かくれんぼしようとロッカーを開けたら中野さんが居た件
――――… 昼休みに友人たち数人と校内でかくれんぼしようという話になった。
高3にもなって何言ってんだという話だが、無駄にテンションが高かった俺達はノリノリでオッケーしかくれんぼ開始した。
俺は隠れる側で、今空き教室にあるロッカーの扉を開けた所だが……
「あ、ども」
「えっ、うん。どうも?」
既に中に人が!!
つい、挨拶してしまった、相手も反射的に返してしまった様子で首を傾げている。
ってあれ? 中野さんか? どうして中野さんがここに……?
中野ほたる。同じクラスの陽キャ女子グループの一人で明るく誰にでも優しい女子だ。
俺にも優しくしてくれる天使の様な人である。
そんな人が何故ロッカーに……? もしや、いじめ……?
クラスじゃそんな様子無かったのに。……意を決して彼女に聞いてみるか。
「えっと、中野さん。どうしてロッカー何かに?」
「あ~、それは……」
俯き加減で言葉を言いよどむ……やはりいじめか!
「その……ぼで」
「んっ?」
「……くれんぼで」
くれんぼ?
「かくれんぼで……」
かくれんぼ? えっ、かくれんぼなの?
中野さんのグループもかくれんぼなんてするの!?
俺らみたいなアホ男子だけじゃなくて?
「子供っぽいよね? 高校生にもなってかくれんぼなんて」
ちょっと顔を赤くしながらもじもじと恥ずかしそうにそう答える中野さんにちょっと萌える。
「いやいや!! 俺も今かくれんぼの途中だから別に!!」
フォローするつもりがつい、大声になっちまった!!
中野さんがキョトンとしてるじゃないか、恥ずかしい……。
「ふふっ、じゃあ一緒だね!」
「うす、一緒ッス」
返しが面白かったのか彼女は笑っておられる。
「甲斐くんは探す方なの?」
「隠れる方だよ。他に人気が無くて隠れる場所がある所思いつかなかったんでここに来たんだけど」
誰かに見られたら呆れられるか、隠れ場所チクられるかもしれんし。
「中野さんに場所を譲ってもらうわけにはいかないし、別の場所探すよ」
「あ、待って」
「……?」
「私、体小さいし。甲斐くんなら入れるよ?」
「……????」
ロッカーの空いてる空間を指差す中野さん。だが、どう見ても二人分のスペースは無い。
入れない事はないが、入れば完全に中野さんと密着してしまうだろう。うん、無理だわ死んじゃう。
下心もあるし飛びつきたい提案だが、起立してはいけない所が起立してしまう可能性大。
提案を呑めば物理的に(友人達に)殺されるか、(アレが起立して)社会的に死ぬだろう。
頭をかきながらいやぁと曖昧な返事をしつつ、空き教室出口へと向かおうとして腕を掴まれ引き止められてしまった……。
うん、そろそろ隠れないと鬼の孝明が来ちゃうんだ。だから、離してください。
おお!! 力が強いぞ!! 何処にそんな力が!! あああああぁぁぁぁぁ!!!!
「ほらね、入れたでしょ?」
やばい、良い匂い、柔らかい、あったかい、死ぬ。
「甲斐くん? おーい、おーい」
「――はっ!! まさか白昼夢を見るとは……。俺が中野さんと狭いロッカーに入ってるわけ」
「夢じゃないけど」
「死にます」
「えええっ!? なんで!?」
「だって、こんな中野さんと体をくっつけたら責任とって死ぬしかないじゃないですか!!」
「どういう責任の取り方なの!?」
「そもそも周りにバレたら男子連中に殺されるし」
「何で殺されるかわかんないけど、かくれんぼなんだし最後まで見つからないでバレなきゃいいんじゃない?」
「見つけて貰えないかくれんぼ、いつの間にか帰っている友人達、知らずに一人隠れ続ける……うっ頭が……!!」
「悲しいトラウマ踏んじゃった……」
よしよしと頭を撫でてくれる中野さん。ふざけて気分を紛らわせようとしたのに逆効果だった。
頭を撫でられるの嬉しいんだけど、ロッカーの中で動かれるとちょっと刺激がやばいのでやめてください。
「そういえば、さっき責任をとってって言ったよね?」
「責任? ああ、言ったけどそれがどうしたの?」
もしや、やっぱり責任とって死ねって事?
