非日常インビテーション 5.5話
ゴットフリートと従者たち、そしてトムの会話。
コージャイサンを執事に預けた後、ゴットフリートはぐるりと肩を回す。
「最近書類仕事ばかりで肩が凝っていたんだが……すっかり解消されたな」
「マジかよぉ……」
あの暴雪の真っ只中に居たのにその程度で済ますゴットフリートに従者たちは二の句を継げない。やはりコージャイサンの親である。
「二人の子がどんな性質を持って生まれてくるかは分からない。だが、今目の前で起こったことはこの先起こりうる事だ」
これがわざわざ彼らに来るように言った理由。
「俺やコージーがいれば当然止める。だが、問題はいない時だ。魔力暴走は下手をすれば周りだけでなく本人の命も危ぶまれる。分かるな?」
——もしも、子が暴走して本人が命を落とせば……
——もしも、巻き込まれた彼女が命を落とせば……
誰が理性を無くし、慟哭を上げるのか。
そうなれば王都が、いや下手をすればもっと広い範囲が灰燼と化すだろう。
そうなれば彼は防衛局長として動かねばならない。
「個々の能力で劣るのならば知恵を使え。知恵でも劣るのならば数を使え。数でも劣るのならば——腹を括れ」
だからその前にお前たちが暴走を止めろ、と彼は言う。
——我が子を討たなくてすむように
——我が子を失わないように
神秘的な灰色の瞳は一等強い煌めきで我が子の剣である彼らに盾となれと言う。
どうやら遠くない未来、呪いよりも強敵が彼らの側に出現するようだ。
まだ見ぬ二人の子が暴走するとは限らない。
どんな才能があるのかも分からない。
もしかしたら何も持たないかもしれない。
だが、どのような子でも彼らの主君の望む平穏に欠かせない者である事は今の時点でも察することが出来る。
「それが我らの主の為となるならば」
体も、命も、いくらでも張ってやろうじゃないか。
迷いない従者たちの返事にゴットフリートは鷹揚に頷くと面白がるように続けた。
「うちの諜報部の連中も中々の腕前でな。昔はコージーのお守りをよくさせたものだ。さて、お前たちとどちらが上かな」
試すような、挑発するような不遜な表情に従者たちの対抗心にも火が……
「旦那様! こいつぁ一体どういう事ですかいっ⁉︎」
「あー……トム。早いな」
着く前に。どうやら剪定鋏を持った悪魔の御成である。
「じゃ、俺らはこれで!」
「行かせるわけないだろう」
「わっ! 足が……!」
一目散に立ち去ろうとした従者たちの足をゴットフリートはパチンと指を鳴らして地面に縫い留めた。
なんと言うことでしょう。ファウストの怪力を持ってしても動けない。
「いや、俺ら何もしてねーし!」
「今のうちに慣れておけ」
「理不尽かよ!」
イルシーが吠えるも一歩間に合わず巻き込まれが決定。そうこうしている内にトムがゴットフリートに詰め寄った。
「急に邸内で待機しろと言われて従ってみれば……これは何事ですかい!」
「ここは暴れてもいい区画だろう?」
「よく見なせぇ! どこが区画内に収まってんでさぁ!」
「確かにちょっとはみ出してるが」
「ちょっと⁉︎ これのどこがちょっとだって言うんでぇ!」
飄々としたゴットフリートの物言いに今日もトムの血圧は上がっていく。
「悪かった。あまり狭い範囲では本人が危ないから広く取った。だがな、トム。これもいずれ生まれる孫のためだ」
「孫……⁉︎」
「そうだ」
「てやんでい! 孫の前に結婚式でさぁ! 若奥様を迎えるために整えてきたってぇのにこの有様はなんでぇ!」
来る日の為に整えてきたものが一部台無しにされたのだ。怒り心頭とはこの事か。
「すまん。では、ザナが嫁ぐまでに仕上げてくれ」
「旦那様ぁぁぁ!!!」
どうやらゴットフリートのキラキラエフェクト付きスマイルは火に油を注いだようだ。
それを見てイルシーが鼻を鳴らしながら言った。
「あーあ、トム爺さん血管切れんじゃね?」
「あ、弟子が『絶対無理ですよぉ〜旦那様の鬼畜〜』って泣き出しちゃった」
「いや、よく見ろ。あれは泣きながらぐちぐち責めるてるんだ」
リアンとジオーネが弟子の観察をしながら言えばヴィーシャがうんざりしたように色っぽい溜め息を吐く。
「雷親父もかなんけどアレもかなんなぁ」
「こうなる前に御子の暴走を止める……止められるか?」
ファウストの言葉に全員が想像した。
おかしい。誰がどう頑張っても庭が荒れる様子しか思い浮かばない。
「……イザンバ様、なんか変な案でも持ってねーかなぁ」
トムの血管が切れず、弟子の愚痴も止まる、そんな解決策を。イルシーの呟きは全員が抱いた一縷の望みだろう。
さて、兎にも角にも彼らと付き合いが長くなる庭師の未来は……すでに前途多難であると言っておこう。
活動報告より少し手直ししてます。