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【第十七頁】ダンジョンの罠

 暗い暗い壁面のみの景色、ダンジョン。

 その上部の岩が僅かに発光しており、最低限の光源は確保出来ているものの、決して十分とは言えない薄明かりの中。彼ら四人はダンジョンのフロア、階層を攻略し間も無くボスの待ち構える最後の階層を残すのみという所まで歩みを進めていた。


 今彼らが居るのは、そのボスフロア直前の通路であった。直前かと思えば曲がり角があり、また蛇行する道も屡々。案外期待していなかった能力ではあったが、リックがその辺りの地形把握能力に優れており、脳内マッピングで常に道を示してくれる為、ディープスやティティは僅かに気が楽な道中となっていた。


「正面、会敵十秒前」

「オッケー任せて!」


 そんなフロア間の移動の為通路を移動していた彼らの眼前に現れるは小型のゴブリンで、突然の接敵に備えて先頭を歩いていた前衛リックがその対処に当たっていた。


「ァァァァそりゃっ!!」

「ゲギャッ!?」


 ティティの感知能力によって先手を取ったリックは凄まじい勢いで駆け始め、地面から壁面へと足場を移しながら壁を横向きに走り抜けると、そのまま敵の目の前で軽くジャンプし、察知が遅れたゴブリンにとって嫌な角度からの攻撃を仕掛ける。


 一方で漸く敵が目視出来たゴブリンは、突然目の前にリックの顔面が迫っており、更に次の瞬間には強烈な衝撃を頭部に見舞われ、意識が混濁。そのまま追撃で地面と共にー


「せい!」

「ギャッ!!?」


 右腕による強打を以ってトドメをさされる。彼の儚い命はほんの数秒の内に刈り取られてしまったのだった。


「おっし、もう居ない?」

「……」

「ふむ、大丈夫かな!」


 後ろから続いていたディープスら三人へと確認を取ると、ティティの沈黙を以ってリックは『是』であると返答を得ていた。即ち、脅威は去ったという事なのだろう。


 段々とその辺りに理解が追いついてきたリックは、この反応をして『無視された』とは感じなくなりつつあった。これもまた個性あるコミュニケーションの一つだと、ティティの反応を割り切り始めていたのだ。


 だが願わくば、ラズリの様な関係値を持ちたかったリックにとって、それは気持ちの良い割り切り方では無かったが、ティティ側から考えれば、それは自身のエゴでしかないと気が付いてからは、その辺りも随分と落ち着いた様だった。


「後は、ここを進めばボスフロアか」

「ボスって何がいるの?」

「双々刃のダンジョンだからな。察するに、刃を四つ持つ何かが居るのだろう」

「何で分かるの?」


 ここで、リックは素朴な疑問を口にした。


「ダンジョンについては王国冒険者ギルドの総本山、ピェクリーム本部からその個別の情報が発信されている。そこには探知に特化した存在が在籍しており、そのダンジョンの魔力の波形から命名した上で各支部へと情報が行き渡るようになっているらしいな」

「はぇー、凄い人がいるんだね」

「止まって」

「ーっ!」


 と、そんな時。

 ティティがパーティの進行を止め、その上でその先に注意を向け始めた。


「罠か!?」

「補強する、動かないで。天地創造(フィールドライト)


 僅かに魔力的な揺らぎを発する地面に対し、罠であると判断したディープスは直ぐに動こうと身体を斜めに傾けてた、その裾をティティに掴まれ、動くなと命じられる。


 そしてティティは地面に手を置くと、そこに大量の魔力を送り込み、自分達の足元に新たな足場を作ると同時に四方天井までもを新たに形成し直した。その様子を見ていたリックは『天地創造とは正にこの事だ』と、彼女が味方である喜びに小さく震えていた。


「恐らく、崩落の罠の類い」

「成る程な。未然に防ぐとは大した奴だ」

「けど、……防ぎ切れてない。崩落エリアが広過ぎる」

「そうなると、恐らくこの先のフロアは……」

「走って、崩れる」


 少し苦い顔をするディープスだったが、状況は差し迫っており考え立ち止まり続けて良い場面では無かった。ティティのその言葉を受けて直ぐに全員が走り始める。するとその直後にー


「ちょ!? 後ろが崩れてきてるぅぅぅ!!!!!」

「煩い!」

「ぎぃゃぁぁぁぁなんじゃこりゃぁぁぁぁ!!!!!」

「煩いっつってんだろ! 考えさせろ!」

「死ぬぅぅぅぅぅぅぅ!!!!! 世界が崩壊してるぅぅぅぅぅぅ!!!!!」

「このアホチビが!!」


 走る側から後方の通路全体が崩壊しており、止むを得ず前に進むしか無い状況に。


(少し、少しで良いから考える時間を……。ダメなんだ、このまま行けば……」


「世界が壊れたぁぁぁぁ!!!」

「くっ、拙い……」

「大丈夫、いける。五秒は保たせる」

「!?」


 欲して止まなかった僅かな時間。

 それを、状況が変化した後に五秒も提供してくれるというティティ。先が変化する読み辛い状況下のそれとは比べ物にならない、大いなる価値を持った五秒。


「なら任せるぞ」


 どうにかするべく思考していたディープスだったが、後ろを走っていたティティが『いける』と啖呵を切った事で、思考をその先へと進ませる。


 この時、彼自身気が付いてはいなかったが、珍しくディープスの口角は上がっており、この厄介な状況の先を越える事に内心興奮を覚えていた。それはもしかすると、真に背を預けられる仲間を得た確信、彼にとって初めての経験だったのかもしれない。


(恐らくこの先で……、ならば!)


 ディープスの思考が纏まったのと時を同じくしてー


「やっとフロアだ……ぁぁぁれ? うぇぇぇぇ!?!!?」


 フロアに入った彼等一行を待ち受けていたのはー


「このフロアぁぁぁ足場が無いんだけどぉぉぉぉちるぅぅぅぅぇぁぁぁぁ死ぬぅぅぅぅ!?!??」


 遥か下方に待ち構える、ボスフロアまでの落下であった。

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