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第一王子に婚約破棄を告げられました。これを機会に馬鹿王子と完全に縁を切ります

作者: プレアデス

これは『婚約破棄』のお約束をなぞりつつ、それらを否定していく話です。またリアル寄りの貴族の話になりますので、恋愛を否定的に書いている部分もあります。『婚約破棄』が好きな方、恋愛を重視するべきだという方はご注意ください。

「ベジャール伯爵令嬢イザベラ・ソム・ベジャール。第一王子ボリス・ル・マルシアスの名において、私は貴女との婚約の破棄を宣言する!」


 セリーヌ・ブルアンという子爵令嬢の肩を抱きながら、ボリス王子は会場に響き渡るほどの高らかな声でそう告げる。

 それを聞いて思ったのは……




 このような場所でなにトチ狂った真似してるのかしら、このボンクラ王子。






 これは容姿端麗な王子から婚約破棄を告げられて悲嘆に暮れる令嬢の話ではない。

 父王や家臣に相談もせず、その上、公衆の面前で婚約破棄を告げる王子の愚挙に呆れる女の話だ。






 今日はこの国の第一王子にして王太子であるボリス王子の誕生日であり、王宮の広間には国中の貴族と子弟子女が王子の生誕を祝うために駆けつけていた。その宴の場で、王子と私の婚約が正式に発表される……はずだった。

 そのような場で何の前触れもなく、王子は婚約の破棄を告げたのだ。

 和やかに談笑していた貴族達は一斉に沈黙し、ワインを注いでまわっていた使用人達は一様に動きを止め、宴の場に冷たい空気が流れる。主賓である王子が発した一言によって。


「ボリス殿下、差し出がましいかと思いますが、婚約破棄の理由を聞かせていただけますか?」


 私が問いをかけると王子は顔を歪めながら……


「理由だと? それは君が一番よく知っていることじゃないのかイザベラ嬢。まあ、いきなり婚約破棄を告げられて平静を失ってしまうのは無理もない。君がどうしても聞きたいというのなら聞かせてあげよう。このような、大勢の諸兄や諸姉の前で君が犯した悪行を口にするのは私も憚りがあるのだが」


 口調とは裏腹に「よくぞ聞いてくれた」と言わんばかりの笑みを浮かべ、王子は続ける。


「イザベラ嬢、君はセリーヌに対し、宴やお茶会で居合わせるたびに、彼女に対してひどい仕打ちをしていたそうじゃないか。その話を聞いた時は私も驚いたよ」

「……ひどい仕打ち?」


 思いもよらない一言に思わず聞き返す。そんな私に王子は声を荒げて言った。


「しらばくれるな! セリーヌからすべて聞いてるんだぞ! 君は宴の場で通りがかった彼女にわざと肩をぶつけ、君が何度か口をつけたワインを浴びせかけ、さらにこのパーティーのために母君から譲り受けたという大切なブローチを壊したそうではないか! そうだねセリーヌ?」


 王子はセリーヌの肩を抱き、私に対するものとは違う優しげな声で彼女に尋ねる。するとセリーヌは――


「……は、はい。私はただ、同じ時期で社交界に出るようになったイザベラ様と仲良くしたいと思ってご挨拶をしただけなのに……ボリス様、私はイザベラ様に対して粗相をしてしまったのでしょうか?」

「まさか、君は何も悪くないよ。悪いのは君の好意を踏みにじったイザベラ嬢の方だ」


 涙ぐんで胸にすがりつくセリーヌを王子は抱きとめ、慰めの言葉をかける。そういうやり取りはパーティーが終わった後にして。見てるこっちが恥ずかしい。

 私は鼻白みそうになりながら言葉を返した。


「セリーヌ様との間にそのような事があったのは確かです。ですが肩をぶつけられてきたのは彼女の方で、ワインもその拍子に彼女にかかってしまったんです。セリーヌ様のブローチに関しては一切存じ上げません。もう一度よく思い出してください、セリーヌ様」