「責任の取り方って別にあるよね?」
別の責任? ……金?
「お金じゃないよ!?」
口に出してたか。命でも金でもない責任ってそれって……もしや
思いついた事を口に出そうとした時、空き教室の扉が開く音がした。
「陸斗~、いるかぁ。後はお前だけだぞへっへっへっ」
何故か小悪党ムーブ全開でやってきた孝明。というかあいつらもう見つかってんのかよ!!
仕方がない、かくれんぼ終了だ……な……。
今の状態を思い出す。狭いロッカー内で中野さんとぴったり密着している俺。
孝明がロッカーの扉を開ける、俺と中野さんを見る、俺を殺す。
その光景が鮮明に思い浮かぶ、俺だって逆ならそーする。
「ヒャアァァァ!! このロッカーの中だな!!!!」
孝明がロッカーの扉に手をかけ開けようとしたその時。
「あの竹村くん?」
「えっ!! あっ、その……誰ですか?」
「同じクラスの中野です」
「な、中野さん?」
「ごめんね。わたし、友達とかくれんぼしててロッカーの中に隠れてるんだ。だからお願い、扉開けないで」
「え、あ、はい。すいません失礼しました」
そそくさと退散していく様子が見ないでもわかる。
俺だと思って小悪党ムーブをしたら女子でしたなんてキツイよな、すまん孝明。
「危機を脱したね」
役に立ったでしょと言いたげの中野さん。
「ちょっと卑怯だった気も」
「じゃあ、竹村くん呼び戻す?」
「中野さんナイスプレー!」
孝明の心情なんていらんかったんや!!
彼女は熱い掌返しにクスクスと笑う。あ、止めて吐息が首元に!!
「甲斐くんって面白いよね。無理してない感じで」
「無理してない感じ?」
「うん。説明は難しいんだけどさ、クラスの男子達はどこか無理して人を笑わそうとしてる感じがするんだよね」
「ああ、それは可愛い子にはモテたい、面白いって思われたい、好感度あげたいって思う男心じゃないかな、狙って面白い事言おう、言おうとするから無理してるように感じるんじゃない?」
……? なんかショック受けてる?
「……甲斐くんはその、女の子にモテようと思わないの?」
「俺? 俺がモテるわけないから」
彼女居ない歴年齢よ? 兆しすら見えた事……あれ? そういえばさっき責任って。
「……少なくとも一人にはモテてるよ」
中野さんはそういうと体を俺に寄せてくる。唯でさえくっ付いているのにこの状態で体を寄せられたらかなりマズイ。
長い間密室の空間は彼女の甘い匂いで包まれ、二人の体はいつの間にか回された彼女の腕により強く結び付けられた。
柔らかな感触と、熱いと思えるほどの彼女の体温が伝わってくる。
耳元で彼女が囁いた。
「……陸斗くん、体をくっつけたら責任取ってくれるんだよね?」
脳が痺れる様な感覚が。
「……責任とって?」
「あぁ、う、その、せきにんとり」
「ほたるみーっけぇ……え?」
急に開け放たれたロッカーの扉。
どうやらかくれんぼしている中野さんを探しにきた友人女子のようだった、呆然とこちらを見てる。
こちらも急に扉を開けられ呆然と……いや、中野さんは笑顔を浮かべ友人を見つめてる。
ハッっとした表情をした後、友人女子は「ごゆっくり~」と言い空き教室を出て行った。
『みんなぁぁぁぁ!!ほたるがぁぁぁぁ!!』
廊下の方で響く叫び声を余所に、中野さんはニッコリと笑いながら。
「ごゆっくりしちゃう? まだ、答えもきいてないし、ね?」
そう言ってロッカーの扉を再び閉めるのであった。
……扉が閉まってすぐに落ちたのは言うまでもない。
「あの…中野さん? チャイム鳴ったんだけど」
「ほたる」
「え?」
「中野さんじゃなくてほたるって呼んでほしいな」
「…………ほたる」
____ロッカーの外
「ほたるグイグイ行くね」
「好きな男子とロッカーに入ってれば当然じゃない?」
「いや、普通はそんな状況にならないでしょ」
「サボりになってもいい……陸斗を殺るぞ!!」
「「「おう!!」」」