついたリック。何一つ理解出来ない、そんな事は日常茶飯事だ。であれば対応方法は簡単でー


「ラズ姐ってば!」

「何かしら?」

「何って、何でみんなと離れちゃうのさ!」

「うーん、そうねぇ」


 シンプルに直接聞いてみる事にしたストレートなリック。

 彼は今以って純真無垢なのである。小手先の探りやそれとない察し等は彼にとって不得意分野である。そんなリックの何にも染まらぬ綺麗な眼差しに、どう言葉を返すべきかと思案するラズリ。そして出した答えはー


「ティティの為、かしら」

「ティティ……さんの?」


 真摯である事だった。


「ティティで良いわよ。アナタダンジョンでもそう呼んでいたじゃない」

「うっ、あの時は必死で……」

「あの子そういうの気にしないから大丈夫よ?」

「えっとじゃあ、これってティティの為なの?」

「そ。あの子、アレで色々大変なのよ」

「ん? 何が大変なの?」


 依然としてキラキラした眼差しを向けるリック。

 やはり察しはついていないらしい。確かに彼女はこの旅やダンジョン攻略に於いて、かなり丁寧な隠蔽を見せていた。あの情報量で察しろは、リックにとって土台無理な話である。


 仮に今のでダメだったのならば、ここからはより生々しい話になってしまう。だからと言ってこの目に嘘で返すのは違う気もするし、はぐらかしたとしてもそれはそれで長引きそうだ。それに彼はこれから暫く行動を共にするパーティメンバー。雑な説明よりも、やはりより真摯な対応をするべきか、とラズリは覚悟を決める。


「あの子、サキュバスの混血なのよ。遠い先祖らしいんだけどね」

「サキュバス? それって魔物の?」


 色魔(サキュバス)

 それは男の天敵であり、夢でもあった。彼らの精力を糧に生きるサキュバス達は、男達に一時的な夢を提供してくれるのだ。故に勝てない。仮に出会いの場が戦場で、悪意を持って彼女らが攻めて来たのであれば、男に産まれた時点で勝ち目は無いに等しい。それ程に強力な淫気を纏った魔物である。


「そ。だから魔法師の適性も色濃く出ていて、そこは便利なんだけど。不便も多いのよ」

「魔物の遺伝でその特性が出てるって事? って事はティティってお父さんかお母さんが魔物なの?」

「ううん、そんな直近の話じゃないって」

「うーん、違うんだ」


 だが、ティティのケースは特殊であった。


「どうやらかなり昔の隔世遺伝らしくてね。親御さんも途中で気付いたみたいなんだけど、それからと言うもの、ね。あの子あんな幼い見た目をしてるけど、それからは相当な苦労をしたのよ」

「えっと、それは魔族の特徴が出ちゃったからって事?」

「んー、リックはサキュバスは知ってる?」

「名前くらいは?」


 それはつまり、ほぼ知らないという事と同義であった。折角覚悟を決めて話したというのに、話の核が伝わらない。もどかしい気持ちの中、遂に彼女は言葉を飾らずストレートに出す事にした。


「サキュバスってのは男を魅了して搾精する事で力を得る淫魔の一族なのよ。だからあの子……ううん、あの子の身体は魔力的な繋がりを精液に求めてるの」

「魔力的な繋がりを……精液に。精液!?」


 はぁ、と。小さく溜息が溢れたラズリ。漸く少しは伝わったかと親が子を見る様な目でリックを見つめる。


「そ。ある程度魔に長けた人物の精液を取り込まないと、身体が意に反した動きをしちゃうらしくてね。昔はそれで良く問題になったって嘆いてたわ」

「せ、精液をととと取り込む!?」


 顔を真っ赤にし、深くは分からずとも兎に角エッチな話をされている事だけは理解出来てしまったリックは、アタフタしながら一先ず顔を下に向けてモジモジし始める。


「だから夜は何も言わずに離れる様にしているの。あの子と長くパーティを続けられているコツみたいなものね」

「夜に、離れるって事は……えぇ!?」

「流石に貴方でも察しはついたからしら」

「え、えっと……えぇ!!?」


 自身が始めたとは言え、性的な話を男と二人でしている事で、ラズリ自身も少しボルテージが上がってしまっていた。時間は夜。ティティがこれからする事にも検討は付いている。そして、今は純真無垢なリックと二人きり。


 そんな状況で、耳の先まで真っ赤にしながら恥じらうリックの姿をみたラズリは、その心の内に僅かばかり芽生えてしまった()()()に気が付いてしまう。


 どうせ向こうも同じ事をやっているのだ、彼女が咎められる筈もない。故に彼女はリックにー


「私、そんな訳でいつも夜は一人ぼっちなの」

「へ、へぇ、そそそそうなんだ、ささささみしいね」

「でも今日は貴方がいるわね」

「そそそそうだね、あは、あははは……」

「……一緒に居てくれる?」

「はひぃぃぃぃ!!! ぃぃぃぃよろこんで!!!」


 そんな夜遊びを提案し、少し彼を揶揄ってみようという。

 悪戯心を、身の内に芽生えさせてしまったのだった。

次の投稿は4/7です。

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