 一通りの弁明を述べてから、セリーヌに対して言葉をかけると彼女は舌打ちをこらえるように歯噛みする。

 王子はそれに気付かないまま私に言葉をまくし立てる。


「君のような娘の言うことなど信じられるか! それに君はセリーヌの些細な言動に反応しては、陰湿な小言を繰り返していたそうじゃないか。何人もの人間がそれを耳にしている。言い逃れはできんぞ!」

「それは彼女のためを思っての事です。社交界において、セリーヌ様の言動や振る舞いは目に余るところが多々あります。今だって殿下の事をボリス“様”などと呼んだりして。殿下がお許しになっても、このような場では“ボリス王子”もしくは“殿下”とお呼びするべきではないかと。公の場でセリーヌ様を呼び捨てている殿下にも言えることですが」


 その指摘に王子はたじろぐ。しかし王子は開き直ったように……


「だ、黙れ! お互いに許した以上、私と彼女がどのように呼び合おうと自由だ! 君こそ身の程をわきまえろ。辺境に追いやられた伯爵の娘の分際で! 君との婚約も、辺境に干された伯爵とその家族を不憫に思われた父上が用意してくださったものだ。その恩を忘れ王太子の婚約者であることを鼻にかけて他家の令嬢を愚弄するとはな。恥を知るがいい!」


 国境に領土を持つ私の家を取り上げて、王子はそんなことを口走る。

 それを聞いて……


「おいおい、まさか辺境伯の重みをわかっていないのか?」

「ああ。ベジャール伯といえば、隣国の侵攻を防いだ『護国の英雄』として名高い方だぞ。陛下も一目置いているという」

「勉学が苦手と聞いていたが、ここまで……だったとは」

「おい、聞こえるぞ!」


 まわりにいる貴族達はひそひそと囁く。その囁きが私に対するものだと思っているのか、王子は咎めず私に対して勝ち誇ったような笑みを向けるだけだ。あまりの無知ぶりにむしろこちらが哀れみを感じてしまう。




 王子の物言いと貴族達の反応を見ればおわかりと思うが、我が国の第一王子ボリス殿下は――愚鈍だ。

 ボリス王子は、国王陛下とお妃様が婚姻してから三年もの月日を経てようやく授かった待望のお世継ぎだが、幼少期に甘やかしてしまった事が原因なのか、勉学をおろそかにしがちで、気が付けばこのように粗野で無教養になってしまった。

 国王夫妻はいい方で弟君も勉強家なのに、次期国王たる第一王子はこれなのだ。


 元々ボリス王子の婚約者は私ではなく、隣国――父が戦っていた隣国とは別の国――の姫君だったが、我が国を訪れる使者を通じて王子の自堕落ぶりがかの国に伝わり、“婚約を破棄されてしまった”。

 そして王子の新しい相手として白羽の矢が立ったのが、ベジャール辺境伯の一人娘である私だ。

 貴族達が囁いていた通り、辺境伯の地位と立場は非情に重い。国境の領地を治め、隣国の侵攻から直接国を守っているのだから。

 特に私の父は侵略を仕掛けてくる隣国との戦いに幾度も勝利を収め、『護国の英雄』と呼ばれるほどの名声を得ている。陛下やお妃様もベジャール領に足を向けて寝られない――実際夫妻のベッドがベジャール領のある西側に向いていると知った途端、陛下はすぐにベッドの向きを変えさせたと言われている――。

 陛下は、ベジャール家の娘である私を王子の妃とすることで、王家とベジャール家の縁を深めようと考えたのだろう。隣国と縁を結ぶことができなかった王子に名誉挽回の機会を与える意味もあるに違いない。

 その心遣いを台無しにしたのだ、そこのボンクラ、もといボリス王子は。




 心の中で私は陛下を哀れむ。そんな私の前で王子は真横に腕を振りながら言った。


「君のような娘など、私の伴侶にふさわしくない! セリーヌに対する謝罪も結構だ! 婚約破棄を受け入れ、ただちにここから立ち去りたまえ!」




 さて、どうしましょうか。

 王子との婚約など私も望んでいない。陛下に頭を下げられお父様が渋々認めた話だ。それを破棄してくれるというのなら願ってもないこと。

 ならばここは――


「わかりました、婚約破棄を受け入れます。後日、陛下と私の父を交えて正式な手続きを取りましょう」


 と言ってやりたいところだが。


 もし陛下がこの話を知ったら、すぐに王子を連れてベジャール領を訪れ、王子の頭をひっつかみながら私と父に謝罪して婚約関係の継続を願い出てくるだろう。国王にそこまでされたら父も許さざるを得ない。そうなると私は結局そこの馬鹿王子と婚約したままになってしまう。

