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植物竜とのんびり森暮らし  作者: しばとら
3/9

邂逅

不定期更新です。


「きゅー、きゅーるるる」




 ん……なんだ……?




「ききゅっ、くぅー」




 鳥の声……?なんか聞いたことない音、が……。




「るるるーぅ、きゅーいっ」


「うぅ……!」



 く、くすぐったい。フサフサした何かに触られてる!

 薄く目を開く。視界に映るのは投げ出された俺の腕と、見覚えのある白蛇がぐったり倒れていて……いや、地面緑っ!?草!?なんで!?そして混乱する俺の頬を相変わらずタスタス叩いてくる何か!


「くるるるるっ!」

「わっ、何だこの生き物……?」


 首を動かしてそいつの方を見てみれば、フサフサの長毛?な仔鹿?に長くて太い尻尾が付いてるみたいな……そんな不思議な生き物がそこにはいた。しかも、宙に浮いている!

 驚いてがばっと起き上がると、その生き物は俺の動きに驚いて少し後退し(浮いているのですいーっとだ)、俺が何もしてこないのを見てまたゆっくり近寄ってきた。いかにも興味津々といった様子だ。


 目覚めていきなり謎の場所、しかも不思議生物とのエンカウントで混乱がマックスになった俺はしばしその不思議生物と見つめ合う。うっるうるのでっかい瞳がキレイな緑色だあ……鹿って黒目じゃなかったっけ……。


「君は何て生き物なんだ?……ここどこか知ってる?」

「きゅるぅ?くるるーぅ?」


 つい話しかけながら首を傾げると、俺の真似するみたいに鳴き返して首傾げてくれましたよ!カワイイな!

 ……じゃなくてだ。周囲を見渡してわかる限り、めちゃくちゃ森。しかもかなーりデカい森と見た、何せ樹齢何千年?って感じの太くて背丈の高い木々がですね……。囲まれる圧迫感すごい。


 こんなデカい木が生えてる森、今まで行ったことも見たこともないぞ。屋久島とかなら自然遺産にもなった大杉があるんだろうけど、シダっぽい植物は見当たらないから南国じゃないんだろうし。それにそもそも俺は森に行った記憶がない。普通に風呂入って飯作って、寝ようとしてたらここだ……あれ?


「っつう……!」


 ズキッと痛みが走るみたいに、頭が、痛い……!いや、なんとなく思い出してきた。パジャマ代わりのTシャツと短パンに着替えようとしてたら、足元が急に光ったんだ。それで……驚いてる間に、なんかフワッとして……気づいたらあの気持ち悪い、組体操のすごい版みたいなやつの上にいた……!

 そうだ、あれだ。沢山の人が繋がってて布みたいに広がって、俺を載せてゆっくり降りてくみたいな。みんな何かブツブツ唱えてて、貼り付けたみたいな笑顔で。それに触ってる、というか俺が触られてるのがなんかもうすっげえ気持ち悪くて、嫌だ!って思ったら一気にあれの上から弾き飛ばされた。それで、猛スピードでどっかに吹っ飛んでくところで俺の後ろに光の壁みたいなのができて……。


「俺、死ぬところだったんだ。この白蛇のおかげだ……!」


 俺は不思議生物から視線を外して、俺の隣にぐったり倒れてる白い蛇を見る。普通は野生動物と森でエンカウントして簡単に目離したら不味いんだけど、この仔鹿は俺のこと警戒してないみたいだしまずは大丈夫だろう。

 俺は思い出した。落ちていく時、突然空から現れた白くて長いものが俺の手首にぎゅっと巻きついて、先端が二つに割れたみたいに見えたら後ろに光の壁が出てきたこと。つまり、この白蛇が落ちる俺を助けてくれたんじゃないかってことだ。二つに割れて見えたのも蛇が口を開いた姿だったと考えたらわかる。この白蛇、いや白蛇さんは命の恩人もとい恩蛇だったんだ。

 というか、見覚えがあると思ったら昨日カラスにいじめられてた蛇じゃないか?カラスに突かれてた細かい傷が痛そうで覚えてる。白蛇さんにも同じ位置に小さい傷があった。爬虫類だから目は開きっぱなしだけど目の前で手を振ってみても赤い目は反応せず、白蛇さんには動く気配が無い。

