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【第一頁】リック少年

本日中に三話まで更新致します。

よろしくお願いします。

 冒険者ー

 それは四人で一つのパーティを形成し、世に蔓延る魔を打ち倒す者達。彼らは凡ゆる団体や個人からの依頼で、我が物顔で跋扈する魔物達を今日も葬り続けている。そんな彼らには、明確な三つのポジションが存在していた。


 前衛ー

 主にパーティの盾となり、また矛として敵と真っ先にぶつかるパワーポジション。


 後衛ー

 その役割は二つあり、一つは前衛と共に敵への攻撃を試みるバックアタッカー、攻撃系魔法師。もう一つはパーティ全体をフォローする援護役、援護系魔法師である。


 そしてレンジャー。

 パーティがその冒険を簡易化する為の凡ゆる雑務を熟す便利屋。罠の探知や索敵、また作戦の立案から撤退の指揮までその任は多岐に渡る。特筆すべきはやはりダンジョンの攻略時になるだろう。そこでは彼らレンジャーは無類の益をパーティに齎している。だが事戦闘に於いては牽制役や敵へのデバッファーとしての役割が大きく、敵の足を引っ張る事を狙いつつ、攻撃の起点作りを担うポジションである。



 物語の舞台は大陸中央国家であるブロウジョ王国。

 ここでは一年に二度、途方も無く大きな大会が催されている。そしてその参加資格は四人で構成されたパーティで登録する事のみであり、参加費はなんと無料。彼ら冒険者たちが自慢のパーティでこぞって参加を表明し、その研鑽された技術を競う場として周囲の国からも注目を浴びる一大行事であった。


 そんな年中二度に渡る大会の優勝賞金はそれぞれ次の通りである。


 新たに結成された新パーティ、若しくはコロシアムに辿り着いた経歴の無い若いパーティのみが参加出来る【ルーキズ大会】で優勝賞金【一万ゴールド】。だがこちらは後述する二つ目の大会に比べると、その熱量も賞金も十分の一程度と言わざるを得ないだろう。


 そして映えあるブロウジョ王国が誇る最強の冒険者を決める【ブレイバーズ大会】は、その優勝賞金はなんと【十万ゴールド】。


 その上で、ブレイバーズ大会優勝パーティは【勇者】の称号を与えられ、各国から巨額の依頼金を積まれるクエストのオファーが鳴り止まない栄誉も恣ほしいままとなる。まさに雲の上の存在となる事を約束された近隣国家最大のイベントとしてその大会名を轟かせていた。


 またこの大会では優勝出来ずとも上位に食い込むだけで各所からのオファーが当然の様に舞い込み、特に本戦であるコロシアム大会のベスト8まで辿り着いたパーティの銘は【八天牙】と呼称され、広く遠方にまで轟く程の価値を誇っていた。


「うわー、遂に俺たちもデビューかぁ!」

「馬鹿! おのぼりさんみたいで恥ずかしいからジッとしてろって!」

「良いじゃん別に、本当の事なんだし」

「はぁ……モテるなんて言葉に吊られて着いてくるんじゃなかった。よりにもよって何でいきなりブレイバーズ大会なんだよ……」

「そう言わないでって! まずは一勝、二回のうち一回でも勝てたら本戦なんだから。そしたら俺たち全員間違いなくモテる!」

「いや無理だって」

「無理じゃないよ! 諦めなければチャンスはあるんだから! ここで目立てば、いつかはチビの俺でもお姉さんから引く手あまたになって……むふふ、の筈!」


 彼ら四人は、地方の田舎出身の弱小パーティであった。


「リックはまだ良いけどさ。俺たちなんて大怪我しないか心配で仕方ないっての」

「きっと大丈夫だって!」

「根拠の無い自信ヤメロ」


 リック少年は前衛を務めるパワーアタッカー。そんな彼には冒険者を、引いては前衛職を志したルーツが存在していた。


 それは彼がまだ幼少の折。

 難敵と偶然の遭遇をしてしまい命の危機に陥る場面があったのだ。その時、幼き彼を颯爽と助けてくれたのが【八天牙】の冒険者パーティ、その前衛を担う人物だったのだ。


 彼はその卓越したパワーで難なく幼きリックを救い出すと、村への凱旋時に村中の女人から羨望の眼差しを浴びていた。そして、事も無さげにリック憧れのお姉さんと一夜を共にしてしまったのだ。


 リックがどれだけ望もうとも一切芽が見えなかったルートを、たった一日にしてこじ開けてしまう。そんな奇跡を目の当たりにしたその日から、彼の夢は冒険者と決まってしまった。


