咲き誇る花に誓いのキスを 1.5話
結婚式 3日前
オンヘイ公爵夫妻の会話。
「ふふ、ふふふ……おーっほっほっほっ!」
ゴットフリートの執務室に木霊する高笑い。手元に視線を落とした後、またそのご機嫌さが響く。
一体何がそんなに彼女の感情を刺激しているのだろうか。
「ただいま、ティア」
「ああ、ゲッツ! 待っていたわ!」
「我が妻は随分とご機嫌のようだが何かいい事があったのかい?」
「これよ!」
セレスティアはパッと写真が収められた額を開いて見せた。一面は幼児化した時に撮った猫耳パーカーのコージャイサン。そしてもう一面はうさ耳パーカー幼女。
「これは——………………ザナか?」
「そうよ。この前のコージーの写真と対にしてみたの。どうかしら?」
「いいじゃないか」
「そうでしょう! これを見せたくて待っていたのよ」
「ティアが楽しそうで何よりだ」
ゴットフリートは愛しい妻の頬にそっとキスを落とす。ソファに並んで座った二人は額に収められた写真以外にもセレスティアが持ち出していたものを眺めた。
「それにしても……研究員の姿が頻繁に変わっていたのはこの為か。随分と可愛らしい服を着ているじゃないか」
「この前ザナの好みを聞いたでしょう? あの後すぐエルザに頼んだ服なのよ」
「わざわざ子どもサイズを頼んだのか?」
「あら、ちゃんと今のザナのサイズもあるわよ」
セレスティアの言葉にゴットフリートはつい吹き出した。
「ははっ! それはコージーに渡したら大変なことになりそうだな」
「そう思ったからまだ隠してあるわ」
今コージャイサンに渡したらセレスティアが見る前に連れ去られてしまいそうだ。いや、絶対連れ去るだろうと確信がある。
それはゴットフリートも同じなのだろう。クツクツと喉を鳴らして笑っている。
さて、それとは別にセレスティアには不満な事がある。笑っていないで聞いて、と夫の注意を引いた。
「そんな事より写真がいつもより少ないのよ」
「恐らくだがアレの出力先を変えてるんだろう」
「ああ、それで」
今オンヘイ公爵家にある写真はコージャイサンが撮ったものだけ。イルシーが撮ったものがない分どうしても数は減り、さらにイザンバがメインに写っているものばかりなのだ。
「残念だわ。コージーと幼くなったザナのツーショット……私も買い取ろうと思っていたのに」
「心配しなくてもその内持ってくるさ。ティアは待っていればいい」
息子への忠誠心は確かなものだが、金の匂いにも敏感な従者は必ずセレスティアの元に写真を持ってくるだろう。
夫の言葉に納得したのか彼女は気持ちを切り替えるようにパンッと手を合わせた。
「そうだわ! エルザに生まれてくる子どもの分を頼んでおかないと!」
「子うさぎを増やすのか?」
「子ねこでもいいわよ」
「男の子ならドラゴンはどうだろう?」
「それもいいわね!」
新しい候補にセレスティアはその碧眼を楽しそうに輝かせて。
妻の表情に灰色の瞳にとろりとした甘さが滲んだが、少しだけ言いにくそうにゴットフリートが口を開いた。
「言っておいてなんだが、あまりやり過ぎるとまたコージーがうるさいぞ。ザナも子を急かされているとプレッシャーに感じるだろう」
「ああ……それもそうね」
「コージーもしばらく二人きりで過ごしたいだろうしな」
「じゃあ、また二人に幼児化してもらった時用のお揃いを準備するわ!」
「そうしなさい」
楽しみに水を差してしまったが、息子たちの事を考えている時のセレスティアの表情は普段よりも輝いて見える。
ゴットフリートはその姿を優しい眼差しで見守った。
コージャイサンが帰宅後のイルシーとセレスティアの会話↓
「夫人、今日あっちで撮った写真……」
「待っていたわ! さぁ、見せなさい!」
「早ぇって」
「まぁ! 抱っこしてるじゃない! 膝にも乗せて……ふふ、とても良い写真ね。それにこの表情——……やっぱり親子だわ。次はどんな着ぐるみがいいかしら。お前の意見も聞かせなさい」
「いや、俺に聞かねーでくんね?」