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【第十六頁】ダンジョン深部へ

 紆余曲折を経たダンジョン攻略。

 ティティの危機察知能力に、ラズリ、ディープスの対応力、そこにリックのゴリ押し性能も相まって、一行は一切の危う気を見せない探索を進めていた。


「間も無く最深部だが、取得物はイマイチだな」

「そうなの?」

「そうね。まだボスドロップが残ってはいるけれど……」

「恐らく期待出来まい」

「そうなるわね」

「え、なんで?」


 ティティが先頭を歩き、何かしらを察知したならばそれをラズリ及びディープスへと伝える。そして二人が対応を決め、事は不都合など一つも見られぬ程にスムーズに進行していた。


 故に道中にはかなりの余裕があり、冒険者としての下知識を持たないリックへの講義の様な時間が続いていた。


「ダンジョンのドロップレアリティは最初から幅が決まっている。故に慣れた冒険者であれば三つも拾えばそのダンジョンの程度は推し測れてしまう」

「はぇー、その感じでいくとダメって事?」

「換金率の低い物ばかりだから、ここまでだと拾うにも値していないわね」

「それがボスドロップに期待出来ないってのと、どう関係があるの?」


 随分と人馴れしてきたリックは相手がラズリであれば物怖じなく会話出来る様になっており、これに関しては良い傾向だとディープスは副産物に内心ほくそ笑んでいた。


 だがチームの連携力であればまだしも、彼らは冒険者であり冒険にて生計を成り立たせなければならない職業である。故に非正規クエストである本件は、現地でのドロップが報酬の全てであり、そこにある程度の成果が無ければタダ働きの様な状態に陥ってしまう。


 それ故に、現実的な問題として運が無かった事をディープスは嘆いていたのだ。


「ボスドロップは、そのダンジョン内にて取得出来る最高レアリティのドロップを獲得出来る確定された機会だ。故に、冒険者達は最深部を目指して進む訳だが、それが故に逆のケースも存在しているって話だ」

「あー、成る程。つまりこのダンジョンは……」

「ハズレって事よ」

「あちゃー。わかっちゃうんだね」


 リックを除いた面々は既に個々に経験値を重ねたベテランの冒険者であった。その個人に癖は在れど、蓄積された知識と経験に貴賤は無い。ディープスやラズリは既にこの探索に於ける取得物に期待などしていなかった。


「フロア、罠無し、敵は三体、かなり近い」

「じゃ、俺が前だね」

「油断しなければ問題あるまい」

「多分大丈夫、任せて」


 先頭を歩いていたティティと場所を代わるリック。

 そして臨戦体制に入ると、彼はメンバーに声を掛けた。


「行くよ」

「タイミングは任せる」

「なら今!」


 ディープスの『任せる』とほぼ同時に地面を蹴ったリック。


 フロアに入ると、そこにはティティの発言通り三体の魔物が待機しており、それぞれリックの存在に気が付いた様で構えを取り始める。だがー


「遅いね!」

「ゲロッ!?」


 敢えて正面では無く左にいた魔物を強襲すると、腹部、顔面と連撃を加え、三発目の攻撃でその魔物を足場にする様に飛び跳ね、残りの二体の背面側へと素早く移動すると、残りの三人とで敵を挟み込む様に自身の存在を強くアピールした。


「こっちだよ!」

「ブモォォォォ!!」

「良い囮ね、直進する魔力光線(シリンダー)

「ブべッ!?」


 魔物視点で見るに、正面から敵が現れたかと思えば直後に仲間の一体が瞬殺され、それを為した存在が自分達の背後に回り込んできたのであれば、反射的に警戒してしまうのも仕方の無い話だと言えるだろう。


 だが、そんな分かり易い隙をラズリが見逃す筈もなく、シリンダーによって中央にいたオークは、その巨体の中央に大きな風穴を開けてしまう。


 ズンと、重量感を思わせる音で地面に沈んだ二体目の魔物を殺ったのは攻撃系魔法師である女であった。故に残された魔物はその二つの脅威を左右に見られる様に僅かに後退すると、リックとラズリを共に正面の向きに捉え、攻撃を仕掛けるべく殺意を二人へと向ける。