 だが彼の生まれた場所は誰がどう見ても田舎であった。

 何であればド田舎と表現しても良いかもしれない。

 故に冒険者家業をしている者など一人もおらず、魔法の師匠も居なければ、冒険のイロハを教えてくれるサポーターも居ない。


 幼きリック少年に出来る事は限られていた。

 それ故に彼はただ只管に走り込み、山道を駆け回り、木の棒を振り回し、腕や足や体幹を鍛える日々を過ごしていたのだ。来る日も来る日も修練の日々、より太く重い木の棒を振れる様にと身体を鍛えに鍛え抜いた。険しい崖道を駆け回った。身体を鍛える他に選択肢が無かったのだ。


 だがしかし、またしても天はリックに味方せず。

 彼は時を重ねれど大きく成長出来ず、その体格は非常に小さいままで、齢16にして身長は僅かに155センチ。パワーが要となる前衛職には何処か限界がある様に思える見た目に留まってしまっていたのだが、かといって魔法師の適性があるかといえば、それはからっきしである。


 前衛適性の身体を持たず、後衛適性の素養を持たず、レンジャーの師も居ない。所謂八方塞がりという状態であった。


 だが、彼は諦めなかった。

 毎日、毎日走り込み、トレーニングを欠かさず、思いつく限り出来る事積み重ね続けてきたのだ。そしていつか憧れの【ブロウジョトーナメント】に参加すべく、村に居た年上や年下の村民に声をかけ続け、そしてー


 本年遂に念願叶って。

 彼の他にパーティメンバーが3人集まったのだ。その上で、奇しくも【ブレイバーズ大会】の開催にタイミングが合ってしまったのだ。遂に天が自身の背中を押してくれたと、リック少年は感涙した。


 そんな彼のパーティメンバーはと言えば。


 前衛、リック少年。

 職業、剣士(木の棒)。

 後衛なし、レンジャーなし、無能力メンバー3人。

 パーティの銘はソフトキャンディ。

 彼の大好物であるキャラメルから頂戴しており、パーティメンバーはそれに流される形で決まった銘である。


 リック少年は自信に満ち溢れていた。

 紛いなりにもパーティメンバーは皆戦いの練習に付き合ってくれていた気心の知れたメンバーである。魔法を使える者は居らずとも、上手く連携が取れれば或いは何度かくらいは勝てるやもしれないと。そう考えていたのだ。そしてそうなればー


「おい邪魔だ」

「え? 痛っ!?」


 そんな淡い希望を彼が妄想していた時。

 誰かが彼にぶつかって来たのだった。


 王国のコロシアムで行われるトーナメント戦。

 しかしてその膨大な参加人数という事もあり、その全員をコロシアムに招く訳にはいかなかった。故に、トーナメント参加者達は、事前に幾つかの会場に振り分けられ、そこで勝ち残ったパーティだけをコロシアムに招くという方式を採用していた。


 コロシアムに参加出来るのは僅かに32パーティのみ。つまり、一つの会場から2パーティが選出される形なのだ。そして、彼らは今その予選会場の控え室で待機している状態にあった。


「道の真ん中で固まるな。周りを見ろ、ここは本戦と違って狭いんだ。皆が一様に邪魔にならぬポジションを取っているだろ」

「あ、すみません」


 彼のその言葉に、周囲を見渡したリック。

 どうやらおかしかったのは自分だったらしいと気が付いた様子で、リックは慌てて彼に謝罪した。初めての地故に、場を知らぬソフトキャンディの面々は、知らず知らずの内に邪魔な場所に立ち止まってしまっていたのだ。それを指摘され、彼らはサッと隣へ身を潜めた。


 問題はその後だった。

 その様子を見ていた、声を掛けた男のパーティメンバー、ザコルスが下卑た笑みを浮かべながらー


「奴らがソフトキャンディかよ。勝ったな」


 と、リック少年達を馬鹿にしてしまったのだ。その言葉の下品さを差し引いて真意を鑑みるに、成る程納得は出来ると周囲の者たちも同意してしまう程に、彼らソフトキャンディの出立は田舎出身の初心者そのものであった。