 せっかく王子の方から婚約破棄を申し出てくれたんだ。これを機会に馬鹿王子と完全に縁切りしておきたい。

 陛下でも婚約が破談したと認めざるを得ない状況に持って行くには……。




「殿下、一つお伺いしたいのですが、殿下は今日で十八歳になられるようですが、王太子たるお方が二十を目前にして婚約者不在となればいろいろ問題が起こると思います。私との婚約を破棄した後、殿下はどなたと婚約の契りを結ばれるおつもりですか?」


 私の問いに王子は目を吊り上げ、セリーヌも思わずといったように王子を見上げる。周囲の貴族達も興味津々に耳を傾けているようだ。

 王子は笑みを作って。


「君にしてはもっともな意見だ。腐っても伯爵令嬢というわけか。その忠告はありがたく受け取っておこう。だが心配はいらない。新しい婚約者を決めもせずに婚約破棄を告げるほど私は愚かではないからな」


 貴族諸侯が会するパーティーでこんな騒ぎを起こしてる時点で十分愚かですけどね。わかってはいますが一応聞いておきましょうか。


「それで、新しい婚約者様はどちらにいらっしゃるのでしょうか? ベジャール家の令嬢として王妃陛下となられる方にご挨拶をさせていただきたいのですが……」


 私が問いかけると、王子はますます笑みを深いものにした。


「いいだろう。君が退出した後で皆に紹介するつもりだったが、特別の慈悲をもって君にも知らせてやろう」


 大仰な仕草を取りながら王子はそう言ってセリーヌの肩を抱き――


「王都に隣接した領地を治め、王家と深い親交を持つブルアン子爵のご令嬢セリーヌ・ブルアン。イザベラ嬢にいびられているセリーヌの相談に乗り、言葉を交わすことで私は知った、『真実の愛』というものを! 彼女こそ私の伴侶に相応しい。セリーヌ、私と添い遂げることができるのは君しかいない!」

「ボリス様……」


 そう高らかに告げる王子にセリーヌは涙を流し、二人は熱い抱擁を交わす。

 そんな光景に皆は唖然とする。予想していたとはいえ、私も呆れを隠せずにいた。

 “真実の愛”って、恋愛小説の読みすぎじゃないの……。


 王子が言った通り、ブルアン家は王都に隣接する領地を治める家だが、ブルアン領のまわりは伯爵領やら公爵領に囲まれ存在感がほとんどない。それに親交があると言っても、有事の際に大した兵も出さず有益な助言も出してくれず、ただ媚だけを売ってくる子爵を、陛下は内心疎ましく思っているらしい。当然ブルアン家と他国との間に繋がりはほとんどない。

 そんな家の令嬢との結婚が、王家や国に何をもたらすというのだろうか?


 自由な恋愛ができる平民同士や恋愛小説の中なら、ボリス王子とセリーヌの抱擁は感動できるシーンかもしれない。しかし、王家や貴族は国や領地に住む大勢の民の命を預かっている。彼らがどこの貴族と結婚するかで戦争が回避され、何千何万の命が救われることもよくある。それを考えれば王子とセリーヌの婚約や結婚は歓迎されるべきものではない。

 そもそも王子との結婚ともなれば妻側が用意する持参金も相当なものになる。他国の王族や公爵並みの家ならともかく、弱小の子爵家が持参金を用意できるのだろうか?


