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ルカル村

 僕は絶望に沈んでいた。

 またしても僕は一人になった。

 僕の心を救ってくれた恩人を死なせてしまった。

 彼には友や親戚だっていたことだろう。

 どうやって顔を向ければいいのだろうか。

 沈んでいく感情に周りの音はすべて僕の耳には聞こえなくなっていく。

 僕はこれからどうするのだろう。

 道を示した人がいない僕に果たしてこの世界で生きる価値はあるのか。


「あ、あの勇者様、勇者様!」

「はい」


 音をかき消すかのように強い言葉が後ろから投げかけられ振り向く。

 この村の一人の老人が僕の手をそっと包み込んだ。


「ありがとうございます」


 その時僕は何を言われたのかと思って固まった。


「このような状態であっても彼をここまで運んでくれたあなた様に私共は感謝しかありません。それにあなた様は村も救ってくれました」

「こんなので救えたなんて……だって……」


 村の様子を見渡す。

 そこは村というような原形さえとどめていない。ただの焼け野原だ。

 周囲には泣き疲れてやつれた数人の村人たち。

 この村の状況を見て救えたなど言えるものだろうか。


「いいえ、違います。あのまま私や村人全員での鎮火作業を行い続けてればいずれは死人も今より出て村事態が消滅していた可能性だってあるんです。まだこうして村のわずかな原型があるだけ十分と言えます」


 その彼の言葉に何も言えず言葉を詰まらせた。


「それに、実はあなた様が連れてきたその彼ヒトリは他の町で迫害されここに逃げ延びてきた一人のここルカル村の村人なのです」

「迫害って例の体質ですか?」

「やはりご存じでしたか。その通りです。この村はいわく付きのものを守る村でもありました。彼もまたそういった人物の一人でした」


 生き延びた村人一人一人を見ると確かに様々な人種がその村では暮らしていた様子だった。


「ヒトリはあなた様を見て何か境遇を重ねたのでしょう。ヒトリはそんなあなた様を救うつもりでこの村へ導いてこようとした」

「でも、僕は道中でヒトリさんを救えなかった」

「それでも、その顔つきや悲しみを抱く表情を見ればあなたが魔法で彼を必死で救おうともしたのがわかります。そうでなければ、このルカル村の存在をヒトリはあなたに伝えはせんかったでしょう。彼とこの村をありがとうございます」

「っ!」


 老人の感謝の言葉に僕は膝を折り曲げて泣き崩れた。


「すみません……本当にすみません……僕は彼を……生きたまま……うぅ……うぁあああああ!」


 老人や村人が次第に涙を流して、老人に僕は抱きしめられる。

 僕はまた人の温もりを感じ心を救われたのだった。


 ********


 ルカル村と呼ばれるその村は一昔前は僕を見捨てた国の領土にあり、穀物の産地に優れた村だったという。

 しかし、魔王の侵略が始まり土地が毒素に侵された。穀物は育たなくなり、国からも見捨てられるようになった。次第に村の稼ぎは減っていき、村人で外へ奉公に出ていくしか村を維持することはできなくなっていたという。

 その奉公人の一人がヒトリさんだった。

 ほかにも冒険者や傭兵を行う村人もいるが全員が年に一度戻ってくるくらいの者たちばかりであるという。

 現在のルカル村にはわずかな村人しかおらずそれも女や子供、老人ばかりの村なのだ。

 僕に村の実情を語ってくれた老人のこのルカル村の村長さん。


「そうだったんですね。じゃあ、僕は貴重な一人を」

「いえ、仕方ありません。前々からこのルカル村は廃村しかけておりまして他国からも嫌がらせをうけていました」

「もしかして、あの火は?」

「はい、他国のそれもトラバルド国の騎士にやられたものです」

「っ!」


 トラバルド国はこの大魔法世界『イステア』でも非常に強い軍事力を持ち、剣士や魔法士の育成などに特化しているともいえる国。さらに、育成学校とかも多い他に冒険者ギルドなども多く軍事大国とも呼べる国。他国とは軍事力を活かして軍人を派遣したりなどをしてお金をもらっている。