 だが、そんな言葉を受けたリック少年はー


「まだ分かんないじゃん」

「は?」


 そんな彼に、真っ向から反論した。


「まだ戦っても無いのに、何で分かるの?」

「やめろってリック! すみませんこいつ田舎者でして」

「いやいやだってさ、この人勝ったとか言ってたよ? 俺たちだって勝つつもりなのにさ」

「っぷ。ぷはははははお前たちが勝つ? 無理に決まってんだろ馬ッ鹿じゃねぇの」

「なんで?」


 場を弁えず、大声を張り上げて笑うザコルス。そんな彼の見下した態度を見て、リックは「何でこの人は戦ってもいないのにこんな事言っているのだろうか?」と、心底不思議そうに言葉を返したのだ。


「テメェ初参加だろ?」

「そうだけど?」

「で、パーティメンバーはその3人か?」

「そうだけど?」

「魔法適性のある奴は?」

「居ないよ?」

「はっ! テメェそれでどうやって勝つってんだよ!」

「それは……やってみなくちゃ分からないじゃん」

「無理無理、棄権した方が良いぜ? こりゃ先輩の良心からのアドバイスだ。お前らが居るべきは畑であってここじゃねーよ」

「良かれと思ってくれてたんだね、ありがと。でも大丈夫だよ、俺たちが勝つから」

「ケッ、そうかよ」

「もう止めろってリック! すみませんすみませんこいつ本当怖いもの知らずの馬鹿なんで!」


 リックとザコルスがそんなやり取りをする中、リックのパーティメンバーは慌てた様にリックを諌め、またザコルスにのパーティメンバーは一様に笑っていた。


 ただ一人を除いて。


 ただ一人、最初にリックが邪魔であると伝えた男。それは嫌味でも何でも無く、ただ【そこに居ては皆の邪魔となる】と純然たる事実を告げた一人の出場選手。

 援護系魔法師の【ディープス】だけが一切の笑みを浮かべず、その状況を鋭い目付きで睨みつけていた。


「じゃ、俺たちは行くからね」

「ケッ、せいぜい足掻きな」


 そんな、予選一回目で当たる因縁ある彼ら2つのパーティがその場で別れた、直後だった。


「見たかよあのチビ、腰に木の枝さげてやがったぜ? しかもあのパーティメンバー鍬を持ってやがったぜ? 今から畑でも耕しに行くのかよ。誰か場所を間違えてるって言ってやれよ」

「違いねぇ、がははは」

「……おい、ザコルス」

「ッ!? な、なんだよ」


 ディープスはリック少年に傲慢な態度を取ったザコルスを呼び止めた。


「お前、魔法使えたのか?」

「ウチには二人適性のあるメンバーがいるじゃねぇか」

「お前自身の話をしている。他人の能力をさも自身の物かの様にひけらかすな。程度が知れるぞ」

「……ケッ」

「それに」

「何だよ!」

「お前、何勝ち誇った態度を取ってるんだ?」

「あ? あんな奴らに負ける可能性なんざこれっぽっちもねぇだろうが」

「あんな奴ら? お前あのチビが弱そうに見えたのか?」

「あんな田舎クソチビがなんだってんだよ。腰の得物を見てねぇのかよ、木の棒だぜ? それにパーティメンバーどももゴミカスばかりで負けるなんざこれっぽっちもねぇよ、勝ち確だろあんなの」

「だがこれっぽっちの先の僅かな可能性で負ける事もある。気を緩めるな」

「チッ、面倒臭ぇ野郎だ」


 ディープスの懸念は決して根拠の無い諫言ではなかった。

 単純な話、彼だけは見逃しては居なかったのだ。

 ザコルスを筆頭に、彼のパーティメンバーは全員が身体の小さなリックを侮っていたが、ディープスだけは違っていた。


 あの時、まだ勝負の行方は分からないと言ったリック少年の表情は本気そのものであり、異常な真剣味を帯びていた。そしてディープスはあの無機質にして炎の宿った目には覚えがあった。久しく見ていなかった【勝利に飢えた獣の目】、勝つ為ならばどんな苦労も厭わない野生の精神性。それを裏付ける程に彼の掌は、


 ゴツゴツと、幾度も皮が剥けては再生したであろう堅い皮膚で形成されており、その小柄な体型からは考えられない程の鍛錬が彼の身に集積している事から、


「……あのチビ、何者だ?」


 ディープスだけは既に、彼を危険視し始めていた。

先々登場の新キャラの名前募集中です。

イカガワシイ単語を、それとなくアレンジした感じで頂けると有難いです。ディープスもリックもブロウジョ王国もそんな感じで付けました(ォィ)。この先に出てくるキャラクターもそんな感じで命名したいと思っております。言わなければバレないくらいのナイスネームお待ちしております。

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