 しかし王子がここまで言った以上、何のリアクションも取らないわけにはいかない。


「そうでしたか、お二人ともご婚約おめでとうございます。先ほどまでの非礼は謹んでお詫びいたしますセリーヌ様。一臣下として王子夫妻の幸福を願い、お二人への忠誠をここに誓わせていただきます」


 そう言って私はドレスの裾を摘まみ、王子とセリーヌに向かって一礼した。

 その直後、周りにいた貴族たちは困惑しながらも手を打ち鳴らし、二人に対して盛大な拍手を送った。

 王子は照れながら貴族達に何事かを告げ、セリーヌも彼らに頭を下げた。

 これから二人に何が待ち受けているかも知らず。






 元婚約者が婚約破棄を受け入れ、その上家を代表して王子と新しい婚約者を祝福し忠誠を誓った。

 主君と臣下の間でかわされた忠誠の言葉は、貴族社会において何よりも重要な事だ。それを大勢の貴族とその子弟達が見ている前で行ったとなれば、陛下とてなかったことにはできない

 つまり国王といえども、私と王子を婚約関係に戻すことはできなくなったということだ。その責任は“誰か”が取らなくてはならないだろうが。


 会場を後にし、品を損ねない程度に笑みを浮かべながら城の廊下を歩く。そこへ――


「お待ちくださいイザベラ嬢!」


 後ろから声をかけられ、私はそちらを振り向く。

 そこには黒髪の美青年が立っていた。

 私はドレスの端を摘まみ上げ、一礼しながら挨拶を述べる。


「ロバート・レム・ガルシア様。ご無沙汰しております」


 それに対してロバートも右手を自身の左胸に当てて礼を返す。


「ええ、イザベラ嬢こそご壮健そうで何よりです。お父上の方は?」

「相変わらず、暇さえあれば鍛錬ばかりしております。ロバート様がご存知のままですよ」


 父の様子を伝えると、父の愛弟子であるロバートは苦笑と安堵が混じった笑みを返した。


「なるほど、確かに私が知っている通りのままですね。『護国の英雄』はまだ健在らしい。陛下が知ったらお喜びになられますよ。それだけにベジャール家との縁を結べなかったと聞いたら、あの方はさぞ落胆されるでしょう。イザベラ嬢との婚約を破棄したボリス殿下にはどんな沙汰が下されることやら。考えただけで恐ろしい」


 ロバートはくっくっと笑いながら肩を震わせ、私もふふふと笑う。

 しばらくして周囲に誰もいないことを確認してから、私は口を開く。


「なぜ殿下をお止めしなかったのですか? 宰相閣下のご子息であるあなたが出席していたのは、パーティーに箔をつけるためだけでなく、殿下が問題を起こさないように監視するためでしょうに」


 それにロバートは……


「申し訳ない。久しぶりに再会した学友とお父上にご挨拶をしていたところで、殿下があのような事をされまして。駆けつけた時にはあなたも反論を始めて、出るに出られなくなったのです。父上と陛下からお叱りを受ける覚悟をしなければいけませんね……ですが」

「……?」


 ロバートが付け足した言葉に私は小首をかしげる。ロバートは笑みを消し声を潜めて言った。


「もし今回の事などでボリス殿下が王位継承から外れるようなことになれば、次は第二王子殿下が王太子……次期国王となられるでしょう。まだ十を超えたばかりのお歳ですが、ボリス殿下よりはるかに才気があふれるあのお方に」


 なるほど、これを機に継承権の繰り上げを図ったわけか。確かにあのような愚行をしでかすボリス王子では先行きが不安すぎる。兄を反面教師にして、勉学に励んでいる弟王子の方が期待が持てるだろう。

 そんな私の考えを読んだのか――


「おっと、誤解しないでくださいよ。王家に誓った忠誠に揺るぎはありません。私がボリス殿下のおそばにいたら絶対にお止めしました。間に合わなかったのは本当です。それに……」

