クーデター作戦外伝 ミストラーテとの任務4
敵軍が去った後に僕は村人を治療した功績もあってか村人たちに迎え入れてもらえていた。
当初は煙がられていた空気であったが、村人を治療した功績は大きかったようであった。
村長だけが文句ある様子でいたが強引な村の勧めに村長も折れ、しばらく滞在を許可された。
「もう、勝手にしたらいい!」
とお達しも受けたのでしばらく敵があきらめるまで居座ることを決めたのだった。
今は村がこんなありさまであるので復興も兼ねた再建作業を手伝っていた。
「勇者様、本当にありがとうございます」
作業中に村人が言ってくれる感謝の言葉は何よりもうれしくって今までで一番勇者としての実感を感じていた。
充実に満ち足りていれば――
「勇者様! 少しよろしいですか―_」
魔王軍幹部が一時的に去った後に村長と話をしていたミストラーテさんが話を終えたのかどうやら戻ってきて僕に声をかけてきた。
何の用事があるのかわからず建物の屋根から降りて彼女のもとに歩み寄った。
「あのー、何かありましたか?」
「勇者様、ちょっと」
急に肩に手を回されて顔を近づけられる。
おもわず、女性に免疫のない僕は彼女のその強引な行動に緊張して思考が停止する。
「おじいちゃんとは話をつけたんですけど、どうにもまだ歯切れ悪くって。でも、私としてはあの魔王軍幹部を追い払うくらいはしたいって思っていて……勇者様聞いてますか?」
「あ、はい! 聞いてます!」
「ほんとうですか? 怪しいですよ」
「それより、ちょっと離れてください」
僕は彼女を突き放して一つ咳払いをする。
緊張していた体を落ち着かせるため。
一呼吸ついて僕は村の周囲全体を見渡す。
まだまだ、あちこち再建しなければならない箇所が残っている。
村人も治療のおかげで動けるようになっているとはいえまだ病み上がりな人ばかりだ。
「僕も幹部がまだ戻ってくるならこの村に残るのは同意です。それに僕は傷ついているこの村の人たちを勇者としては見過ごすことはできません。最後までこの村が復興する姿を見てみたいとも思ってます」
「勇者様!」
「それに僕は最初から残ることに同意しているから再建活動をしていたつもりだったんですけど」
「いやー、わかってはいても途中で帰ってしまうんじゃないかって不安がありましたから。それにカイム様のような勇者に頼んで間違いじゃなかったと改めて思えました」
「っ」
彼女が顔を赤くして垂れた表情で笑みを見せた。
その笑みに僕は思わず照れ臭くなった。
目線をそらして別の話題に切り替えた。
「そういえば、この村って国益として何か行っていたとかあったんですか? 魔王軍幹部に狙われるってよほどですよね」
僕はずっと気がかりだった疑問を彼女へと問いただした。
魔王軍は多くの戦争を引き起こしてるがそれはなにも無作為な行動的なものに見えて実は大きく要因があったりしている。
この世界はあらゆる村とか小さな町は大きな国へ利益となることをしている。
だからこそ、魔王軍の標的となったりしてその村がつぶされたり焼かれたりするのだ。
この村もまた何かしらの国益となることをしていたと思った。
「それはこの村は昔から帝国に農作物の輸出を行っていました。帝国の商会にこの村は登録もされていて村には帝国の商会の商人が数人住んでいます。それに帝国の冒険者協会に勤めてる冒険者も何人もいますのでそれが原因ですね」
「そういうことであったんですね。でも、それなら帝国にとっても損害になるから素直に救援部隊を送ってもいいですよね?」
今回の救援も王女は渋った態度でこうして僕たちを村に派遣していた。
ミストラーテさんが進言しなければ見捨てられていたも同然だ。
「それは帝国にとってこの村一つが消えた程度ではあまり大きな犠牲にはならないからだと思います」
「大きな犠牲にならない? でも、魔王軍が襲ってつぶしに来てるからには大きな犠牲になるのではないですか?」
「そういうわけではないです。そこがいまだに魔王軍の襲撃の謎の一端でもあるのです」
「え」
「村や町は確かに国益に従事しているのが当たり前です。でも、それはごくわずかなことなんです。潰したところで国としては多少食糧難や人材不足になる程度のこと。この戦時下ではただのその程度のことなら国は魔王の本拠地を探してそれらしい場所に派遣するのが最善策であるんです」
