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牢屋での告白 改稿版

会話の変更をしています。最新版になります。


「そう……ですか。父は……」


 僕は彼女を前にしてすべてを話した。

 彼女、ユキ・ラーフの父であるヒトリ・ラーフによって僕は心を救われたことやその恩人の彼を盗賊に偽装したトラバルド国の兵士からの攻撃に守れなかったこと。

 彼を死なせてしまった罪を告白した。

 彼女は僕を決して責め立てるような言葉を吐くことはない。

 沈鬱な表情を浮かべると苦笑する。


「父のことについて、あなたはそんなに思ってくれてありがとう」


 僕は彼女の感謝の言葉に思わず驚いて言葉を失う。


「どうして感謝の言葉なんて……」

「正直、私にとって父は父親とよべるような存在には程遠かったです。父親であっても愛情を私には与えてくれなかったような人でした。そんな彼を唯一尊敬し、そこまで感謝の気持ちを抱いて涙を流す人がいて感謝してます」

「そんな言い方……君は父親が死んで悲しくないかのような……」

「悲しくないですか……。たぶん、それは私が父に対して冷たいだけなのかもしれないですね。時折村のために奉公に出ていた父が私や村人のために顔を見せるために帰ってくることはしばしばありましたけど、そんな父が私に対しては極端に冷たい人だったからなのでしょう。『おかえり』も『ただいま』も言わない。まるで自分の体質のせいで私を苦しめてることに僻んでいたかのような態度の父のその顔に私はやきもきした感情で常にいっぱいだったから冷たい態度を私もしていたと今になって思い返すこともしばしばあって、こっちは気にすらしてないのに」


 感情を吐露し始めたユキさんが涙腺を緩ませ、涙をぼろぼろと流した。

 そんな彼女を見ていたら僕は罪悪感に押しつぶされそうになってくる。

 自分にもっと力があれば恩人を救うことが叶ったのではないか。


「でも……おかしい……です……突然としていなくなった父のことを聞かされるとどうしても信じられないし……でも……なんとなくそうだってわかるんですね……」

「ユキさん……」

「この場所に拉致されて騎士からは父を殺したと伝えられてもいたんです……でも、私は決して信じてはいませんでした」


 僕はそうだろうと思った。

 普通は赤の他人の戯言だって思い込んでもおかしくはない。


「でも、父と出会ったかのような経験を語ったあなたが告げた言葉でそれが真実だってのがわかったらなんですね……泣くつもりはなかったのに……おかしいですね」


 冷たい態度で父親の死に対しても自分は冷たいなんて言っていた人だけれどもユキさんは冷たい人ではないと僕は心底思い始める。

 同時に僕は申し訳なく思いながら彼女に告げる。


「あなたは冷たい人なんかじゃない」

「え」


 涙を流しながら震えた声で返答する。


「僕には本当に冷たい人がどんな人かわかってます。あなたのような方が冷たいはずはない。そう、僕を救ってくれた恩人の娘なあなたが。でも、僕は彼を守れなかった。だから、僕はあなただけでも恩返しがしたい」


 僕は精一杯の気持ちを込めて告白のような台詞を吐いた。

 その言葉に彼女が涙をぬぐうと僕のほうへ向き直る。


「何ですかソレ……。まったくわけのわからない理屈じゃないですか」

「わけわからなくないです! 僕は恩人であるヒトリさんを救えなかった気持ちに胸が苦しんだ。でも、その彼が愛したものを守れなければさらに僕は自分を許せなくなるんです」

「それって、つまりは自己満足じゃないですか?」

「そうですね、そうかもです。でも、そんな自己満足を僕は押し通します。いくらなじられようと」

「なんですかその理屈。わけわからないですよ」


 彼女は次第に笑顔を見せ始めた。

 僕は彼女の笑みを見てほっと安心する。

 ここで出会った時に見た彼女の最初の顔はどこか、絶望しきっていた瞳をしていた。

 だから、少しでも元気づけたかったのだ。


「それで、その自己満足を貫きたい元勇者様はどうやって恩返しするのですか?」

「あなたをこの場から救い出します」

「あはは、なんですかソレ? 当のあなたまでトラバルド国に捕縛されてるじゃない……」

「そうですね……。でも、僕はこの状況に置かれたことを何よりも幸運だと考えています」

「どういうことですか?」

「僕はこの国でこういう状況に置かれた経験がある。さらには偶然にもこの場であなたと出会えたことがなによりも幸運です」


 そう説明をすると彼女がまたはにかんだ笑顔を見せてドキリと胸が高鳴る。


「こんな場所で私にで出会えたからこそ幸運でさらにこんな状況に置かれた経験があるから幸運ってますますわからないですね。なんか、変な告白されてる気分になります」

「こ、告白なんて違いますよ! 恩人の娘に対してそんな……」

「冗談ですよ」

「からかわないでください!」

「ごめん、なんかあなたを見てるとからかいたいって気分になってしまったんです」


 彼女のいたずらに振り回されながらちょっとむくれた。


「あれ? 怒りましたか、すみません」


 むくれた僕は次第に安心から笑みを見せる。


「いえ、怒ってませんよ」


「本当にわからない人」


 ユキさんが真剣な目つきをしながらそっと格子窓のほうを見て囁くように聞いた。


「一つ質問いいですか? どうしてそんな嫌われているような国へまた再び来るなんて無謀な挑戦したのですか?」

「恩人への恩返しのためなら命だって僕ははります! たとえ、どうなろうと!」


 何度かユキさんが目を瞬く動作をする。

 僕も自分の自慢にもならないような堂々とした言葉に今更妙な気恥しさが出てきて体が熱かった。


「照れるなら言わなきゃいいのに」

「いや……その……」

「なんか、安心した。父があなたのような人を救った意味が分かりました」

「それはどういう意味ですか?」


 僕の質問に答えようとしたユキさんが口を噤んだ。

 騎士が近づく足音が響いた。


「そろそろですね」

「それって、どういう意味ですか?」

「それより、ユキさんは今自分の置かれた状況をどの程度まで把握されてますか?」

「え? そんなの見れば判断つきますよね?」

「まぁ、普通はそうなんですけど、この国は虜囚をただの虜囚にはしない」

「……急に怖い話をしないでくださいませんか?」

「すみません。これは事実なんです。この国は虜囚を使って――」


 説明の続きをしようとしたとき、牢屋に近づく一つの足音が止まった。

 僕は思わず口を噤んでそちらを注視すると、牢屋の鉄格子扉の向こう側に騎士が立っていた。


「早速だが、奴隷勇者の再戦だぞ。タッグ戦は覚えてるな? さあ、女お前も何のために連れてこられたと思ってるか証明しろ」

「証明? なにを――ってちょっと腕を引っ張らないで!」


 強引に騎士の二人が牢屋に入ってきて僕らの腕をつかみ強引に牢屋から連れ出した。

 そのまま、僕らはある場所にまで連れていかれた。

 そう、この牢屋よりさらに地下へと続く道があり、そこで開かれてる催しの会場へ。

続きは月曜日に更新予定ですがもしかしたら来週の金曜日の可能性もあります。

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