「陛下の了承も得ず、衆人環視の中でいきなり婚約破棄なんて、王族としての教育を受けた方がするとは思えませんものね」


 そう補足すると、「まったくそのとおり」と言いながらロバートは肩をすくめる。

 それからロバートは私に向き直りながら言った。


「ところでイザベラ嬢、あなたに聞きたいことがあるのですが」

「……何でしょう?」


 聞き返すとロバートは真剣な表情を浮かべながら言った。


「ベジャール伯が戦っていた『西の国』。あの国が伯爵との“手打ち”をしようとしているとの噂を耳にしたのですが。あの国の王子とあなたを結婚させることで」

「……」


 確かに『西の国』からそういう話は来ている。だが、あの国の王や重臣達の思惑はわからない。彼らが言っている通り父と和解して、我が家やこの国と友好的な関係を結びたいと思っているのかもしれないし、我が家を取り込んでこの国に攻め込む足掛かりを得ようとしているのかもしれない。

 しかしどちらにせよ……


「父がどう答えようと陛下がお許しになられないでしょう。相手が他国の貴族にしても同国の貴族にしても、結婚するためには必ず国王に報告して許可を頂かないといけません。それにあの国の王子にもよくない噂があります。王女ならまだしも、他国の伯爵令嬢に縁談を持ちかけてくるぐらいですから」

「確かに。そういう話も聞いたことがありますな」


 ロバートは納得したようにうなずいてみせる。

 通常、王族の結婚相手は同じ王族と決まっている。王族同士で結婚させた方が自国の諸侯や周辺国に対して面目が立つし、相手の国から援助も受けやすい。それにうまく行けば、同君連合という形で戦争を起こさずに他国を併合することができる。結婚に必要な持参金を払えないということもまずない。

 にもかかわらず、王子や王女を自国や他国の貴族と結婚させようとするのは、王族と結婚できない理由がある可能性が高いということだ。ボリス王子や『西の国』の王子のように。


「父もそれぐらいわかっているでしょう。『西の国』の提案に応じる可能性は極めて低いかと。なので、物騒なお考えはやめた方がいいと思います。でないと……」


 私が右手を上げた瞬間、物陰から五人の兵が飛び出してロバートを囲む。ロバートは左の袖に隠していた短剣(ナイフ)を取り出しながらも、降参するように両手を上げた。

 王宮とはいえ、伯爵令嬢が護衛も連れず無防備に歩いているわけがない。会場を出た時からずっと、ベジャール領から連れてきた兵が私を守っていた。まあ、彼がその気になればこの程度の兵なんて返り討ちにできるでしょうが。

 しかし、ロバートは彼らと戦うそぶりを見せず。


「まさか、これは護身用ですよ。ベジャール伯と事を構えるつもりはありません。あなた自身も敵に回したくない人だとわかりましたしね」

「あら、フォークより重いものを持ったことがない令嬢を捕まえてあんまりな言い方」


 私は笑いながら再び右手を上げる。するとロバートを囲んでいたベジャール兵達は後ろに下がり距離を取った。

 ロバートはそれを確認して、短剣を袖に戻しながら姿勢を正した


「ベジャール伯のお考えはわかりました。陛下にとっても我々にとってもベジャール家と縁を深めた方がいいともね。それでもう一つお聞きしたいことがあるのですが。イザベラ嬢、年少の王子といくらか年上の貴公子、どちらが好みですか?」

「――まあ!」


 最後の問いに私は思わず声を上げてしまった。






 数ヶ月後、第一王子ボリスは王位継承権を失い、“本当の意味での”辺境の地と伯爵位を与えられた。

 大々的に婚約を宣言した以上セリーヌもボリスと離縁するわけにはいかず、彼と婚約したままでいたが、とある男爵令嬢に気が移ったボリスによって婚約破棄を告げられ自領に戻って行った。

 だがそれによって、ボリスの内面を察した男爵令嬢も彼から離れ、第二王子が即位し世継ぎをもうけてからもボリスは独身のままだったという。


 私、イザベラが誰と結婚したのかを語るつもりはない。ご想像にお任せする。

 ただ、向こうから仕掛けてきたこととはいえ、第一王子の失脚を招き、望みに近い結婚を果たした私は後の世でいう『悪役令嬢』なのかもしれない。

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[一言] よい選択をなさいましたね。 一人っ子ならば自分の領地を富ませ維持することが最優先なのですから、そうなるのは当然…かもね? 長いこと財産を多く持つ人は今でも大抵が他人の生活を養う位置にある人が…
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