ユークラシオン帝国の騒乱1
帝国領土内に侵入した自分たちが見たのはあまりにも悲惨で醜い人の本性を垣間見せた光景だった。
帝国の政治や経済などを支えていた統治者がいなくなり、すべてが自由と貧困にまみれた国ではただ人は略奪と凌辱を繰り返す。
それが帝国内で混乱を起こし、抗争を引き起こし続けていた。
家屋は壊れ燃やされる。中には弱気殺された人の存在。絶句した表情を見るとあまりにも悲しい。
「うぁああああっ!」
背後から聞こえた男の狂気に満ちた声に振りかえった。
なぜか、自分についてきていたユキ。
その彼女を襲いかかろうとしていた狂気の男にすかさず魔法を撃ち込んだ。
風の魔法で宙へあがって壊れた家屋の中へと墜落した男。
死んではいないだろうと思いながらユキへと急いで駆け寄った。
「なんでついてきてるんですか? ここは危険です。すぐにモア国に戻って――」
「いやよ。私はあんな自己中女の仲間じゃないの。あなたの仲間なのにあなたについてこないでどうするの!」
「でも、ここは危険だから……」
「私だって身を守れるくらいできるわ。心配しないで。さっきのは少し油断しただけだから」
と強く反論するユキに対して自分の心は不安でいっぱいだ。
「だったら、自分の背中にずっとついてきてください。危険な目にあいそうならすぐ手助けしますから」
「過保護すぎよ。私は自分で自分の身くらい守れるわ」
とりあえず、二人で帝国内を行動することに決め、首都ムストアの通り沿いを駆け出す。
思い出深い店を発見する。
「ここ」
「ああ、先の武具を買い込んだ場所ですね」
その武具店はもうその面影すらなく、中の店主は死体と化していた。
あまり親しいといえる間柄ではなかったが知っている人がなくなっている姿を見るというのは心来るものがあった。
目を伏せって先を急ごうとしたとき、ふと袖をつかまれる。
「ユキさん、どうしたんですか?」
「ちょっと、あれを見てよ」
「え」
燃えている中の店主の死体を指さす彼女。
彼女の指さすその死体が徐々にゆっくりと動き始めていた。
思わず息をのみ、周囲に目を急いで向けて注意深く観察した。
「まさか、この騒乱の人々は全員死んでいるっ!?」
先ほどの男もよく考えてみれば目がうつろであったように思えた。
「アンデッドになったというのか? でも、帝国内の人々全員をアンデッド化する魔法なんて聞いたことないぞ……」
何か嫌な予感がし、慌ててユキの手をつかみ店主から逃げるように走りだす。
「ここに入ったのは間違いだったのか!?」
「か、カイムさんちょっと痛いです!」
「あ、ご、ごめんなさい」
彼女に痛みを訴えられ慌ててその手を放す。
足を止めたとき、近くからはっきりとまだ人と呼べる声が聞こえた。
「助けてー! 誰かぁあ!」
聞こえた方角を見る。
「誰か助けを呼んでる!」
「ユキさん! ちょっと!」
彼女はその声の下方向へと駆け出して行った。
「まったくユキさんってばさっそく俺との約束無視してっ!」
彼女のその勇気ある行動には恐れ入るがんんとなくその優しさを見せるその背中に俺はある人の面影を見ていた。
自分に優しく手を差し伸べて救ってくれた一人。
彼女の父、ヒトリ・ラーフ。
「だからこそ、僕は恩人の娘を死なせるわけにもいかない!」
全力で俺も彼女の背中をつかもうと慌てて追いかけたのだった。
この後に待っている波乱の騒動など思いもたたず。
本作を読んでくださりありがとうございます。
次回掲載は約3週間後以降を予定しています
そのあたりで掲載を予定しています。
作者の都合でしばらく遅筆連載になります。大変恐縮ではございますが何卒宜しくお願い致します。
本作品を読んでくださった方々様、少しでもこのような拙い文章の作品ではございますが面白いと感じてくださったならブックマークよろしくお願いします