精神的敗北と逃亡
「私たちを利用して最初から同盟者を殺す手はずじゃったなジルレット」
「え」
王の冷ややかに向けられた視線に硬直した空気の中で開口一番にツキナが落ち着いた態度で目の前の悪逆の王子に問いただす。王子の返答はほくそ笑み、それが答えと言わんばかりの態度を示す。
続けて、馬鹿にするような拍手。
「そうだよ。君たちは亡国の皇女の目を欺くための駒さ」
「駒か。ふざけおって」
欺くための駒。
それはこの一連のすべてを王子は計画的に仕組んでいたということだった。
わざと、最初にユークラシオン帝国や自分たちを国へと招待させ、その後にユークラシオン帝国とツキナを拉致した。そのあとに町でいざこざを起こさせ、クーデター軍の侵攻も行い、俺もそれに同伴させたこと。
そのあと牢屋にぶち込んでタイミングを見計らってツキナと玉座の間に乗り込ませること。
すべてが同盟の皇女を殺すための演技だったのだ。
「あ、そうそう。ご褒美に彼女を返してあげるよ」
一人の兵士が柱の奥から一人の少女を引き連れて現れる。
兵士がそのまま抱えた女を放り捨てる。
それはユキさんだった。彼女の身はどこにもけがはなく低調に扱われたような感じに見えた。
意識はないのか眠っている。
地面に放り出されたユキを俺が抱きかかえる。
その状況を見てアーティーが文句を言いだした。
「おい! ジルレットの旦那、あの女は俺にくれるって――」
「アーティー何か文句でも?」
「っ!」
王子がおぞましいまでのあくどい殺気を放った。
一瞬にしてアーティーが黙りこくった。
黙ったままにこちらを終始にらむ。
「どういうつもりじゃ。私らをこのまま帰そうというのであるか?」
「そうだよ。僕にとっては君のような一度国を捨てた人にもうすでに興味なんてないからね。今の君たちが何をしようと僕に勝てるなんて思えないし。何せ僕にはもうこれがある」
彼は手に何か光る石のようなものを見せびらかし、強者の余裕を見せた。
実際、強さは目を見て明らかだった。同盟国のあのおぞましいまでの気配をしていた王女をアーティーが殺したとはいえその彼を使役して計画を練ったのは彼自身の手腕だ。
彼の強さという今の組織力は高い。
だが、このまま引き返して帰れるわけもない。
「お前たちの都合がどうであれ、俺はゆるさないぞ。民草へしている仕打ちやミストラーテさんへ行った行為は許せない!」
「ミストラーテ?」
「王子様、あの帝国騎士のことじゃとおもうぞよ」
「あー、そんな子いたね」
まるで軽い言葉でいう王子。
怒りにこぶしを強く握りしめて殴りかかろうとするがその行く手をツキナが押さえつけるとばかりに引き留めた。
「今はこらえろ」
「なんで!」
「あの者たち全員を一人で相手取る気か?」
「っ」
周囲のメンツを見て、冷静になり、怒りを鎮め落ち着かせた。
「ここはいったん引くのじゃ」
ツキナの言葉はただしく、俺はしぶしぶ彼女に従い、そのままその場を立ち去るようにして逃げた。
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