【第十五頁】魔法とは
「なーバリア、魔法ってどうなってんの?」
「人を魔法名で呼ぶな。それにあれはエアシールドだと何度言えば分かる」
「お前も俺の事チビって呼ぶじゃん」
「むっ、ならば俺もお前の事をリックと呼ぶ。それで手打ちだ」
「おし、なら俺もお前をディープスってオイ!! 意味不明な場所で手打ちにするなし、ちげーだろ!!」
「むっ?」
ダンジョン内、そのフロアにての休息時。
不意にリックがそんな事を言い始めたのに対し、反応したディープスが答えるもやや的外れな流れに。だが気になっていたリックは諦めずに同じ問い掛けを二度試みた所ー
「魔法だってば! そもそも何なの魔法って!」
「何処から聞きたいんだ?」
「何処から? ……全部?」
「全てをか。俺は構わないが、一度しか言わないからな」
「マジ!? やったね、前から気になってたからちゃんと聞くぜ! 俺割と記憶には自信あるから任せてよ!」
漸く身を結び、得たかった疑問の答えが得られる事に。
その場で少し姿勢を正し、少しだけ思索する様子を見せたディープスであったが、やがて考えが纏まったのか小さく『良し』と呟くと、魔法に対する私見を語り始める。
「まず魔法は魔力を持つ者が、それをどう扱うかで呼称が変わる。一説によると、それを四つの役割に分けた事が冒険者パーティの基礎だとも言われている。これを魔四原則と言う」
「え? 前衛も含まれるって事?」
予想外の台詞を吐いたディープスに対し、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしたリックは素直に疑問を返した。
「ハイレベルなパーティともなればそうなるってだけだ」
「ぐぬぬ……確かに俺はまだ低レベルではあるが……」
「前衛の魔力適性の有無は比較的優先度が低いという事と、魔力が扱えなければ冒険者になれない、としてしまえば参加者がそもそも減ってしまうという理由から、それらに魔力適性は求められ無くなったらしいな」
「前衛とレンジャーに魔力は無くても大丈夫って事?」
「そうだ。それ故に魔法師にのみ【魔】の名を冠し、前衛とレンジャーが技術職となったそうだ」
「はぇーそうなんだ。そんなの誰も教えてくれなかったなぁ」
「だからお前は鍛錬を続けられた、違うか?」
「ぐぬぬ……た、確かに」
冒険者となるには魔力が必要です。
もしもそんな世界になってしまっていたならば、世の和を担う冒険者の総数は極端に減っていただろう。そも、魔力適性を持つ人材は貴重であった。その少数の適性者だけで魔の駐留跋扈するこの世界の対応を迫られたケースを考えるに、その未来は非常に暗い世界であると言わざるを得なかった。
その上で、魔力適性を持たぬ状態で冒険者となった者の中から、後天的に魔力が身につく者もいる為、間口を拡める目的で国がその様に定義したと言うのが【魔四原則】の源流であった。結果、今日も世界の均衡は保持されており、その意味合いで言うならば【ブレイバーズ大会】もまた国の安定に一役買っていると言えるだろう。
「じゃあ何で援護とか攻撃とか別れてるんだよ」
「魔力の適性には、先の【魔四原則】に則り四つのタイプが存在する事が由縁となっている」
「四つのタイプ?」
「まず【自身にしか付与出来ない者】を前衛とし、【他者にしか付与出来ない者】を援護系とし、【魔力をエネルギー体として飛ばす事が出来る者】を攻撃系とし【魔力を無機物にしか付与出来ない者】をレンジャーとした」
「え!? あれって何でも出来る訳じゃないの!?」
「出来る事は出来るが、その精度は適性用途に比べたなら1/10程度の威力が関の山だろう」
「成る程、適性外の使い方をやっちゃうと効率が悪いのか」
「そういう事だ」
幼き頃のディープスは例え自身に適性が無かろうとも、一人で戦える己である為に1/10の威力でも通用する攻撃系魔法師になるべく、苛烈な鍛錬で自身を鍛え続けてきたのだが、やはり才能が開花したのは【援護系】の魅力に取り憑かれてからであった。
そしてその【適性運用】による才能の開花は、ある程度のレベルを超えた実力者であれば誰しも経験の事だと言えるだろう。
「んじゃさ、魔法ってパワーアップする奴とか、他にも色々あるじゃん? あれってどれくらいの種類があるの?」
「正確には援護系には八種類、攻撃系には六種類と七属性、トラップ魔法には四種類の【デフォルト魔法】が存在している」
