【第二十頁】デュアルスコーピオン死す
鋭い尾先の一部が開かれた。
その中から現れたるは小型のスコーピオン、その数十体。だがこれを既に想定していた彼らは『やはりか』程度の認識でこれへの対処へと動いたが、リックだけは違っていた。
「オイ余計な事は考えるな! お前は前だけを……!?」
(何処に、何処が、何処であれば、どうする、どうすれば、何をすれば良い、地面、ハサミ、尾っぽ、足、何処か、何処かに……)
「お前……」
尚も狙われるリック。
デュアルスコーピオンからの猛追を凌ぎながらも、その目は明らかに何かを狙っていた。
「何て……集中力……。余計な言葉は無用か、風迅霊脚」
更に加速していく戦闘。
突如現れた小さなスコーピオンを一切意に介さず、ただ只管に目の前のデュアルスコーピオンの攻略に全てのリソースを注ぎ込んで攻略の糸口となる【何か】を探していた。
「ギュイイイイイイィィィィィィィ!!!」
「違う、ここでも無い、何処かに必ず……」
縦横無尽にフロア内を暴走するデュアルスコーピオンの双尾。刺突、薙ぎ払い、剪断、殴打、その大いなる鋏と広い射程を誇る双尾の力を遺憾無く発揮し、リックの小さな身体を仕留めんと躍起になるその姿、まるで何かに怯えているかの様に、一刻も早く眼前の小鬼を亡き者にせんと攻撃の手を一切の休止なく奮い続けていた。無論、幾つかの攻撃は直撃している。
「ぐっ、まだだ……」
だがしかし、彼は止まらない。
そんな猛攻を紙一重で回避し、稀に喰らいながらも、只管に敵の観察を止め無いリック。彼はまだ経験が浅過ぎた。それ故に敵の特性など知る筈も無く、事前の知識では無く今得られた僅かな情報のみでこの窮地を切り拓かなければならなかった。
そして、ディープスはそこに口を挟むつもりは無かった。故に彼は既に敵の観察を止めていた。それは諦めなどでは無く、リックに任せれば問題無いと確信出来てしまったからに他ならない。
そして彼はただ、援護に徹する。
「不可侵領域」
(あぁ……何て幸せなんだ)
己が、技術と魔の欲する儘に。
「旋回跳躍盤」
(俺は……こんな戦闘を……)
だがしかし、敵もまた手練れ。
放たれた小型のスコーピオン達が大人しくしている訳もなく、その全てがスコーピオンの陰から離れ、獲物を狙うべく行動を開始しようとしていた。
狙いは当然二人。
眼前にチラつく脅威そのものであるリック。
そしてそれを護る厄介な魔法師、ディープス。
そんな、二人が小型スコーピオンに狙われた、
その瞬間にー
「追尾する十の魔力光線」
フィールド後方より、眩い光を伴った魔力光線が放たれる。大杖を前方へと突き出し、自身を中心として十の魔力体を出現させ、その全てが光線となって獲物目掛けて飛び出して行ったのだ。
「ギュィッ!?」
「ギョッ!?」
「ギッ!?」
「ギェェッ!?」
追従する魔力光線、ダイアゴナライン。
その攻撃は寸分の狂い無く小型のスコーピオン各個体に一本ずつ割り振られており、ラズリにとって死角となっていたデュアルスコーピオンの陰から姿を見せた瞬間、リックやディープスを狙って攻撃を試みた側から、その全ての存在に大きな風穴を開けていく。
「流石だな。……ん? 何だ?」
そんな幻想的なまでの後方射撃を視界の端で追いつつも、リックの援護から意識を逸らさないディープスは、彼の小さな変化に気が付いた。今この瞬間、リックの様子が僅かにおかしかったのだ。
「……そう言う事か、良し!」
小さくそう呟いたのはリックであり、彼が何かを掴んだであろうその視線の先を確認するディープス。そこにはラズリによって穴を開けられた小型のスコーピオンたちが転がっており、彼もまたそれを注意深く観察する。
「……ダメージの深さに差があるな。成る程」
リックの様子を追っていたお陰でほぼ同時に気が付いたディープスはそれに向けた適切な魔法を彼へと贈る。それはー
「膂力龍腕」
「ラァァァァアアアアアア!!!」
攻撃力の増加魔法。
その援護を以ってリックはー
「せいっ!」
「ギギギギッ!!?!?」
側面から拳による打撃攻撃を試みるも、敵の重量は膨大で。攻撃による彼の意図する状況への効果は薄くー
「くっ、ティティィィィ!!!」
「天地創造」
次なる一手を打つべく、この状況を打開出来る仲間の名前を叫んだ。そしてリクエストを受けたティティは地面に手をつくとフィールドライトを展開し、デュアルスコーピオンの足元から一本の柱を生成する。
その柱はデュアルスコーピオンの全体を斜めに傾ける様、敵全身の半身部分にのみ出現しており、ここにー
「そりゃぁぁぁぁ!!!」
「ギギギギギェェッ!!」
「あら、野暮な事は無しよ? 直進する二の魔力光線」
「ギェェッ!!?」
リックが追撃を見舞う事で、デュアルスコーピオンはその巨体の天地をひっくり返えそうとしていた。だが当然敵もまたそれを阻止すべく、強靭な二本の尾を使う事で身体を支えようしていが、叶わず。ラズリによる魔力光線が貫通こそしないものの、その大きな尾を二本とも弾き飛ばしたのだ。
三人のほぼ同時攻撃によってデュアルスコーピオンの巨体が見事に反転させられ、それによって大きな土埃が周囲に舞った。
弱く、柔い腹が見事に顔を出したのだ。
そしてこの最大の好機に、リックはー
「これならどうだぁぁぁぁぁ!!!」
「ギョェェエエエエエエビャァァァアアアアア!!!!!」
その防御の薄い腹部へと、強烈な踵落としを炸裂させる。直撃と同時に口から大量の紫色の液体を吐き出したデュアルスコーピオンは、そのまま沈黙し、やがて動かなくなってしまった。




