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コメディ系短編小説

どうしようもない生徒会長選スピーチ

作者: 有嶋俊成

【登場人物】

ソウイチ…主人公。生徒会長選スピーチに心の中でツッコむ。

都築和也…生徒会長選立候補者の一人。

山田明人…同上。

草薙直樹…同上。

岩倉春菜…同上。

鈴木陽一…同上。

  ーーとある高校の生徒会長選立候補者スピーチの話…なのだが…



(今年もやってきた。この季節が。)

 体育館で整列するたくさんの生徒たちの中にソウイチはいた。この日は年に一度行われる生徒会長選挙前の立候補者スピーチの日だ。

(ま、まともなのは一人か二人ってとこだな。)

 この高校の生徒会長選挙には例年二人から三人の立候補者が出るが、今年はなんと五人も立候補者が出ている。しかし、ソウイチは知っている。立候補者の中にはただ目立ちたいだけのヤツも含まれていることを。二人が立候補した時も大体片方はおふざけで立候補しているのだ。そのことは過去の先輩からも聞かされていた。今年は五人も立候補しているのだ。半分くらいはおふざけ枠だろう。

 まともそうなヤツに票を入れればいい。ソウイチは誰にも何も期待せず、ただ漠然と立候補者のスピーチを聞くことにしている。


「では今年も立候補したタイミングが早い立候補者から順にスピーチをしていただきます。ではまず一人目の立候補者・都築和也(つづきかずや)くんお願いします。」

(うわーアイツだ…)

 ソウイチはもう嫌な予感を感じ取った。

「どうもみなさんこんにちは。みなさんのすべてを受け止めます。都築さんです。」

 都築は両手を自分に当て言った。傾聴しているほとんどの生徒たちからは苦笑が上がる。

(ほらこうなる。自分がつまらないことに気づけない哀れなヤツが…)

 しかしどこからか吹き出すのをこらえようとする声が聞こえてくる。ソウイチはそっとその声がする方へ目を向ける。

(フンっ、やっぱりそうだ…)

 吹き出すのをこらえていたのは都築のバカ仲間のヤツらだ。

(まったく…同族とはこのことか。)

「僕はこの学校をおもしろくしたいと思っています。」ステージでは都築がスピーチを続けている。「だから生徒会長はおもしろい人でなくてはなりません。そう! そのおもしろい人こそこの僕なのです!」

 都築は親指で自分を指差す。

(うわ~痛てぇ~。おもしろくないヤツが自分をおもしろいと言ってる~。見てるこっちもハズい…)

「そもそもリーダーはおもしろいことを言える人でなくてはダメなのです。だから僕は自分のおもしろさだけで勝負します。それだけです。では、またね~。」

 都築は手をふりながら席へと戻っていった。

(あ~ようやく地獄が終わった。毎年こういうヤツがいるんだよ。推薦者もどうせアイツのバカ仲間の一人だろ。あ~やだやだ。)

 生徒たちによる一応の拍手が響き渡る。ソウイチも無表情で拍手する。オーディエンス側の生徒にいる都築のバカ仲間は大げさな拍手をしている。

「都築和也くんありがとうございました。」

 拍手が鳴り終えるのを見計らって司会が再び進行を始めた。


「それでは二人目の立候補者・山田明人(やまだあきと)くんお願いします。」

(あ~山田明人、あいつかぁ…。あいつは真面目で頑張り屋ではあるけど、なんか毎回空回りするんだよな~。)

「みなさんこんにちは。初めましての人もいるかもしれません。三年C組の山田明人と申します。」

(ま、都築と比べればまともだろうな。)

 ソウイチの中では都築はもう候補から消えている。

「みなさん、僕は常に生徒ファーストの考えで生徒会長としての職務を履行していこうと思います。」

 生徒たちは無表情のまま山田の話を聞いている。

(それだけじゃ生徒は何も感化されないよ~)

「まず、この学校のすべての教室にエアコンを設置します。」

 生徒たちが一斉に山田に注目する。

「現在教室には扇風機が設置されていますがそれでは完全に暑さを排除できるわけではありません。冬場なんて寒さを排除する方法すらありません。よってみなさんの健康のためにも全教室へのエアコンの設置は急務であります。」

(あ~まあまあありそうな公約だな~。)

 ソウイチはそこそこ感心する。

「そしてもう一つ、売店のコンビニ化です。」

(なに?)

