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【第十頁】SW始動

 向かう先はバストの酒場より遥か北部。

 馬車を手配した彼らSW(セクセルウィーバー)は、クエストの対象となったダンジョンのあるとされるノースヌゥディを目指し移動を始めていた。


 彼らの旅路は極めて単純であり、ただ馬の脚と地面に揺られていればやがてノースヌゥディに辿り着けるだろうという状況を過ごしていた。


 しかしながら彼らが目指すは街でなくダンジョンである。件のダンジョンはその街から南に位置する場所に出現しており、その周辺には小さな集落にも近い幾つかの村が点在するのみで、これといった寄り合い馬車の目的地は見当たらない。故にノースヌゥディ行きの馬車を途中下車し、そこから歩いてダンジョンを目指す事となっていた。


 閑話休題(それはさておき)


 そんな道中、馬車の中では。

 魔法感覚に集中するディープス。目を瞑った状態でブツブツと独り言に勤しむラズリ。そしてそんなラズリの隣りにポジションを取ったリックの三人が塊っており、にも関わらずティティの姿はその中には無かった。


「今日は良い天気だな……」


 馬車の屋根上、その最後尾。

 野晒しが故に独占状態にあったその青空特等席に、彼女は一人ぽつんと座っていた。執拗なまでに接触を避ける彼女を気にしていたのはリックくらいで、関わり慣れたラズリや我が道を行くディープスは自身の時間潰しに没頭している。端的に言えば、それはいつもの事であった。


「雲が、ぜんぜん見えないや」


 屋根上にて、その小さな足をプラプラと揺らす様子はまるで子供の様でいて。傍目に見れば男か女かの判別すらつかないだろう。


 そんな彼女の足下では、終始揺れる車内で上下にバウンドするラズリの胸にばかり視線がいってしまっていたリックの姿があった。


 当然、ラズリはそれに気が付いていた。

 目は瞑っていようとも、彼がそこに座ったのであれば状況は明白、見るまでも無かった。だがそれが分かっていて、幼い精力に振り回されるリックの姿に思いを馳せるのは内心満更でもない気分であった。あぁ、何と初々しいのだろうか。少しくらいなら……いや、まだ早い。仮に何かするにせよ、せめてこのクエストだけでも終わらせなければ、ここまで来た意味すら失ってしまう。彼女の身の内に潜む闇が嘲り笑う中、リックは居心地が悪そうに時折モジモジとしてポジションを正しながら道中を過ごすのであった。



 ━




「うわー、何にもないや!」

「向こうと、後は少し向こうに村があるくらいね。他は何も無いのだからリックの表現で正しいわね」


 ここまで乗せてくれていた馬車を降り、彼らは何も無い荒野にも等しい場所にポツンと佇んでいた。大地は荒れており、時折大きな岩が点在しているくらいで、そこは寂しい風が吹き抜ける一般的な荒野であった。


【何も無い】に経験が無いリックだけがはじゃいでおり、ラズリ他二名はリアクション無し。ディープスに至っては「とっとと案内しろ」とでも言いたげな表情をしていた。


「はぇーそうなんだね。ラズリってこの辺りに詳しいの?」

「……もう少し行った所が私の出身なの。けれど、ある程度身体が育ってからはノースヌゥディで過ごしていたから、そっちの方が詳しいわね」

「だからかー」


 少しだけ間を空けたラズリがその答えを口にする。表情はすましているが、本質は避けた、というのに近い雰囲気を醸し出していた。そしてその内容から察するに、恐らくー。そんなディープスが聞こうか聞くまいか少し迷った聞き辛い話を、少年リックは躊躇う事も無く口にする。


「何でこのクエストなの?」

「それはどういう質問かしら」


 それはプライベートな質問であり、パーティメンバーとして巻き込まれるならば聞く事を許される疑問だろう。しかしながら、聞かずとも何かが変わる訳でもない。それ故に、迷った末に口を閉ざしたディープスはこの話題を避けたのだ。


 しかし、リック少年はそうはいかない。

 聞きたければ聞く。

 それが彼のスタンスであった。


「出身がこっちって事は、それがクエスト受諾と何か関係あるの?」

「そうね……」


 ここで再び答えに詰まったラズリ。

 彼女は僅かに間をおき考える仕草を見せると、僅かにティティに視線を向ける。向けられた先であるティティは、そんな彼女のアイコンタクトに小さく頷いた。


「この近くの村、そこがティティの出身なの」

「えっ!?」


 予想外の返答。

 ラズリの出した結論は【無駄に偽らない事】であった。思わずティティの方を見たリックだが、信じられ無い程にリアクションの無い彼女の反応に、直ぐにコミュニケーションを諦め、再びラズリへと視線を戻した。


「予想ではそろそろ魔物が吐き出される頃だけど、あそこはクエストを発注出来る程の蓄えはないから。だから村からでは無く、討伐リストから非正規クエストとして受諾したのよ」

「はぇー」


 てっきりラズリの身の上話が聞けるものと思っていたリックは衝撃の余り語彙力を失っていた。そしてチラチラとティティを視界に入れるも、彼女から【触れるな】と圧を出されている様な気がして、それ以上何も言えなくなってしまう。


(気まずい……)


 こうなるから避けたのだと言わんばかりにディープスが溜め息を吐き出した。またオロオロとしているリックに面白い玩具でも観察しているかの様にラズリは微笑んでいる。どうやら誰も助けてはくれないらしい。


 ーと、そんなタイミングで。


「ん? アレは何?」


 ダンジョンを目指して歩いていた一行の向かう先に、小さな祠の様な物が小さく佇んでいた。


 それは魔石の様でもあるが、仮にそうだとしたら誰かが持ち去っていそうな程にサイズは大きかった。約二十センチといった所だろうか。紅く鈍い光を放つその魔石は、この場に於いて明らかに異質。リックには正に未知の存在であり、現状の空気感に耐えられなかった彼にとっては救いの様な話題転換でもあった。


「……アレは封印石ね」

「封印石?」

「魔物が中に封じられているの」

「はぇー、そうなんだ」


 封印石。

 それは依代となる魔石等の魔力体に封印術式使いが印を

 施す事で、魔力体の容量と合った魔物を封印出来る封魔の術であった。


 一度魔物を封じた魔石は再利用が出来ず、また魔石は土地に根差している為、動かす、破壊する等をする事によって中の魔物が出現してしまう。その上で、魔石に込められた術式によって【解放者】を正しく読み取る魔石は、例え誰かを仲介しようとも、正しく解放者を認識し、解き放たれた魔物は最初に解放者を襲う様に出来ている。


 それ故に、この封印石に触れる者は殆ど存在しない。


「はぇー、この中に魔物がいるんだ」

「それなや触るなこのアホチビ馬鹿野郎!!」


 好奇心旺盛で、考え無しな、


「へ?」

「今すぐ手に持ったその魔石を置け!!」


 まるでリックの様な、無知蒙昧な者を除いて。

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