地下の牢屋での出会い 改稿
カイムの過去の話を夢にした回想から始まります。
それはまだ魔王討伐という依頼で召喚された間もない頃。
神薙学園の生徒はそれぞれにおいてクラスメイト同士で仲間を作って勇者活動をしていた。
僕の属した安藤宗次を中心としたチームだけは力量不足で未熟さを思い知っていた。
入りたくて入ったチームではないために僕はその中でのポジションに悩み、さらには僕をからかうよういじめる二人組の横暴な行動には悪目立ちが特にした。それを唯一宥めたリーダーの安藤。
まったくチームワークのないチームの力量が不足するわけだった。
だから、自分たちを召喚したあの国の王女から助言を下された。
「世界最大の軍事国家で訓練を積んでくるといいですわ」
その助言ともいうものなのか不確かではあるけれども、彼女の指示で世界最大の軍事力や教育に力を入れていると言われた国、トラバルド国へ向かったのだ。
当時は国王の態度も悪くはないと感じていた。
「来るの待ってたわよぉん。宿泊場所はウチの城を使うといいわぁん」
それは彼が演じていた態度に過ぎなかった振る舞いと後に思い知らされた。
教育と称して彼、ラッツハルト殿下は温情をくれた。
「我が国の育成機関に属してまずは鍛えることをお勧めするわぁん」
入った騎士育成学校はまさに軍事訓練のようなスパルタ学園であった。
たかだか、普通の学生だった僕らには正直キツく、早くも仲間の真藤哲也と伊藤マリアはリタイアしていた。
温情を無碍にするような振る舞いにさすがのラッツハルト殿下もお怒りを表した。
「ちょっとぉ、困るわよぉん」
「いえ、しかし国王殿下! この訓練は正直、我々には荷が重くそれに我々は勇者であって騎士ではない!」
「へぇ、我が国は頼まれたからせっかく温情を与えたのに無碍にするわけねぇん」
「それはっ!」
「これなら、魔王軍討伐の助力の件もなかったことにしちゃおうかしらぁん」
「ッ!それだけは困ります!」
「ふふっ、ならこうしましょう。例の先にやめた二人は良いわよぉん。でも、ソウジとまだ残っていたあの、そこの勇者名前何だったかしらぁん」
「カイムです」
「ああ、そうそう。そのあなたが今度の賭け試合に出ればその騎士の学校はやめていいわよぉん」
最初からまるでそれが狙いだったかのように彼は申し立てたのだった。
僕と安藤宗次はその試合に出場した。
この国の地下にある大きな闘技場。
無理やり出場されて分かった試合の選手たち。
その数々の試合に出ていた人々がまさに捕縛された奴隷や盗賊たちだった。
何よりも残酷なのはその闘技場では勝利条件は相手を殺すことだったのだ。
さらにタッグマッチという形式で行われてた。
「なんてことだ……あの王に嵌められるなんてねぇ」
出場が決めさせられてからの僕と安藤の生活は常に牢屋暮らしだった。
その中で次第に心も疲弊していく。
「はぁ、僕はもうだめだ」
「あ、あの大丈夫ですか」
「え」
そんなある時に僕は牢屋の中で一人の優しい女の子に出会った。
女の子と思ったのは見えずしてもその声はまさにかわいらしい女性のモノだったから。
本人も女性と言っていたこともあった。
向かいの牢屋にいた声だけしかわからない奴隷の少女。
彼女と会話するのは安藤が寝静まったときだけであった。
「こんな試合もうやめたい」
「わたくしもです。このような無意味な殺戮なんて」
「僕は絶対に試合で君と出くわしたら君だけは殺さず引き分けするように安藤に頼んでみるよ」
「うふふっ、うれしいです。でも、そのような願いが本当に叶うならうれしいですわ」
「叶うさ! 僕はだって勇者だからどんな困難も乗り越えるさ!」
「その自信が羨ましいですわ」
「それは君がいたから!」
「え」
お互いに理解を高め合い、顔も知らないのに自然と気持ちだけは通じていく。
のちに悲劇を生むとはこの時の僕は知らなかった。
闘技場に出演していればそうなると当たり前なのに。
順調に勝ち進んでいった僕と安藤が最後に当たった二人の奴隷。
決勝日前日に最後の気持ちとして約束を交わし合う。
「私たちだけが最後らしいですわ」
「そうだね」
「明日、どう乗り切る予定なんですか」
「相方の安藤にはまだ相談していない。でも、明日には僕のことを操って君を殺すなって伝えてみる」
「信じていいんですか?」
「ああ、僕は君の勇者になりたいから」
「うれしいですわ」
当日に僕の願いは安藤には聞き入れられなかった。
入場前の出入り口の廊下で口論する。
「なんでだよ! 安藤君だってこんな試合嫌いだって言ってたじゃないか!」
「あのねぇ、これは国王の命令だ。従うしかないし逆らうような違反的行動をすれば信頼性が失われる。あの国から助力をもらえなくなり、さらには僕らをこの世界で雇ってくれてる王女からも見放されるかもしれない。そうなったらどうするんだい!」
「でも、僕は彼女と戦いたくないんだ!」
「甘いことを。なら、最後の試合は派手に楽しむようにしてあげるよ」
「やめて! 僕は彼女を殺したくないんだ!」
その時の安藤のゆがんで狂気に満ちた笑みを僕は今でも忘れない。
僕の願いは聞き届けられることなく試合は始まった。
何度となく打ち合いあう少女。
彼女の悲しい顔だけが僕を見ていた。
彼女は自らの背後を振り返る。
安藤に斬り殺された自分の相方の姉を見ている。
「あなただけは許さない!」
「違う、僕は僕は決して殺したくなんか!」
「死ねぇええ!」
少女が斬りかかってくるが安藤が能力で僕を操って、その少女を無残に僕の手で切裂きにその手を振りかざす。
*********
「やめろぉおおおおお!」
過去の嫌な記憶が悪夢になって僕は叩き起こされるように叫び声を上げながら飛び起きた。
「な、なんなのですかっ、急に!」
「え」
飛び起きた矢先に聞こえた声のほうを向いた。
そこに一人の女の子がいた。
長い黒髪にメッシュの入った銀髪。スタイルがモデルのようにすらっとしていて長身。出るとこも出ていて程よく、美貌も相まって美女と分かる可愛さ。
おもわずドキリとした。
目の前の女の子の可愛さに見とれていながらも僕も思った。
「誰?」
僕はそう質問しながら周囲を観察する。
なんとも嫌な記憶と共に見覚えのある外観が目に見えた。
「ここは牢屋か……」
「そうですけど……それより、あなた大丈夫ですか? 急にうなされていたかと思えば起き上がって叫んだり……。それに運ばれてきたにしてはずいぶんとしっかりとした服を着込んでるみたいですけど、何者ですか?」
「僕は……」
正直に答えそうになって僕は彼女のことをよく観察して目を何度もこする。
「あれ?」
記憶の中でルカル村で言われたユキという少女の容姿を思い出す。
おもわず喉が震えながら言葉を紡ぐ。
「ねぇ、ちょっと急に何怖いんですけど!」
「君もしかして、ユキ・ラーフ?」
「え? どうして私の名前を……」
「うっ……うっ……」
「なんで泣いてるんですか!」
「ごめん、本当にごめんなさい。僕は……僕は……君の……」
「なんですか? なんなのですか!」
「お父さんを……死なせてしまった……」
「え」
その時、彼女が息をのむように凍り付いたのだった。
僕は彼女、ユキ・ラーフとの最悪の出くわし方をしてしまったのだ。
次回は今週の金曜日か土曜日掲載を予定しております。