触りたくない
僕には、『D』と言う名前の友達がいる。
僕と同じ十八歳で、高校三年生だ。
Dは、小学校から現在通っている高校まで、同じ学校に通っており、親しくしている。
髪型はロングヘアーで、性格は筋金入りの根暗、そして低身長だ。
とても話が合って、言う事が面白い。
しかしそんなDだが、最近学校に来ておらず、SNSも音信不通になってしまったのだ。
確かにDは、小学生時代から学校を休みがちではあったのだが、長くても三日しか休まなかった。
Dが最後に学校に来てから、今日で二週間が経つ。
一体、何があったのだろうか……。
部屋で勉強をしていると、母が扉をノックして入って来た。
「E? Dさんって方が来たわよ? Eさんを呼んで下さいって……」
Dが? 急にどうして俺の所に?
しかし僕は、二週間も会っていなかったDと会える事に、ほんの僅かな喜びを覚えた。
Dには前に家の住所を教えたことがあった為、ここに来た事には何の違和感も覚えなかった。
「D!」
DはTシャツを着ており、ジャージを履いていた。
髪はポニーテールになっており、左手には大きめな鞄を持っていた。
「あ……E……」
「D、どうして二週間も……」
「いや……あの……その……ね?」
「まあ取り敢えずここ玄関だから部屋入ろう?」
「……わ……分かった……洗面所何処?」
「え……ああ……こっち」
Dを洗面所に案内すると、ジャージの左ポケットからハンカチを取り出し、口に咥え、石鹼で手を洗い、手で口に水を含み、三回うがいをし、口に咥えていたハンカチで手を拭き、左ポケットにしまった。
「あの……一つ聞いて良い?」
「良いよ?」
「今……ポケットとかに……お金入れてたりとか……してない?」
「え……どういう事?」
「あ……いや! 別に深い意味は無いの……うん……別に持ってたら頂戴とかそんな事言うつもり全く無いから! まあ……その……お金に触りたくないから……」
「え? お金に触りたくないって……」
「あ……良いの! 忘れて? ね? 部屋……行こ?」
「……おう……わ……分かった」
少々戸惑いながらも、僕は二階の部屋に案内した。
「ごめん! 全然片付けてなくてさ……」
「良いの……E君の素が見れたみたいで……嬉しいし……へへ……」
「何だよそれ……もう……」
「ごめんって!」
その後、暫く話をした。
一番聞きたかった、どうして長期間休んでいたのかを聞いてみると、突然心が疲れたとの事。
自己肯定感が急激に下がり、自殺しようとまで考えてしまっていたと言う。
その為学校や勉強どころでは無くなり、心が立て直せるまで休んだと言う事らしい。
しかし心を立て直せても、いきなり学校に行くのは辛かったらしく、唯一のリアル友達である僕の家に来たと言う事らしい。
まさかそんな事があったとは……そのように思った。
その後はゲームやアニメ等の話で盛り上がった。
「何か……疲れた……あ! E君のベッドでお昼寝しよ!」
「あ……おい! 勝手に寝んなって!」
「ごめんって! へへ」
「幸せだなあ……生きてるって……ん? あ!」
「ん? 何?」
そう言った瞬間、突然部屋中に何枚もの紙幣が舞い始めた。
腕で顔を覆いながら、必死に叫んだ。
「何! 何! 何が起こっているの! どう言う事! 何事! 何事だよ!」
暫くして、ようやくおさまった。
部屋中には信じられない位大量の紙幣が散らばっていた。
「え! 何……これ……どういう事だ! あ……D! 大丈夫か?」
Dは、僕のベッドの上で体育座りになって顔を伏せていた。
「おい! D! 大丈夫か!」
「……あーあ……やっちゃった」
「……え?」
「これ……私の所為……」
「……え? ちょっと……あの……どういう事?」
「二週間前の夜にね……私の部屋で……お小遣いの……紙幣を触ったの……そしたら……突然紙幣から紙幣が噴き出し始めて……今のこの部屋みたいになっちゃって……偶然叫んでなくて……家族に……気づかれなくて……その後……片付けようとして……紙幣に触れたら……その紙幣からまた紙幣が噴き出し始めて……」
小さい声で呟きながら彼女は少しずつ僕の方に近づいて来た。
「私は……紙幣に触れると紙幣を大量に生み出す力を手に入れた……そう思って……箒と塵取りで紙幣を片付けた……その後……色々試して……色々分かった……紙幣だけではなく……硬貨でも力が発動すると言う事……そして……手袋をしていると……力は発動しない……でも……手袋なんかしたら……この力の事がバレてしまうかもしれない……そう思ってして来なかった……」
「そんな話……信じられない……」
「本当の話だよ? この部屋の状況がそれを証明してる……」
「じゃあ……本当の話だとして……生み出したお金は……使ったのか?」
「いや……使う勇気が無い……それに短期間の間でじゃぶじゃぶお金を使ったら……きっと……金銭感覚……狂うどころじゃ無さそうだし……家族とか……色々な人達から……怪しまれそう……」
「隠したいのか? 力を持っている事」
「隠したいに決まってるでしょ? こんな力を持ってる事がバレたら間違いなく私は注目の的になる……どんな扱いを受ける事か……ごめんね……E君の事は愛してるよ? でも……私の能力がバレちゃった……」
恐怖で身体が動かなかった。
僕はDに壁ドンをされ、逃げられなくなってしまった。
そしてDは右ポケットからスプレーのようなものを取り出した。
「……な……何だよそれ」
「これ? 麻酔薬だよ? こっそり買っちゃった……でもこっそり買っちゃったのはこれだけじゃない……」
麻酔薬を左手に持ち替え、更に右ポケットから何かが取り出された。
注射器だった。
「これは……打った時から三十分前までの記憶を消去できる薬だよ?」
「……」
「E君を麻酔で眠らせた後……この薬を注射して……私の力の事は全て忘れてもらうね?」
「……」
「E君……ごめんね」
Dは注射器を右ポケットにしまった。
ここで僕は、最後の抵抗をしようと、左手でDの左腕を掴んだ。
その時だった。
Dの後ろにあるベッドに、次々と何かが落ちて行くような音が聞こえた。
Dは驚き後ろを振り向いた。
「……え?」
「……は?」
ベッドには、大人数のDがいた。