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【第二頁】トーナメント大会

「レディ、ファイトの合図で戦いを開始して下さい。その合図前に攻撃を仕掛けた場合、即失格となります」


 トーナメント大会予選、その一回戦。


「よーし、練習の成果を出すぞ!」

「お、おぉ」

「何だよ、ビビるなって! 大丈夫だからさ!」

「何が大丈夫なんだよ! アイツらみただろ? 完璧なパーティ編成だったじゃねぇか。あんなの俺たちみたいな寄せ集めでどうこうできる相手じゃねぇって!」

「俺が頑張るからさ!」

「俺たちはどうすんだよ!」

「俺が守る!」

「じゃあ誰がアイツらを倒すんだよ!」

「俺がやる!」

「お前自分が何人居ると錯覚してんの!?」


 リック少年達は対戦相手であるパーティ、メタルガードと相対し、開戦の合図を待っていた。


 互いに距離を取り、それぞれが武器を構えた状態でその瞬間を待っていたのだが、ソフトキャンディのメンバーは緊張感に飲み込まれて意気消沈状態に陥っていた。一方のメタルガードのメンバーはと言うと、


「ぷぷ、見ろよあいつら」

「チビの奴マジで木の棒を持ってやがるぞ」

「農業か公園でゴッコ遊びでもやってるつもりかっての」


 逆に緊張感皆無の、完全に侮った状態で開戦の合図を待っていた。それもその筈で、それぞれが剣や杖、爪や槍など得意な武器を構える筈のこのタイミングで、対戦相手であるパーティソフトキャンディのメンバーは、鍬が二人、槍が一人、そしてリック少年に至っては木の棒を構え始めたのだ。


 これに笑ってしまっていたのはメタルガードのメンバーだけに留まらず、観戦していた他のパーティ達や観客までクスクスと笑い始める始末であった。


 ただ一人、魔力を研ぎ澄ますー


「レディ、ファイッ!!」


 ディープスを除いて。


「退がれザコルス!」

「は?」


 会場全体に響き渡ったのは何かの衝突音であった。耳を劈く轟音が周囲に巻き起こり、僅かに遅れて衝撃波が会場全体を襲う。


 そして、それがリックの攻撃によって齎された事が理解出来たのはその直後だった。


「うわっ、かってぇー! 何だよこの魔法!」

「チッ、何だチビ助……」

「お前のミスだぞザコルス!! 迂闊な行動をするな!!」

「分かってるっての! イチイチ言うな!」

「なら早く体勢を整えろ!!」


 ディープスは最初からリックの動きにだけ集中していた。だからこそ対応出来たと言っても過言では無いタイミング。味方の前衛であるザコルスがヘラヘラしていた最中、一人即座に魔法を形成し強固な盾をザコルスの前へと展開。


 だが逆を言えばリックの動きは単純にして単調、恐らくこう来るだろうというのが容易に想像出来た為、対応自体は難しくなかった。そんなディープスの働きによってパーティの損害は免れたが、リックの先制攻撃に虚を突かれた事は間違いなかった。


球形の魔力弾(スフィア)!」

「ヒィィ!」

「くっそ!」


 だがメタルガードのメンバーがリックのメンバーへと魔法攻撃を仕掛けると、本来前衛である筈のリックは即座に後方へと退がり、これを木の棒で掻き消した。


「は!? 魔法攻撃を、木の棒で!? 嘘だろ!?」


 どよめいたのは相手の魔法師だけで無く、その戦闘を観戦していた僅かな観客達も同様の反応を露わにしていた。予想外のダークホース、しかしながらパーティとしては未熟そのもので。


「わ、悪いリック」

「良いって! これからこれから!」

「ぎゃー!!」

「え!?」


 隙を突いた攻撃を回避したリックの隙を突かれ、残りの二人がメタルガードの前衛に狙われてしまい、吹き飛ばされ際に壁に激突、昏倒させられてしまっていた。審判によって戦闘不能が宣告され、開始僅か一分にして二名のリタイア者が出てしまう。彼らが手にしていた鍬も、ガード虚しく真っ二つにされた状態で地面に転がっていた。


 勝負はパーティ全員のリタイアか、或いは棄権を宣言した時点を以って決される。


「くっそー、狙うなら俺を狙え!!」

「面倒なお前は最後だ、膂力龍腕(ドラゴンエナジー)!」

「でりぁぁぁぁ!!」

「ぐぬぬ!」


 味方から攻撃系のバフであるドラゴンエナジーを受けたザコルスは、正面からリックへと剣を振りかぶった。木の棒でこれを受け止めたリックであったが、剣が僅かに棒へとめり込んでおり、次の瞬間には斬れるか折れるかしてしまいそうな予感を覚えさせる鈍い音を滲み立てていた。


