王子の余興
王城から飛び出すように逃げて、神聖国イルシアの街中の屋根の陰に隠れるようにひっそりと移動を開始した。
僕は背負ったユキさんの重みを感じながらも歩幅は決して緩めることをせず足に力を込めながら走る。
そのためか体力の浪費の速さは尋常じゃない。
息も上がってき始める。
「大丈夫かの、勇者様」
「大丈夫? そんなわけない。俺たちはあの城から逃げ出したんだ。勇者のおれが……」
悔しさの感情が高ぶりを抑えられない拳を握りこむ。
怒り任せに壁を殴りつけた。
「おい、落ち着くのじゃ。奴らが捜しているかもしれぬ」
「探すはずないだろう。だって、彼らは俺らを逃がさせたんだ。なんで追う必要があるんだよ」
「勇者、お主は本当にあの王子がわしらを簡単にあの場から逃がさせたと思うのか?」
「え」
「あの王子は真性の悪魔じゃ。逃がさせたのも何かの余興をするつもりでおるに違いないとワシは――」
まるで彼女の推測を助長するかのように街中に急なサイレンのような小うるさい音が鳴り響いた。
音がやむと『あ、あー、これ街中の市民聞こえてる?』と王子の声で放送が流れ始めた。
「やはり何か仕掛けおるか」
「何かって何?」
「いいからこの国からとりあえず出るのじゃ」
ツキナの手にひかれながら街中を疾駆する。
放送から聞こえた言葉を俺の耳は逃さなかった。
『先ほど、城で不貞を働いた輩がおりまーす。その者たちの素性や名前は国民に取り付けた呪縛の魔法を通して記憶に刻まれたと思うけど、そいつらを捕まえた人はなんと呪縛から解放し、王族階級を与えちゃうぞ』
おぞましい国内放送。
ツキナが言っていた余興の意味と彼を悪魔と弄する意味を理解した。
「やはりか。昔から変わらん性格じゃ! あの王子!」
ツキナは自分も経験をしていたかのような口ぶりで王子を罵って国の境界線の壁門まで疾駆する。だが、その前に二人の門兵が足止めをするように立っている。
「そこをどけぇえ!」
ツキナは門兵を風の魔法で吹き飛ばした。
開いた道筋を通り抜けて俺も後へ続いた。
『ちなみにこれは他国にも協力を要請するつもりでいるので鬼は頑張って逃げてねー。じゃあ、バイビー』
国を出て安心もできなかった。
息を切らしながら最後に聞いたその放送はおぞましい一言だった。
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