「キィシャァァァ!!!」


 まるで歩く植物の様なその魔物は、自身の身体の一部を延長する様にツタを伸ばす事で攻撃をし、その右腕と左腕から脅威両名を同時に狙うべく遠距離から攻撃を試みるがー


天地創造(フィールドライト)

「キィェェェェェ!!!」


 地面から突如出現した壁にその攻撃を阻まれ、更には視界までもを塞がれてしまった魔物は、してやられたという事実のみを受け取る事しか出来ず、その場にて叫びを吐き出すもー


「ラァァアア!!」

「ゲャィ!!?」


 壁を飛び越えて出現したリックに頭部を蹴り飛ばされ、そして蹴られるが儘に位置を誘導されたその先にはー


「さようなら、爆発する魔力弾(ポリヘドロン)

「ギョエエエエエ!?!!?」


 当然ラズリが大杖を構えており、容赦の無い爆発魔法が打ち込まれ、魔物は跡形もなく大破させられた。



 ━



「さっきさ、最後は何で爆発させたの?」

「プランダラーの時かしら」

「……名前はわかんないけど植物っぽいやつ」


 戦闘後、リックは先の戦いを振り返りラズリの立ち回りから発生した疑問を口にしていた。


「爆発の魔法って他よりも消費が多そうじゃん?」

「そうね、合ってるわ」

「なら他の魔法でもいけたんじゃないの?」


 その疑問とは、省エネを考えた場合の戦闘であるならば、ラストアタックが過剰攻撃(オーバーキル)だったのではという指摘であった。それに対してラズリの答えはー


「植物系の魔物は切断や部分破壊に耐性がある個体が多いのよ」

「へ?」


 明確に理由のある選択、つまり適切な攻撃であったという物であった。


「縦や横に切断してもくっついて無かった事にされたり、穴を開けても塞いでくる場合があるの。けれどあのタイプは堅さって意味で防御面が弱い事が多いから、燃やすか吹き飛ばすのが定石ね」

「そうなんだ……。え、じゃあラズ姐が爆発の魔法を持って無かったらどうしたら良かったの?」

「幾つかパターンはあるが、二つ答えるぞ」

「ん、頼む」


 想定される場面を質問したリックに対し、返答を引き継いだのはディープスであった。


「一つは、一般的に考えるならレンジャーが何かしら燃やす手段を持ち合わせているケースが多い」

「成る程、道具で燃やすのか」

「二つ目は、今の俺たちで考えるならばティティが敵を囲む様に地面を操作し、存在ごと無視するのが最善だろうな」

「もはや相手にすらしないのか……。凄。」


 会話の流れで突如話題に出されるティティだったが、彼女は返事はおろか表情一つ変える事なく前を向き直すと、再びパーティの先頭に立ち、ダンジョンの奥地を目指し一人歩き始めた。


「お、俺もしかして嫌われてる?」

「何故だ? 寧ろ好意的にすら見えるが」

「どんな目してんのお前バグってんのかもしくはポジティブお化けなの? ってかディープスは心配になんない訳? 嫌われてないのかなって」

「奴はこのパーティを導き、お前も彼女の連携で窮地を救われている。そして俺の指示にも従っている。どこに問題が?」

「もう良いです」

「?」


 心底分からないという顔をするディープスにこれは無駄な問答だと判断したリックは諦めて歩き始めたのだが、そんな彼にー


「もう少し、時間をくれないかしら」

「……ん?」


 僅かに口角を上げるラズリが、少しだけリックの発言に言葉を添えた。それはー


「あの子、アレでもかなり心を開いてる方よ?」

「そうなの!?」

「だからそう言ってるだろ」

「お前は黙ってろ」

「む?」


 この新しいパーティならばもしかするとという。


 ラズリなりの、一握の望みが垣間見えた一言であった。

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