「デフォルト魔法?」
「魔導書であれば援護系のみ最大八つ、短杖であれば援護と攻撃を合わせて四つ、大杖であれば攻撃系のみを最大六つ、腕輪であればトラップ魔法のみを最大四つセットできる【簡略魔法】の事だな」
「簡略魔法?」
「専門の店に行けば【印】と呼ばれる魔法の簡略発動が可能な物を自身の武器に組み込む事が出来る仕組みの事だな。詠唱や術の高度なイメージ無しで簡単に発動出来る代わりに、武器に組み込んだ【印】の数に応じて発動する魔法が弱くなる様になっている」
「うーん、つまり【印】が一つだけだったらそれが威力最強って事?」
「威力面で言うならその通りだ。だがそれでは応用力に欠ける魔法師となってしまうのが欠点だがな」
「成る程、それも良し悪しって訳か。難しいなぁ。因みにディープスは武器に【印】を何個セットしてるんだ?」
「当然八つ、全種類をセットしている」
「……それであの威力?」
「鍛え方が違うからな」
援護系は複数の【印】をセットする事がポピュラーであるが、攻撃系やトラップ魔法であれば決まった少数の【印】で運用し、威力を高める事を優先する場合が多い。だがそれを踏まえた上でも【印】を全てセットしているディープスが少数派なのは間違いないだろう。
「因みにラズ姐の【印】はどうなってるの?」
「私は爆発する魔力弾と魔力真空破、そして直進する魔力光線と追尾する魔力光線の四つの【印】を組み込んだ大杖を使ってるわ。属性も【火】なのだけど、これはあまり使わないわね」
「はぇー、そうなんだ」
(……属性まで持っていやがったのか。コイツ、やはりとんでもないな)
【印】を組み込めば簡略魔法として比較的誰にでも運用出来るのだが、その発動の難しさは種類によって様々であった。故にそれらを八種類も操るディープスは特異であり、また攻撃系の発展段階である【属性】を持つラズリも、人材としてかなり希少な存在であった。
「あ、あの……ティティさんは……」
「……」
「この子はトラップ魔法師で、組み込んでいるのは天地創造のみなの」
「へ、へぇそうなんだ」
(単一使いのレンジャー。奴は地形操作に特化していたのか。とは言え魔力適性のあるレンジャーは自身の身体から離れた無機物由来の魔力に敏感故に、ダンジョン探索に於いて罠の看破に貢献してくれる。……改めて地形の変化に関して得手不得手の確認が必要だな)
「先に見た封印石があっただろ?」
「ん、俺が不用意に持っちゃったヤバい石だよね」
「アレを扱えるのが援護系とレンジャーだ。魔力石を経由する為、俺みたいな援護系でも扱える代物となっている。因みに俺は封印術が使える」
「お前なんでも出来るじゃん」
「何でもは出来ん。だからお前達が必要なんだろ」
「!? ……サラッとカッコいい事言うなよな」
「は? 当たり前の事だろ」
「ふふ、無自覚って恐ろしいわね」
「ー?」
「あ、そうだ」
ここでリックはもう一つ疑問に思った事を口にする。
「何か魔力攻撃で球みたいな形のエネルギー体が飛んで来る奴あったじゃん?」
「球形の魔力弾ね」
「それそれ! それとさっき言ってた魔力光線って何が違うの?」
「一つは扱い易さね。球形の魔力弾は最も簡単な攻撃系魔法だから、どうしても使用者が多くなるの」
「成る程、そうなんだ」
「もう一つに貫通性があるわね」
「貫通性?」
「球形の魔力弾はどれだけ威力を上げても着弾と同時に消えるのだけど、直進する魔力光線や追尾する魔力光線は、その攻撃に割かれた魔力が尽きるまで消えないという特徴があるのよ」
「うーん、何が違うの?」
「魔物が複数いる場面で縦に並んだ敵を一掃できるのが
直進する魔力光線や追尾する魔力光線って感じかしら」
「……それって人に当たった場合はどうなるの?」
「爆散するわね」
「ひっ」
「冗談よ。ダメージ超過分に伴った魔力的な硬直が伴うわ。魔力は魔力しか攻撃出来ないのよ」
「……魔物って魔力で出来てるって事?」
「詳しくは知らないけれど、魔の物って表現してるし、強ち間違ってもないんじゃない?」
「ちょっと怖くなってきたかも……」
「けれど、戦う上で必要な事よ?」
「た、確かに。はぇー、魔力って奥が深いや」
こうして、魔法に関して知識の深まったリックを連れ、一行はダンジョンの奥地を目指し只歩いた。