 そんな国がわざわざこの村を焼く理由がわからなかった。


「なぜ、村を焼くか理由がわからないという顔ですな」

「はい。あの国は軍事的に優れています。この村を焼く意味が分からないです。それにどうしてそんな酷いことを……」

「それはこの村が他国からの排斥者が多くいるのが理由でしょう」

「ヒトリさんも特異な体質があり、この村に……」


 排斥者、つまりは外の国から追い出されて者。何かには追われている逃亡者たち。

 ほかの国にしては危険性を感じているのかもしれない。


「そうです。ただ、先ほど排斥者がいるからともうましたがあくまでそれは一部の理由です」

「一部?」

「大本はこの村の彼女の存在を危険視してきたのでしょう」

「彼女?」

「ヒトリ・ラーフに娘が一人いたのは聞きましたか?」

「え」


 そのことは初耳だった。

 次第に申し訳なさも込み上げた。

 彼に孫娘がいたならば僕は彼女に謝らないとならないのではないかと思い立つ。


「彼女に謝罪をしたいと顔に出ておりますな」

「だって、僕は……」

「ですが、無理です」

「え」

「今の彼女はもうこの村にはいないのです。攫われましたので」


 しばらく固まってしまう。

 ヒトリさんは自らの命を失っただけでなく愛するものまで敵に奪われていたという事実。

 彼はその事実を知らないまま亡くなったのだ。

 強く怒りが煮えたぎる。


「そもそも、何で彼女は攫われたんですか?」

「ヒトリが魔法を効かない体質なのはご存知ですね?」

「はい」

「彼女もまたそうなのですが、同時に彼女には特殊な能力もあったのです」

「能力?」

「魔法を打ち消す能力です。たとえ、どんな魔法でもです。さらに、体内には膨大な魔力も持っており本人も魔法を扱えますがそれも禁忌魔法しか扱えない特異体質」

「だから、トラバルド国はその彼女を利用して攫いに……」

「その通りです」


 僕はファンタジー小説とかによくある展開を思い出した。

 その国は彼女を軍事利用するために攫いに来た。

 その攫ったことを世間的には良い評価を受けないとおもい、村を盗賊が行ったものだと思わせて焼き野原にしたわけだ。


「そうか……あの盗賊。最初からヒトリさんを狙ったのも口封じのために!」

「あ、あの勇者様……?」

「村長さん、僕にそのヒトリさんの孫娘を救わせてくれませんか?」

「え……いや、しかし勇者様にそのような……」

「いえ、これは僕からの頼みです。お願いします」


 村長さんはびっくりしたように目を丸くする。


「なぜ、そこまで……」

「僕はヒトリさんに心を救われたんです。でも、その彼を死なせてしまった。でも、もしも孫娘が生きているとするなら彼女だけでも救ってあげたいんです」

「…………あなたは本当に……我々の勇者様だ」

「僕はもう勇者なんて引退しました。今の僕はただのカイム・ユウシです」

「わかりました。では、カイム様。どうか、彼女を救ってください」

「はい。ちなみに彼女の容姿とかわかるものは――」


 彼女の素性をいくつか聞こうとしたときに村の中から悲鳴が上がった。


「あなたぁあああ!」

「ぁああああ!」


 急いで悲鳴の出先に向かうと村の境界門の前に馬に乗った盗賊のような格好をした軍隊がいた。

 軍隊の先頭に立つ大隊長の男の手には数人の人の首があった。


「なんてことだ……あれはこの村の……」

「クソ共がっ!」


 その言葉だけで分かった。

 あの隊長の手にはこの村で奉公に出ていた者たちなのだろう。


「この者たちは町で俺らに歯向かった罰を受けてもらった。その罰は重い。だから、この村人にも対等な罰を受けてもらう」


 なんと無茶苦茶な自己満犠牲の言葉だった。

 僕は剣を握る。

 これ以上、恩人の村を汚されたくはない。

 つくづくに自分の運命のありきたりさに呪いを感じる。



「おい! お前ら!」

「ああん? なんだてめぇ?」


 一人の村人が堂々と剣を持って歯向かいに行った。

 金髪の若い青年だ。


「俺はアーティー・アルフレットだ。この村のために戦う一人の傭兵だ!」