確かにミストラーテさんの言い分には理解をできた。
大きな戦争の最中にわざわざ一つの国を預かるものが小さきことを気にしていても問題解決にならないといいたいのと同義だろう。
「なのに、魔王軍はちまちまと村や町も潰しているんです。国によっては支援派遣をしていたりもしますが特に帝国にとっては一つの村や町など気にも留めません。帝国には多くの村や町を領土に入れてますからね。特にわが村のような輸出力が特に弱いところが潰されたくらいでは……」
彼女の言う魔王軍の襲撃の謎の言ってる意味がよく理解できた。
そのようなことをして魔王軍にとっての利益がまったくもって見えてこないということだ。
でも、あの魔王軍幹部をこの村に送ってくるくらいなのだから何か重要なことがあってもおかしくないと僕は考えた。
「ゲームとかなら協会に隠し扉かなんかあったり、隠された秘術がってオチがあるんだけどなぁ」
とおもわず思ったことを口走ってしまう。
それがミストラーテさんの耳に聞こえていたのか彼女が思い切り肩をつかんできた。
「勇者様! それですよ!」
「え」
「さすがは勇者様ですね! 目の付け所が違います! ちょっとこっちへついてきてください!」
「え、あ、ちょっと」
僕は無理やり連れていかれる。
ある半壊した建物の前にやってきた。
村で一番大きな建物だ。
「ここは……」
「今はこんな状態ですが教会です」
「教会……」
「でも、今は……」
彼女は教会の中に入るとそこには椅子の上に複数の白い朝布に包まれた死体だらけだった。
村の襲撃で死んでしまった人たちだろう。
村人の悲しい嗚咽に混じった鳴き声が所々で聞こえていた。
周囲からひりつくような憎悪に満ちた視線も感じた。
「あ、あの、ここに来ては僕たちまずいんじゃないですか?」
「そうは言いますが重要で見せたいものがあるんです!」
「見せたいものですか?」
「おい! 何をしているんだミストラーテ!」
そんな僕の疑問が一喝の怒声にかき消される。
後ろを振り返るとこの村の村長が鬼の形相で立っていた。
「お、お爺ちゃん。ちょっと気がかりなことがあるの。だから、教会の地下を見せて!」
「ふざけるでない! この場所は今は悲しみにくれた者たちを弔う神聖な場所じゃ! 貴様らのような卑劣で傲慢な帝国のやつが足を踏み入れていい場所じゃない!」
「ちょっとくらいいいじゃないですか! 村を救うためになるかもなんですよ!」
「帝国に落ちた孫の言葉など信じられるか!」
「むぐぐぐっ!」
事態の状況が芳しくない方向に進み始める。
周囲の憎悪に満ちた視線がさらに突き刺さる。
「うぇえええええん」
鳴き声が響いた。
僕ははっとして鳴き声の元を見たら。一人の女の子が泣いていた。
「お母さんが……寝てるの! お母さん……寝てる……静かにしてよぉおお」
ミストラーテさんと村長はばつが悪そうな顔でその場から離れた。
僕もあわててついていった。
「おじいちゃんごめんなさい。自分の立場を考えるべきだった」
「いや、こちらも熱くなった。それより、今はあの場所には立ち寄るのは勘弁してほしいのじゃ。わかるじゃろ?」
ミストラーテさんは納得のいかない表情をしていたが渋々と頷いた。
僕のほうに向くと。
「ごめん、さっきの話はなかったことにして」
というが何をしようとしていたのか見当もつかないうえに話を振られたこともないので僕はただ黙って頷いた。
「それよりも、奴らは今日はもう来ぬじゃろう。それに夕餉も近い。どうせ、居座るならはらむすいているじゃろうから一緒に食っていけ」
「おじいちゃん!」
ミストラーテさんがうれしそうな顔で頷いた。
僕もまた日の光が落ち沈んでいく光景を目にしながら村長に一言告げた。
「ご相伴に預からせていただきます」
今回は外伝編4話目です。
以前のあとがきでも話をしましたとおりに着想段階で少しばかり長めになるかもしれません。
もうしばし、カイムユウシとミストラーテの冒険をおつきあいください。
次回の掲載の話になりますが、また2週間明けで大変恐縮ではございますが掲載にさせていただかせてください。
申し訳ございません。
本作品を読んでくださった方々様、少しでもこのような拙い文章の作品ではございますが面白いと感じてくださったならブックマークよろしくお願いします




