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【第十一頁】封印石の魔物

「一旦退がれ!」


 気配が変わる。

 先程までの牧歌的な雰囲気が、何処か歪で剣呑とした悪い雰囲気へと様変わりし、辺りに不穏な空気が漂い始める。パーティメンバーとして未知である部分が多い現状、ディープスとしても下手な損失は避けたい場面であった。


「なんで!? 俺壊してないよ!」

「馬鹿が。封印石は封印対象が魔石に釣り合わなかった場合に、条件を緩める事で成立させられる場合があるんだ」

「……と言うと?」

「特定位置に根差した封印石の特性上、石碑として動かせない様に固定出来た方が解放リスクは低い。だが動かせる状態で場に根差しただけの封印をしたならば、解放リスクが高くなってしまう」

「……からの?」

「この場合は魔石に対して封印対象が強かったのだろう。魔石は場に固定出来なかった封印石って訳だ」

「……つまり?」

「お前は今、この封印石の中の魔物の【解放者】となった。良かったな死ぬまでストーカーして貰えるパートナーに恵まれたぞ」

「やりぃ! って、ええええぇぇぇぇぇ!!?!!?」


 ディープスの言葉通り、封印石はリスクの大きさで能力や条件を変動させられる特異な関係性の中で成り立つ疎な存在であった。故に知っている者であれば近付こうとすらしないのだが、ディープスやラズリもまさかリックが不用意に持ち上げるとは微塵も考えておらず、油断してしまった結果の事故であった。


「私のミスね。そこまで言うべきだったわ」

「いや、この馬鹿が悪い。どう考えてもな」

「今回のは俺が馬鹿なせいだから、ラズリお姉様は気にしないで!」


 既に手放した封印石からは漆黒の煙が溢れ出ており、その様子が今正に封印対象の解放が着実に為されている事を示唆していた。


 最初のディープスの「退がれ」の発言の瞬間に全員が後方へと距離を取っており、そこから状況を見守っている四人。逃げる事に意味など無い事を知っている三人は既に臨戦体制を取っており、リックのみがアワアワしながら封印石の変化を追っていた。


 魔導書を構えたディープス。何処とも言えぬ空間から大杖をを取り出し構えたラズリ。そしてただ構えだけ取ったティティ。そして、危険よりも何が起こるのかという好奇心が勝ってしまい、いつの間にかキラキラした目で状況の変化を待つリック。


 そんな四人の前に、封印石から大量の黒煙が立ち昇り、その煙はやがて彼らの眼前に集約する。


「ドラムコング……か」


 そして、煙の中から出てきた魔物の特徴を確認したディープスが、小さくそう呟いた。



 ━━━



「ウホオオオオォォォォォォォ!!!!!」

「ごごごごりらの魔物キタァァァァァァ!!!!!」


 慌てふためくリック、その眼前には赤褐色の体毛に覆われた巨大なゴリラが出現していた。かの者の足元には色を失った空虚な封印石が転がっており、最早その効力を残していない事は火を見るよりも明らか。解放は為された。


「成る程、確かにこの地域なら封印するしかない相手ね」

「……久々に見た」


 ードラムコング。

 ゴリラの様な見た目で、高さは4メールにも匹敵する大型の魔物であり、その特徴として特筆すべきは腹部全域と拳部分が鉄以上の硬度を誇っていると言う点と、全身に覆われた赤褐色の体毛が並大抵の攻撃を通さないという攻防に優れたフィジカルモンスターである点だろう。


「こここここれどうするの!?」

「落ち着け。因みに俺のバリアでは一撃も防げない」

「ダメじゃん!? 落ち着ける情報寄越せよ!?」

「慌ててもどうにもならないだろ。因みにお前が生身で攻撃を喰らった場合即死する」

「それ二倍慌てる情報ぉぉぉぉぉぉ!!」


 既にラズリとティティは最初の倍の距離を確保しており、最前線に残っているのはリックとディープスのみでー


「ウホオオオオォォォォォォォ!!!!!」

「ギャアアアアァァァァァァァ!!!!!」

「張り合うな」


 それはパーティの盾となるべくそのポジションを取った、訳では無く、経験不足からくる身体の硬直によるものであった。


 大地を揺らし、大きく二歩三歩と前進したドラムコング。


「グルルル……」


 眼下のリックを視界に収め、そしてその膂力凄まじい右腕を大きく振り上げる。ー間も無く殴られるー、そんな未来を目前に、ただ硬直したまま防御の姿勢だけを取ったリックであったがー


「ぐへっ!!!??」


 何の奇跡も起きず、即死すると告げられたドラムコングの右の拳から放たれた強打を予定調和の様にモロに全身に喰らってしまいー


(あ、死んだ)


 勢いよく吹き飛ばされ、


(とうさん……かあさん……俺、先に逝くね……。あぁせめて童貞捨ててから死にたかった……。ごめんな、俺の息子ちゃん……)


 弾丸の如く空を疾るリックは、そのままやがて大岩に激突する。


「ぴぎゃっ!!?」


 ドラムコングの超パワーで殴り飛ばされたリック。

 そして人の型で大の字に穴を作ってしまった大岩。


 轟音響かせる激突後、穴付近ではパラパラと岩屑が零れ落ち、妙な静寂か周囲の空気に漂った。そんな、現場の中心である大岩の中からー


「なななな何で俺生きてんの!?」


 リックが無事に生還した。

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