「あはははっ! なんだそれ!? 村のために戦う傭兵? アハハハハッ! 面白れぇ馬鹿だな」

「馬鹿かどうかはその身体に教えてやる!」


 青年は地を蹴って一気に近づいた。

 青年に向かい、隊長の男は容赦なく火球の魔法を撃ち込んだ。

 青年アーティーは派手に吹き飛んだ。


「俺を誰だと思ってやがる三下の傭兵が」

「そうだぜ、隊長はあのトラバルト大国第3騎士隊の隊長なんだよ」


 隊長が相手を見下し、その部下は自らのボスを褒めちぎる。

 まるで三門芝居を見ているような気分な光景だ。

 あまりに下劣な奴らだ。


「村のみんなを返せ、幼馴染のユキを返せえええええ!」

「あ? てめぇ、あの女の知り合いかよ。今頃ボスにおもちゃにされてるってのに哀れな奴だ」


 アーティーの剣をあっけなく弾き飛ばす隊長騎士。

 馬の横に倒れた彼を見下ろすと隊長の男は冷めた目を向けながら笑みを浮かべた。


「つぶれろ」


 馬のかかとが上がり、アーティーの顔へ迫る。

 瞬時に僕は動いていた。

 まずは隊長の馬を斬りつけて転倒させた。


「ぐぉあ!」


 隊長は突然のことに体勢を立て直せずそのまま地面へ落下する。

 アーティーの助かった姿を目視で確認して瞬時に僕は移動をしていた。

 隊長の転倒先へ僕は剣を構えて立つ。


「まっ」


 隊長の腹に剣が刺さる。


「うぐぅ!」

「隊長! 貴様ぁ!」

「動くな! お前らが盗賊じゃないのはわかってる。おまえらの隊長がこのまま腸を抉りだされたくなかったらおとなしく質問に答えろ!」

「ぐへへっ……お前の顔どっかで見覚えあるぞ……そうか、お前あの勇者の一人……しかも一番弱い囮勇者じゃないか……あはは。どうしてお前が……」

「うるさい! 黙って僕のまずは質問に答えろ! この村で攫って行った人は生きているか!」

「攫った? 何のことだ? 俺らはただの盗賊で今日初めて――」


 僕は剣を横にずらす。

 血がドバドバとあふれていく様子をうかがいながら彼の苦しみも蔑むように見つめる。


「てめぇ、勇者がこんなことして許されると……」

「僕は追放された勇者で元勇者だ。お前らのような人を殺すなんて気持ちなんてことない」

「くそっ……てめぇら俺のことはいいから! この勇者を殺せ!」

「しかし、スッテル隊長!」

「黙ってやらんか!」


 スッテルと呼ばれた隊長の男は部下に必死で命じた。

 よっぽどな国への忠誠心に恐れ入るが僕だって容赦はしない。


「そんなに死にたいのか。だったらそのまま!」

「隊長は助けてくれ! この村で攫った人は王城の地下に投獄されてる! だから――」

「馬鹿野郎! 何をばらしてんだ!」


 隊長思いの部下がついにはゲロった。

 僕は彼の腹から剣を抜きはらった。

 だけど、脳天へと剣を振り下ろす。


「隊長!」


 即座に魔法詠唱を行使する。

 頭上に立ち込める雷雲。

 雷が騎士たちに降り注いだ。

 全員が落馬して転倒する。


「お前たち今、『この村で』って言ったよな。つまりは他の村や街でもこんなこと行ってるのか!」

「命令で仕方なくしているだけだ! だから――」


 僕は二度目の雷撃を落とした。

 沈黙する騎士隊。

 背後では村人たちが唖然としてこちらをみていた。

 中には恐怖をしている者もいた。


「すみません。僕はすぐにこの場から消えます。あとはどうにかしてくださると助かります。身勝手ですみません」


 村の門扉を潜ってその場から去ろうとする。


「あ、あのカイム様!」


 最後に村長とアーティーが僕に頭を下げていた。


「ヒトリ・ラーフの孫娘の名はユキ・ラーフです。黒い長い髪に銀が入った目立つ髪をしております!」

「村を救ってくださりありがとう!」


 最後に特徴を伝える村長と感謝をしていたアーティーに僕は背中を向けながら手を振った。




次の掲載は来週となります。


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