 死んでしまったのかもしれない……日本に多い毒蛇の形じゃないので思い切って、そっと白蛇さんの体を掬い上げてみる。こうして白蛇さんに触るのは2回目になるのか。細身の体は俺が親指と人差し指で作る丸よりも二回り小さいくらいの太さで、ひんやりすべすべしていた。白い鱗と赤い目はアルビノかと思ったけど、アルビノの蛇って黄味がかった色になる気がするが白蛇さんは真珠みたいに真っ白だ。綺麗な蛇だからこそ細かい傷や動かない姿が痛々しかった。


 命の恩蛇が死んでしまったかもしれないことに俺が沈んでいると、あの不思議な仔鹿も白蛇さんに近寄ってくる。


「ん……?どうした?」

「きゅうっ、きゅっ」

「この白い蛇、白蛇さんは俺のことを助けてくれたんだ、たぶん。でも動かなくなっちゃって……もう死んじゃったのかもな……」

「くぅーるるる」


 俺の言葉に、仔鹿はどことなく切ないような声で鳴いた。まるで言葉が通じてるみたいなその様子に思わず仔鹿の目を見ると、不意に焦るというかハラハラするというか……心配?そう、心配だ。そんな気持ちを感じる。


 突然の感情で困惑する俺をよそに仔鹿はフワフワの手を伸ばし、力なく垂れた白蛇さんの尾の先にちょんと触れた。

 すると、仔鹿の手から淡い翡翠色の光がフワッと巻き起こる。幻想的な光に俺が目を奪われていると、ぴくりとも動かなかった白蛇さんの体がほんの僅かに動いた。


「おお……!白蛇さん、起きたのか!いや、君が助けてくれたのか……!?」


 俺の視線に仔鹿はきゅるう!と鳴いてモフモフの胸を張った。


 意識を取り戻した白蛇さんの口の先からはしゅるっと赤い舌が出て、また戻される。まだ動くのは辛そうで、なんとかとぐろを巻いていくのを見守った俺は、悩んだ末にパーカーのフードの中に白蛇さんを入れた。

 目が覚めた白蛇さんに首絞められて終わりだって?俺だって考えたけどなんだか白蛇さんも仔鹿も理性的に感じて、大丈夫な気がするんだよ。たぶん田舎のばあちゃんに知られたらめっちゃ怒られると思うけど……ばあちゃんでっけえ鉈振り回してマムシ退治しまくってたし……。



 うまく白蛇さんをパーカーのフードに移せてかすかな重みを感じているときゅるるとカワイイ声を出しながら仔鹿が寄ってきて、俺の膝にモフモフの両手を置いた。えっ何それめっちゃカワイイが……!?じゃなくて、何か伝えたそうな感じだ。


「さっきは白蛇さんを助けてくれてありがとうな。それでどうしたんだ、何かあったか?」

「きゅあ!」


 仔鹿の目を見てみると、また不思議と今の俺には無い感情が湧き上がってくる。何か欲しい……だけじゃない。嫉妬、みたいな?いや嫉妬よりもっとポジティブだ。でも腹の底がソワソワする感じの感情。羨ましい……?それでいて何かが欲しい。


「白蛇さんだけじゃなくて自分もってことだったり?ほらおいで、抱っこしてやるよ。……なんつって、うわっ」

「くーるるるるるっ!きゅるるる〜」


 草の上で胡座をかいて両腕を広げたところで流石に俺に都合が良すぎる考えかと恥ずかしくなってたのに、仔鹿は懐っこくも俺の胸に飛び込んできた。膝の上に感じる温もりをおっかなびっくり触ると、うるるると気持ちよさそうに喉を鳴らしている。


 か、カワイイ……!!!しかもフッワフワだ!野生動物に懐かれるってこんなに嬉しいんだな……!!夏休みにばあちゃんちに遊びに行って山ん中で野生動物と生死を懸けたガチ戦闘するはめになってからこういうの無理だと思ってた……。あ、あったかい……。


 いかん。危うく謎の仔鹿らしき野生動物の可愛さにやられてなにも考えられなくなるところだった。あ、こら、俺のジャージの腰紐でじゃれるな!カワイすぎちゃうだろ!

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