 ソウイチは耳を疑う。今までにない公約が飛び出たのだ。他の生徒たちもさらに山田の話に聞き入り始める。

「現在購買で販売されているのはパン類だけです。しかしそれだけでは明らかに足りない。おにぎり、カップラーメン、やきそば、揚げ物。もっと商品の種類を増やすべきです。」

「「「おぉ~」」」

 生徒たちが声を上げる。

(なるほど~食べ盛りの高校生を惹きつけるにはいいアイデアだ。ただ、今の購買のおばちゃんたちが聞いたらどう思うか。)

 ソウイチはこの公約のネガティブ面を掻いた。

「料金は普通のコンビニの半分ほどの値段で提供します。」

 そういうと生徒はさらに盛り上がる。一方ソウイチは購買が火の車になることをすぐに想像する。

「さらにもう一つ、トレーニング施設の一角にゲームセンターを創設します。」

 生徒たちがざわつき始める。

「今現在、ゲームのスポーツ・eスポーツが世界中で盛り上がってきています。この学校も時代遅れと言われないよう、そして時代の最先端に行けるよう、ゲームセンターを創設することで新たなeスポーツの代表者の育成を目指したいと思います。」

(いやいやいややりすぎだって…)ソウイチは気をもんだ。(アイツの頭には“予算”という言葉が存在していないのか…)

「そしてさらにもう一つ!」

(そしてさらにもう一つ⁉)

「週休三日にします!」

(マジかー!)

 ソウイチ以外の生徒たちは目を輝かせている。もう山田に票を入れる気満々だろう。

「休日にするのは日曜、土曜に加え、水曜です!」

(あーなるほど…)

「今、企業でも週休三日を導入しているところがあります。なら、学校でも導入すべきです。二日登校して休み、二日登校して休み。五日連続で登校するよりも遥かにみなさんの幸福度が上がるはずです。」

(この学校、公立なんだよな~)

 ソウイチが思うのとは裏腹に他の生徒たちは歓喜して躍り上がっている。

「みなさん! みなさんの幸福のためにどうか私に清き賢き一票をお願いします!」

(“賢き”とはならないだろうな。)

「山田明人くんありがとうございました。」

 司会がそう言うと山田は生徒たちの拍手喝采を受けながら席へと戻った。


「それでは三人目の立候補者・草薙直樹(くさなぎなおき)くんお願いします。」

(お? 知らないヤツだな。)

 ソウイチは今年初めての見知らぬ立候補者に身構える。

 ソウイチにとって見知らぬ立候補者・草薙はクセ毛で眼鏡をかけており、いかにも冴えない男という感じだ。それに少しおどおどしている。本当に生徒会長になりたいのか?

「………」

 草薙はマイクの前に立つも生徒たちを見まわしており一向に話さない。

(なにしてるんだよアイツ…は?)

 ソウイチの目線の先にいる草薙はゆっくりをお辞儀をし始めた。

(は?)

 そして草薙は何も言わずに席へと戻った。

(はーーー⁉ なんだアイツ! ナメてんのか生徒会長選挙を! というかこの世のすべての選挙を!)

 今まで見たことがない衝撃の光景に唖然とするソウイチ。

「草薙直樹くんありがとうございました。」

(何に⁉ アイツなんにもしてないぞ! よく何事も無かったような感じ出せるな! そして他のヤツらも! 一切表情変えてねぇぞ! 誰もアイツに興味無いのかよ⁉ というかアイツはなんで立候補したんだよ!)

