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地下監獄

大変お待たせしました。

外伝から本編に戻り、その1話目になります

 「――――」


 誰かの声が聞こえる気がする。

 ほほに何かひんやりとした冷たいものが伝う。

 薄ぼんやりとする意識。

 今の今まで何か長い夢心地にいたような感覚。

 重たい瞼をゆっくりと開くと見覚えのある顔が僕の目の前にあった。


「ツ……キナ……さん?」

「もう! しんぱいしたじゃろう!」


 彼女は涙声の混じった声色で怒鳴り返した。

 その彼女の声を聴いて本人だと自覚し、おのずと意識も覚醒し始めた。

 体を起き上がらせようとしたときに背中に激痛が走った。


「ぐっ!」

「まだ、回復できておらぬ。休んでおれ」


 彼女は僕の頭を自らのひざ元にのせる。

 どうやらずっと、彼女に膝枕されて眠っていたようだった。

 なんだか、申し訳ない。だが、体がうまく動かせずしぶしぶ従うしか行動できない。


「あ、あのココは……」


 自然と次に目が周囲の状況観察を行う。

 腐った匂いの充満する鉄格子の出入り口一つに狭く苦しい岩壁に囲まれた部屋に自分がいるのが把握できた。

 どこかの牢屋だろうか。


「神聖国イルシア城内の地下の監獄じゃよ」

「ということは僕、捕まったんですね」

「そうじゃ。つい数時間前にぼろぼろになったお主が怪物に引きずらててここに投獄されたのじゃ」

「怪物……」


 それはおおよそ記憶が確かであるのならば変わり果てたミストラーテさんに違いないと予想できた。


「くそっ、あんだけ啖呵きったのに結局僕は何もできなかった」


 悔しく、救えない自分のみじめな弱さにあふれ出る涙。

 僕は惨めな涙を隠すように顔を腕で隠した。


「何を悔しがる必要がある。主はわしを救うためにこうしてきてくれただけでも十分強いじゃろう」

「……そんなことありません。僕は結局昔のまま何も変わってない。弱いままなんです」


 突然に首が持ち上がったと同時に後頭部を強い衝撃が走る。

 僕は激痛に頭を押さえてうずくまる。次の腹に押しかかる重圧にうめき声を思わず上げた。

 腕を何かに引っ張られる。

 目の前には僕に馬乗りになってその腕をつかむツキナさん。


「何を情けなく弱気になっておるのじゃ! お主は勇者じゃろう!」

「いつの話をしているんですか。今の僕はもう勇者じゃない」

「情けないことをほざくでない! 今は勇者じゃない? じゃあ、今の主はなんのためにわしを助けに来たのは誰じゃ!? それだけじゃないあのトラバルト国の時に救ったのは誰じゃ!」

「それは……」


 彼女が何を訴えようとしているのか真意がわからず困惑したまなざしをツキナさんへ向ける。


「わしにとってあの時も今も主以外に勇者は知らぬ! その勇者が自分を勇者出ないなどと情けないことをいうんでない! わしをがっかりさせるな」

「っ」

「主は自信を持て。たとえ一回負けたくらいで何を弱気になる。主はそれまでに多くの民を救ったのじゃ。いくら勇者の称号がなくなったとしても主が積み上げた経験はまさに勇者のそれじゃ。誇りに思っておれ」


 彼女に強く叱責されて、悔し涙はどこかへと消えていた。

 同時に冷静になっていく。

 自然と自分が積み上げていた今までの経験を思い起こしていく。

 昔に一人さんが言ってくれた言葉が思い起こされた。

『お主は勇者だ。この世界でお主の功績を称えないのもおろう。だが、全員が全員ではない。この世界でお主の功績を認めてる人もいる。だから、前向きに考えてみたらどうじゃ?』

 自然と僕は強く自らの顔を叩いた。


「っ!? 次はなんじゃ?」

「ごめんなさい、ツキナさん。僕、いや、俺弱気になってました」

「ほう、顔つきが変わったの」


 『俺』は冷静に自らの体を見た。

 別に拘束というものはさほどされている様子は見受けられない。

 部屋には何かの仕掛けがあるというのが肌に感じた。

 魔力的なものを敏感に感じるのだ。


「ツキナさん、少々荒っぽくなりますけどあなたを今からここから出してあげます」

「なんじゃと? 手があるのか?」

「手なんてものじゃないですけどね」


 ゆっくりと鉄格子に近づいて微弱な魔力を流す。

 それだけで腕が吹き飛んだ。


「おい! 何をしておるのじゃ?」


 痛みに脂汗を流しながら僕はちぎれた腕を拾って切断面にくっつけて癒着する。


「だいたい、この部屋に仕掛けられた魔法がわかりました。わずかに魔力を流したり、衝撃や触れただけでも感知する爆散系の罠型の魔法が仕掛けられています」

「それがどうしたというのじゃ?」

「それなら、簡単な話です。俺は以前この手の魔法を得意としていた勇者とパーティーを組んでいたんです」


 いやにも呼び起こしたくない記憶だ。


「そのパーティーにいた勇者は言っていました。その罠系の魔法には仕掛けが発動した後に次ぎに再起動するまでにわずかな時間があると。その時間だけは普通のものになるんです。つまりは」


 この罠を仕掛けたやつは馬鹿だと思ってしまう。

 こんな罠の中に不死身の僕を入れたことを。

 僕はもう一度手を触れた。

 次のはさっきよりも勢いが強い爆撃。

 体にまで来た衝撃があったが、今までの数えきれないダメージで受けてきた傷に比べたら大したことはない。

 動く左手があればどうにでもなる。


「うぉおおおおお!」


 俺は爆撃を受けながら動いた左手に豪炎の魔球を作り出して打ち込んだ。

 激しい音が周囲を振動させる。もくもくと立ち上る煙の中で目の前の鉄格子の扉が破壊されていた。


「はぁ、はぁ」

「な、なんという無茶苦茶なやり方じゃ」

「さあ、ツキナさん行きましょう!」


 僕は彼女へと呼び掛けてすぐさまその場から脱出を始めた。


本作を読んでくださりありがとうございます。


前回は外伝版が長く続きまして、ようやく本編の現代に戻っての話になりました。

今回はあっという間の展開でしたが、この後も神聖国編終盤にかけて頑張ります。



次回掲載は2週間後以降を予定しています。




そのあたりで掲載を予定しています。


作者の都合でしばらく遅筆連載になります。大変恐縮ではございますが何卒宜しくお願い致します。



本作品を読んでくださった方々様、少しでもこのような拙い文章の作品ではございますが面白いと感じてくださったならブックマークよろしくお願いします。

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