球形の魔力弾(スフィア)!」

「ぎぃやぁぁぁ!!」

「スカトー! ぐぬぬ、畜生……俺が守るって言ったのに……みんな……」


 またしても、リックが敵の攻撃を受けている最中に、他のメンバーが敵の攻撃に沈んでしまう。これにより、遂にソフトキャンディのメンバーはリック少年を残す所となってしまう。


風迅霊脚(シルフィエンス)


 ディープスにより、メンバー全員の速度が底上げされる。この時メタルガードのメンバーは誰一人欠けておらず、またダメージもまだ受けてはいなかった。


「勝ったな」

「馬鹿野郎!! 油断するな!!」

「チッ、こんなチビ一人に何が出来るって……」

「ラァァァァアアアアアア!!!」

「!!?」


 一振り、二振り、高速で駆け回るリック少年が死角からザコルスに攻撃を仕掛け、それが直撃するかと思われたその瞬間、やはりそれは見えない壁に阻まれ、直撃する事は叶わなかった。そしてー


「ぐっ、御神木の枝が!」


 三回目の攻撃時、強く振り抜いたリックのパワーに木の棒は耐えきれず、その姿を真っ二つに割ってしまう。


 だがしかし、その一方でー


「なっ!? 俺の不可侵領域(エアシールド)を割っただと!?」

「でりぁぁぁ!!!」

球形の魔力弾(スフィア)!」

「ぐぁぁぁ!!?」


 木の棒による打撃攻撃だけで自身の頼りとするシールドを抜かれたディープスは、信じられない物を見たと言う顔でリック少年の姿を見つめていた。


 そしてシールドの破壊と共に拳に切り替えたリック少年は、ザコルスに一撃を見舞うべく、更に前へと出たのだが、そこに後衛からの魔法攻撃が飛んできてしまい、これが直撃してしまう。


「チッ、驚かしやがって」

「油断するなと言っただろうが!」

「……煩い野郎だ」


 険悪な空気を醸し出すメタルガード。同パーティ内でも、それぞれの温度感は僅かに異なる。だがディープスは常に遥か高みを目指していた。だからこそ力あるメンバーと共にこの大会に臨んだ。だが、その志しの高さまでは全員で共有出来てはいなかった。


 ある程度勝てて、仕事が斡旋される様になれば良しとするザコルス他二名。コロシアム大会を、更にはそこでの優勝を目指しているディープス。彼らの間には、僅か所ではない大きな温度差が存在していた。


「まだだ、まだ負けていない!」

「こっちだっつの!」

「ぐっ!?」


 ディープスより速度上昇のバフを貰っているザコルス達は、リックの対応ギリギリの速度で四方から攻め込み、この猛攻を折れた木の棒で何とか凌ぐリック。


 目を見開くディープス。

 バフ無しでこの三人からの攻撃を折れた木の棒で防ぎ切る。この様な芸当、果たして何人出来るというのか。少なくとも、自身のパーティメンバーの一人が逆の立場になったなら、5秒と保たずに落とされるだろう。


「……何者だ、あの脳筋チビ」


 そして、次の瞬間ー


「お前がっ!!」

「っ!?」

「は!? あの野郎いつの間に!」

「お前さえ落とせば、俺はまだ……!!」


 三人の猛攻を凌ぎ切り、リックはディープスの眼前へと迫った。そして木片を握り締めた拳を大きく振りかぶり、パーティの要であるディープスへとー


不可侵領域(エアシールド)

「ぐっ!?」


 ー届かなかった。

 やはり、直前にエアシールドを展開され、リックの拳は空に留まった。そしてー


「オラッ!」

「ぐあっ!?」

「よくも俺らを無視してくれたな!」

「ぐへっ!?」


 手練れ4人の包囲を相手に、彼一人で敵う筈も無くー


「止めだ!」

「げほっ!?」


 魔法攻撃からの物理攻撃、更には手厚い援護まで。彼らメタルガードのパーティによる連携を前に、奮戦虚しくリックは地面へと沈みー


「それまで!!」


 審判によって戦闘不能が宣告されてしまった。


「ま、まだ……」


 攻撃をくらい、気を失う寸前のリック。

 それでも戦いを継続しようとするリック。


「戦闘の継続は不可能です、諦めて下さい」

「そんな……」


 無常にも下される審判の裁決。

 抗えない実力差。

 だがもしも、もしも自分にも。

 攻撃魔法で援護してくれるメンバーや、

 立ち回りをサポートしてくれるメンバーや、

 バリアを張ったり、バフをくれるメンバーがいたのなら、


 もう少し、長く戦えたのだろうかと。

 勝てたのだろうかと。

 対戦相手の前衛で勝ち誇るザコルスを悔しい目で見つめながら、



 羨望の眼差しを向け、やがてリックは気を失った。

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