 ソウイチは異様な空気に押されつつも、続く次の立候補者のスピーチに耳を傾ける。


「それでは四人目の立候補者・岩倉春菜(いわくらはるな)さんお願いします。」

(次は女子か。)

「えー…みなさん…こんにちは…岩倉と申します。」

(テンション低っ! まさか草薙の二の舞じゃないだろうな⁉)

 ソウイチは先程の草薙と同様、岩倉が何も言わないもしくは一言二言だけぼそぼそとしゃべってそのまま終わるのではないかと睨む。

「えー…私が立候補したのは…この学校の、問題点の、改善に…全力を尽くしたいから、で…」

(この感じのままいくんだ…空気地獄だぞ…)

「い、今…こ…この学校は…とても…う、う、うう…」

(え? え? え?)

「もう…ほん、本当にもう…私はこの、この、この学校を変えたいぃぃぃぃ…う~~~あぁ~~~!」

(野〇村か!)

 ソウイチは、先程までとは一線を画す状況に静かに困惑していた。

「もう! 本当に…う…う…まずは、全てのぎょうじづ(教室)の床を畳にじで~ぇぇぇぇ…」

(公約特殊だな~)

「あぐっ…っ、ごうもん(校門)を鳥居にぃじで~ぇぅぇぅぇぅ…」

(学校を城にするつもりか…)

 ここで岩倉の言葉が止まる。

「い、岩倉春菜さんありがとうございました。」

 見かねたのか司会がここで岩倉のスピーチを切った。

(うわぁ…なんだったんだよアレ…)

 生徒会長選スピーチはいよいよ次が最後となる。


「それでは最後の立候補者・鈴木陽一(すずきよういち)くんお願いします。」

(次で最後か~頼むからまともなヤツ出てきてくれ~)

 おふざけで立候補、無謀すぎる公約、無言で終了、号泣…今年の生徒会長選挙立候補者はかなり異常だ。こんなこと全国的に見ても初めてではないだろうか。ソウイチは今のところ票を入れたいと思う立候補者はいない。この際、おふざけ候補の都築にでも入れてしまおうか。

「どうも、今回生徒会長に立候補させていただきました。鈴木陽一こと“キースズ”です。」

(嫌な予感。)

「私はこれまでこの学校のいろんな裏を見てきました。」

(頼むから的中するな…俺の嫌な予感。)

「というわけでこれからすべて暴露しようと思います!」

(暴露系キタァーーーーー!)

 生徒たちがざわつき始める。ソウイチの心はそれ以上にざわついている。

「まず3年B組の小東、こいつ8股かけてます。」

「「「はぁーーー⁉」」」

 女子生徒から悲鳴が上がる。そして罵詈雑言が上がり始める。

「2年D組の山添、お前給食費盗んだな。」

「嘘だろ!」「お前だったのか?」「なんか言えよ!」

 他の生徒から批判された山添は突如、人を押しのけ体育館の出口に向かって走り出した。

「おい待て!」

 教師が山添を追いかける。

「瀬本先生、あなた1年A組の安野くんのお母さんと不倫してますね!」

「おい鈴木! 一回降りろ!」

 瀬本先生がステージに走る。

「証拠はあるんだよー!」

 鈴木が写真をばらまく。ステージの近くにいた生徒たちは一斉に拾い始める。

「おい! お前らはじっとしてろ!」

 しかし、生徒たちの瀬本先生への目は冷たい。不倫の証拠は本当だったのだ。

「3年D組の酒井はキセル、2年A組の岡野は未成年なのに競馬!」

「ふざけるな!」「なに言ってんだよ!」「やめろ!」

 裏を暴露された生徒たちから悪口雑言の嵐が巻き起こる。そして中にはその場から逃げようとするヤツもいる。教師がそれを追いかけて走り出す。なんだこの見苦しいカーニバルは…

「おい!離せ! どんどん暴露するぞー!」

 鈴木は教師たちに羽交い絞めにされても頑なにマイクを手放さない。

「フッ…フフフ…ンヒヒ、ンヒヒヒヒハハハハハ…」

 ソウイチは地獄と化した体育館の中心でただ不敵な笑い声を上げていた。



  ーー終わり

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