【第十三頁】ダンジョンへ
大爆発が巻き起こって数秒後。
黒煙の中から姿を現したのはリックとラズリの二人であった。ラズリはさも当然と言わんばかりにスタスタと歩き、ティティの元へと移動しており、またそれとは対象的にリックはその場でひっくり返っていた。
「死んだと思った……」
「死ぬ訳無いだろ。俺が居るのに」
「な、慣れねぇ……」
どうやらディープスに依るエアシールドが二人に付与されていたらしく、それぞれ盾ではあるが球形に展開されており、それは爆風や煙も遮断しているらしく、彼ら二人は全くのダメージの無い、無傷な状態を保っていた。
この戦いを通じ、彼らは四者四様の感想を抱いており、
(魔力真空波に爆発する魔力弾か。特にこれといった工夫は無かったが、それ故に強力。即時発動能力、スピード、更には威力に至るまで。その上で正確な判断力に、それを実行に移せる胆力まで持ち合わせているときた。ラズリは攻撃系魔法師として申し分ない存在だ。連携で要望があるなら確認するべきか。加えてティティの天地創造、あの流麗な魔力操作を見るに、恐らく複数の魔法を操るのだろう。武器は無し、であれば支援がメインか。脳筋チビも含め火力は申し分ない面々が揃う中で、俺の手が届かないトラップ魔法使いのレンジャーまで居るとは。こんなパーティメンバー初めてだ。コイツらなら……)
(彼ってば、リックが私を助ける事を見越していたみたいな動きをしていたわね。既にあの子を相当に信用していたのか、或いは的確過ぎる状況判断故か。どちらにしても少し危ういのかしら。いえ、恐らくは助けなかったら助けなかったで援護の手段を替えていただけ、かしら。今回ので四つ目の【印】を出してきたけれど、彼って本当の所幾つ扱えるのか興味が沸くわね)
(アイツの魔力量、相当なレベルだ。恐らく【印】は全て揃えているだろうし、だとしたら一つ辺りに割かれる魔力量が異常だ。仮にそうじゃなければ援護系である事にアソコまで執着はしないと思うし、多分合ってる。魔法バカタイプか。食べるのが楽しみだな)
(爆発の中でお姉様のおっぱいが目の前まできちゃァァァァァァ!!! もしバリアがなかった勢いで俺の顔面はあの爆乳おっぱいの中へと……うひょぉぉぉぉぉそしてくそぉぉぉぉぉ忌々しいバリアめぇぇぇぇ!! けどそうなると爆発がモロに効いてたから俺ってば木っ端微塵だし……ぐぬぬ……鍛え方が足りなかったか……筋肉さえあれば今頃おっぱい……トレーニングだ! 腕立て伏せをしよう!!)
相対していたドラムコングはと言えば、目や鼻の内側から弾き飛ばされた様に顔面が爆散四散しており、未だピクピクとした動きを腕や足が見せていたが、やがてその動きを止めていた。
「ふんふんふんふんふん!!!」
「おい脳筋チビ、その無駄な努力をやめろ」
「馬鹿なのお前!? 俺の鍛錬不足のせいでチャンスを取りこぼしたんだぞ!? これが鍛えずにいられるかっての!!」
「むっ、その向上心は悪くないな。続けてくれ」
「ふんふんふんふんふん!!!」
「ねぇ、このドラムコングだけど」
「構わないぞ」
「なら頂くわね」
ふわりとその外套と靡かせるラズリ。
鬼の形相で高速腕立て伏せを強行するリックに見向きもしない彼女は、どこからともなく不思議な宝石を取り出した。それは正八面体の様な美しい構造をしながら、宝石の如く輝く紅き石。
「良い魔石だな」
「自慢魔石よ?」
そんな紅き光を薄く放つ魔石を翳し、ドラムコングの亡骸の前に立ったラズリは何かを唱え始める。
「ふんふんラズリ何してるの? ふんふんふんふん!!」
「アレは魔物を魔素に還元しているんだ。自身から離れた魔力を行使出来る攻撃系魔法師のお家芸って奴だな」
「ふんふんふーんふんふんふん!!」
分かっている様でわかっていないリックであったが、やがてドラムコングは光の粒子となり、その巨大の全てが彼女の魔石の中へと収納される。
「終わったわ」
「ならとっとと行くぞ。脳筋チビのせいで余計な時間を取ってしまった」
「馬鹿言え!! 貴重な実践経験だろうが!!」
「むっ、確かにそうか。このパーティ想定での戦闘経験は多いに越した事は無い。むしろ嬉々として受け入れるべきか」
「さっきからお前……反発否定マンかと思ってたけど、理に適ってたら素直なのな」
「人として当たり前だろ」
「うっ、いや、そりゃそうかもだけど……ぐぬぬ……」
後始末に其々の反応を示しつつ、彼らは改めてダンジョンのあるらしい地点へと移動を始めた。
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「見えて来たわね」
「えぇ……怖。何なのあれ」
「アレがダンジョンよ?」
「怖すぎィィィィィィ!!」
「煩い」
「はい」
何かを見つけた。
同種の景色が只続く荒野を歩いた四人は、やがてその風景にそぐわぬ異物と対面する。それはまるで渦の様にゆっくりと縦回転するブラックホールの様な黒渦であった。更には僅かに瘴気が漏れ出ており、その事もあり眼に不気味に移るのは仕方のない事かもしれなかった。
「かなり進行しているな」
「だから急ぎ来たのよ?」
「成る程な。保って一週間ってとこか」
「何が?」
「あのダンジョンは生成されてから既にそれなりの時を経過しているの。だからもうすぐ中から魔物が出て来そうになってて、それが一週間くらい先の話かしらって事を彼は言っていたのよ?」
「ァァありがとうございます!!」
「お前、俺の時と随分態度が違うな?」
「お前から聞けた時は情報のみだ。それはパーティとして知っていた方が互いに有利だろ? だからイーブンだ」
「むっ、確かに」
「だがラズリお姉様の場合はそれにプラスして俺は精神的に回復する! 故に俺はその頂いた過剰な物に謹んで感謝しているまでよ」
「何だと!? おい貴様、説明の仕方次第で精神を回復する魔法を使えるのか? 教えろ」
「あら、えっちなのね」
「……? 習得は可能か?」
「無理じゃないかしら。アナタ色気が無いもの」
「むっ、残念だ」
「真面目かよ」
そして四人は件のダンジョンの前へと足を運ぶ。
リックのみがゴクリと生唾を飲み込み、他の三人は慣れた事とでも言いたげな余裕を見せていた。負けじと余裕を装うリックだが、その姿にラズリは微笑ましいものを見る目を向けて僅かに口角を上げていた。
「さて、行こうかしら」
「手早く済ませるぞ」
先んじてティティが、そして次いでラズリ、最後にディープスが、それぞれ何の躊躇いも無くその渦の中へと飛び込んでしまう。
「へぁ!? ちょ、嘘だろみんな!!」
アワアワとしながら辺りをキョロキョロと見渡し、彼らの姿がやはり消失している事を確認したリックは、再び生唾を飲み込み、額から汗を一線描きつつ心を決める。
「な、南無三!」
そしてリックもまた、眼前のダンジョンへと足を踏み入れた。




